映画コラム

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2021年02月13日

『すばらしき世界』レビュー:斬新な姿勢で元ヤクザの生きざまを描いた人間ドラマ

『すばらしき世界』レビュー:斬新な姿勢で元ヤクザの生きざまを描いた人間ドラマ



■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」

このところヤクザを題材にした作品が微妙に増えてきている感があります。

ここ数か月だけでも井筒和幸監督の『無頼』、『ヤクザと家族』が公開されたばかり。

そんな中でもっとも異彩を放つとともに斬新なキャメラアイで元ヤクザの生きざまを描いた秀逸な人間ドラマが『すばらしき世界』であると断言できます。

西川美和監督と役所広司の初コンビ、見事なまでに大成功を収めています!

カタギになろうと腐心する
もう若くはない男の悲哀と狂気

『すばらしき世界』は、冬の旭川刑務所から一人の男が出所するところから始まります。



男の名前は三上正夫(役所広司)。

13年の長きにわたって投獄されていた彼は、久々のシャバで身元引受人の弁護士・庄司(橋爪功)とその妻(梶芽衣子)に優しくされ、思わず泣き出してしまいます。

人生も後半戦にさしかかり、高血圧の持病もあってこれからはゆっくりと、そしてカタギとして心を入れ替えて、残りの人生をやり直そうと心に誓っています。

そんな折、TV制作会社を辞めて生活に困窮している津乃田(仲村太賀)に、やり手のプロデューサー吉澤(長澤まさみ)から仕事の依頼が。



それは三上が社会復帰していき別れた母親と再会するまでのストーリーを構築した感動ドキュメンタリー番組を作るべく、彼を取材するというものでした。

津乃田は刑務所の受刑者の経歴を記した“身分帳”に目を通して、三上の過去を洗います。

福岡の母と4歳の時に生き別れ、10代半ばで暴力団に入って前科10犯を重ね、13年前にヤクザを日本刀でめった刺しにして殺したという凄絶な三上の過去……。



一方で、下町のおんぼろアパートで始まった三上の新生活。

しかし生来の気の短さや曲がったことが大嫌いな彼は、今の法律や都会の流儀にどうしてもなじめず、ストレスはたまり血圧も上がる一方で、時に多くの面前で声を荒げてしまうこともあります。

そしてある日、津乃田はチンピラふたりに絡まれているサラリーマンを助けようとした三上が、そのふたりを半殺しにしてしまうのを目の当たりにしてしまうのでした……。

結局、普通の生活など望むべくもないことを悟った三上は、昔馴染みの兄貴分で九州の暴力団組長(白竜)とその妻(キムラ緑子)の元へ身を寄せるのですが……。


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(C)佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

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