映画コラム

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2020年11月20日

松竹映画100周年記念:『宇宙大怪獣ギララ』と寅さんの意外な関係?

松竹映画100周年記念:『宇宙大怪獣ギララ』と寅さんの意外な関係?



1920年より始まった松竹映画が今年で100周年を迎え(同社は1895年より歌舞伎などの演劇興行を始めるようになり、1920年11月8日に映画会社としての“帝国活動写真株式会社”を設立)、それを記念して現在、特別サイト「100年の100選」が設けられ、著名人から一般の方々まで含めたそれぞれの好きな松竹映画が多数紹介されています。

https://movies.shochiku.co.jp/100th/

《金曜映画ナビ》改め《配信映画ナビ》の記念すべき第1回も、これに倣って松竹映画をご紹介したいと思いますが、『カルメン故郷に帰る』『東京物語』『二十四の瞳』『蒲田行進曲』などのオーソドックスな映画史上に残る名作もいいけれど、今回はあえて少しラフに角度を変えて眺めてみましょう。

というわけで今回は、松竹映画100年の歴史の中で唯一の本格特撮怪獣映画とその関連作品をご紹介!

松竹唯一の特撮怪獣映画
『宇宙大怪獣ギララ』(67)



元来“大船調”と呼ばれる市井の人情にスポットを当てたヒューマニズムあふれる作品群に定評のある松竹映画。

しかし1960年代の半ば、東宝のゴジラ・シリーズに加えて、大映が『大怪獣ガメラ』(65)を発表し、これが大ヒットしてシリーズ化。

東映は怪獣メインではありませんが『大忍術映画ワタリ』(66)『黄金バット』(66)『怪竜大決戦』(66)などの特撮映画を連打。

またTVでは特撮ドラマ「ウルトラQ」(66)「ウルトラマン」(66~67)が放送開始されるなど、日本中に怪獣(第1次)ブームが巻き起こっていました。

こうした状況の中、松竹も黙って見てはいられないとばかりに製作し、1967年の春休み(3月26日)に公開した特撮怪獣映画が『宇宙大怪獣ギララ』(67)だったのです。

ちなみにこの時期、日活では本作の1か月後の4月22日に『大巨獣ガッパ』(67)を公開しています。

『宇宙大怪獣ギララ』のストーリーは……火星をめざす宇宙船がことごとく謎のUFO(当時は「ユー・エフ・オー」と呼んでいましたね)の妨害に遭って行方不明になっていく中、日本宇宙開発局・富士宇宙飛行センター(FAFC)は新たに原子力宇宙船(アストロ・ボート)AABガンマー号を打ち上げました。

まもなくしてAABガンマー号はUFOと遭遇するも、危機を回避すべく月ステーションに緊急着陸し、その後も隕石群およびUFOと邂逅して船体は大きく損傷するも何とか地球へ帰還。

その際、船のクルーらは噴射ノズルに付着した正体不明の発光体を採取し、地球に持ち帰ります。

しかし、この発光体は地上の電気や電子エネルギーを吸収しながら、やがて宇宙大怪獣ギララに変異&巨大化し、地球で猛威を奮い始めるのでした!

冒頭から圧縮原子燃料を引っ越しの荷物を運ぶかのように扱うなど、今ではありえないのどかな描写の数々には「時代だなあ」と痛感する他ないのですが、そういった良くも悪くものノスタルジックな感覚は特撮技術から美術、脚本、演出、音楽(いずみたくの楽曲は、後の『アンパンマン』シリーズを彷彿させる瞬間もあり)など多方面において微笑ましくうかがえます。

とはいえ、電子エネルギーを吸収してどんどん巨大化していくギララの設定そのものは、ハードSFとして企画を練り直せば、今の時代にも通用できるものではないかという声はあります(1990年代の頃、大友克洋が「ギララ」をリメイクしたら、すごいことになるのではないかといったマニアの声もあったりしたものでした)。

ギララの造型そのものもキモく、可愛く(頭についた2本のぼんぼりがチャーミング)、かっこよくといった三つ巴の魅力を備えており、そういった魅力を讃える声も昔も今も多数あるのです。

出演者の中に岡田英次のような名優が混じっているのが嬉しく、またよくよく見るとデビューして間もない時期の藤岡弘、(当時は句読点なし)の姿も見かけたりします。

またヒロインを務めたペギー・ニールは同時期に『海底大戦争』(66)や『クレージー黄金作戦』(67)にも出演して今もファンが多く、それが昂じて2018年に制作された『大仏廻国』(20)なる特撮新作映画で久々にその姿を銀幕に披露してくれました。

なお、松竹は本作のの後『吸血鬼ゴケミドロ』(68年8月14日公開)『昆虫大戦争』(本作の二本松嘉瑞監督作品)&『吸血髑髏船』(2本立てで1968年11月9日公開)といった世界終末思想もしくは怪奇テイストの特撮映画を連打しますが、その後は継続することなく路線は途絶えてしまいました。

何と『男はつらいよ』シリーズに
ギララが登場!?



しかし、ギララそのものは1980年代に入って、思わぬ形で日本中の松竹系の映画館を席捲することになります。

何と松竹が誇る名物レジェンド・シリーズ第34作『男はつらいよ 寅次郎真実一路』(84・松竹創業90周年記念作品)にギララが登場したのです!?

どういうことかといいますと、シリーズ恒例、冒頭で主人公の寅さん(渥美清)が見る夢のシーンはファンにとって毎度のお楽しみではあるのですが、このときは何と宇宙怪獣(ちなみにギララという名前は劇中では使われていません。宇宙生物が巨大化という設定のみ活かされています)が日本来襲!

首相(太宰久雄/何となく吉田茂をイメージしてるみたい)&官房長官(佐藤蛾次郎)は、15年前にこの日が来ることを予言したことから学界を追放されて世捨て人となり、筑波山麓に身を潜めて久しい車寅次郎博士(渥美清)のもとを訪ねて、未曽有の危機から世界を救うべく要請。

しかし、科学への過信が平和的な宇宙生物を凶暴な怪獣にしてしまったことを悔やむ車博士は、ついに筑波へ到達した怪獣(ちなみにこのとき首相は怪獣を「ゴジラ」と呼んで、皆から顰蹙を買います!?)に何を思うのか……?

この夢の結末は作品を直接見ていただくとして、ちょうど本作が作られた1984年の暮れ、東宝が久々に『ゴジラ』を製作して1984年12月15日に公開。

そして本作は同年12月28日公開と、実はちょっとした東宝VS松竹の怪獣対決が行われていたのでした!? 

ちなみに『男はつらいよ』シリーズの妹さくら役の倍賞千恵子ですが、実は『宇宙大怪獣ギララ』主題歌《月と星のバラード》のモノローグ部分を担当しています。

そして博(前田吟)の父親役の志村喬こそは、最初の『ゴジラ』(54)で山根博士を演じていた名優です。

このように、意外にも寅さんシリーズは怪獣映画との関連も深かったりするのでした。

さて、更に時を経て、井筒和幸監督作品『岸和田少年愚連隊』(96)の劇中、不良たちが本作を映画館で見ているシーンが出てきますが、これは当時井筒監督のメガホンでリメイク企画が進められていたこととも関係しているようです(企画はその後ぽしゃりました)。

結局、ギララはコミカル特撮映画の雄・河崎実監督のメガホンで『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』(08)として発表されましたが、ストーリー的には『宇宙大怪獣ギララ』との直接的な関係はない、コミカルな怪獣映画としてお披露目されました(そもそも井筒監督によるリメイク版の企画がコメディ仕立てであったとする説もあります)。

このように、今ではすっかりユーモアあふれるキャラクターが定着してしまった感もあるギララではありますが、先にも記したように、実はシリアスに展開させ得る要素も多々あります。

松竹の制作関係の方々、今こそギララをハードSF怪獣として蘇らせるというのはどうでしょう?

(文:増當竜也)

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