2021年03月01日

【決定版】『野球少女』から連想されていく、スポーツ映画の名作たち!

【決定版】『野球少女』から連想されていく、スポーツ映画の名作たち!


© 2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED

韓国映画『野球少女』は、その名のごとく“天才野球少女”と謳われる女子高校生チュ・スイン(イ・ジュヨン)を主人公とした青春野球映画の傑作です。

韓国では1996年から女性もプロ野球選手になれる規約があり、スインもプロ野球界入りを強く望んでいるものの、今なお巷にはびこる“女性”に対する偏見などから、なかなかトライアウト(プロテスト)を受けさせてもらえず、周囲からも夢をあきらめろと言われ続ける始末。

しかしスインは決して夢をあきらめずに練習を続け、また新しく野球部に赴任したコーチ、チェ・ジンテ(イ・ジュニック)が彼女の実力と強固な信念に気づいたことから、運命は大きく動きはじめていきます……。



「梨泰院クラス」でブレイクした韓国映画界の新たな期待の星イ・ジョユンが体現する純粋に夢を追い続けるひたむきな姿と、決して揺らぐことのない眼光の強さを持つスインを目の当たりにしたら、誰もが彼女を応援したくなることでしょう。

これが長編映画デビューとなるチェ・ユンテ監督(兼脚本)は、実に力強くも初々しく瑞々しい青春映画の傑作を世に放ってくれました。

<『野球少女』作品情報>
監督・脚本:チェ・ユンテ 
出演:イ・ジュヨン「梨泰院クラス」イ・ジュニョク「秘密の森」 ヨム・ヘラン「椿の花咲く頃」
2019年/韓国/韓国語/105分/スコープ/5.1ch/英題:Baseball Girl /日本語字幕:根本理恵 
配給:ロングライド 
© 2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED
2021年3月5日(金) TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
公式サイト:longride.jp/baseballgirl/
そこで今回は野球を中心に、思わず応援したくなるようなスポーツ映画をあれこれ紹介していきたいと思います。

スポーツ映画における
さまざまな形のヒーロー

スポーツ映画といえば、やはり見る側に夢を与えてくれるヒーローの存在は欠かせません。



野球映画だと、生涯通算本塁打数714本の記録を持つベーブ・ルースの生涯を描いた『ベーブ・ルース物語』(48)や『夢を生きた男/ザ・ベーブ』(92)。

“ニューヨーク・ヤンキーズの誇り”とも謳われる伝説の一塁手ルー・ゲーリック(ゲイリー・クーパー)の37歳の短い生涯を描いた『打撃王』(42/ちなみにこの作品にはベーブ・ルースも本人役で出演)といった作品もありますね。

フィクションでは、ロバート・レッドフォード扮する天才野球選手ロイが不幸な事件によってプロ野球界入りが遅れ、35歳にして奇跡のルーキーとしてメジャーリーグで活躍するバリー・レヴィンソン監督の『ナチュラル』を強く推したいと思います。

アメリカでは野球同様に人気のスポーツ、アメリカン・フットボールを題材にした作品にも名作はいっぱいあります。



高校時代にレギュラーになれなかった主人公がアメフトの名門大学に入って奇跡の活躍を果たす『ルディ/涙のウィニング・ラン』(93)や、無職で貧乏なダメ男ヴィンス(マーク・ウォルバーグ)がフィラデルフィア・イーグルスに入団して大活躍する『インヴィンシブル 栄光へのタッチダウン』(06)など、こちらも実話の映画化がいっぱい。



ボクシングに目を向けると、これはもうシルヴェスター・スタローン主演の『ロッキー』シリーズ(76~06)にとどめを刺すしかないですね。

その後『クリード』シリーズ(15・18)というスピンオフを経て、現在スタローンは何と『ロッキー7』を企画中!? ただし今回は不法移民の若者を応援するロッキーの冒険ストーリーになるとのこと(さすがにもう試合はやらない?)。



『ロッキー』『ロッキー5』を監督したジョン・G・アヴィルドセン監督のもうひとつの大ヒット・スポーツ映画が『ベスト・キッド』シリーズ(84・86・89)。

気弱な少年ダニエル(ラルフ・マッチオ)が日系人ミヤギ(ノリユキ・パット・モリタ)から空手を習って人間的にも成長していく過程が全3作に渡って描かれていきます。



この後、ミヤギが少女(ヒラリー・スワンク)に空手を教える『ベストキッド4』(94)と、ジャッキー・チェンを指南役に空手から中国武術に代えた1作目のリメイク版『ベスト・キッド』(10)もあります。

さらには主人公と敵対していた男ジョニー(ウィリアム・ザブカ)の38年後を描いた配信ドラマ「コブラ会」が、現在世界的に大ブレイクしています。


実話を基に繰り広げられる
多くのスポーツ映画

スポーツ映画は実話の映画化が多いのが特徴ともいえますが、それだけ人々が感嘆するにたる奇跡が具現化されることが多いことの証左なのかもしれません。



ただ、ここではあえてスポーツのマイナス面を描いたジョン・セイルズ監督の野球映画『エイトメン・アウト』(88)を最初にご紹介しておきましょう。

これは1919年に起きたシカゴ・ホワイトソックスの賭博がらみの八百長試合“ブラックソックス事件”の全貌を描いたもの。

このとき事件に加担したとされる8人の選手のひとり“シューレス・ジョー”ことジョー・ジャクソンに向かってファンの子どもが「ウソだと言ってよ、ジョー!」と叫んだ逸話も有名です。
(実は当時の新聞記者による捏造記事に尾ひれがついたものだったのですが、現在も球界にスキャンダルが起きるたびにこのフレーズはよく使われています)。



実話を基にしたボクシング映画で異彩を放つのが、マーティン・スコセッシ監督の『レイジング・ブル』(80)でしょう。

実在のミドル級ボクサー、ジェイク・ラモッタの半生を描いた本作、モノクロで繰り出される重苦しくも美しい映像センスの中、自らの猜疑心によって家族や仲間たちの信頼をなくしていく主人公の破滅感が嫌になる程描かれていました。

35キロ体重を増やして引退後のシーンに臨んだロバート・デ・ニーロは、本作でアカデミー賞主演男優賞を受賞しています。



ノーマン・ジュイスン監督『ザ・ハリケーン』(99)は、無実の罪で30年間も投獄された黒人ボクサー、ルービン“ハリケーン”カーター(デンゼル・ワシントン)の激動の人生を描いた人間ドラマ。



『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』(17)はフィギュアスケート界を揺るがす大事件“ナンシー・ケリガン襲撃事件”の中心人物トーニャ・ハーデング(マーゴット・ロビー)の壮絶な半生をブラックユーモア混じりの軽妙なタッチで映画化したものでした。

そろそろ、アメフト映画で少し明るさを取り戻しましょうか!?



人種差別問題が白熱していた1970年代のヴァージニア州アレクサンドリアの州立高校で白人と黒人の混合チームが幾多の困難を乗り越えて、州のチャンピオシップで優勝を果たす『タイタンズを忘れない』(00)は、再び人種問題が大きくクローズアップされている今こそ見ていただきたい作品です。



クリント・イーストウッド監督『インビクタス/負けざる者たち』(09)は、南アフリカ初の黒人大統領ネルソン・マンデラ(モーガン・フリーマン)がアパルトヘイト撤廃後も根強く残る人種間対立問題を融和化すべく自国でラグビーW杯を催し、フランソワ(マット・デイモン)率いる南ア・チームが見事に優勝するまでの奇跡を映画化したものでした。



ラグビーといえば、日本から関本郁夫監督の『スクールウォーズ HERO』(04)を。

これは人気テレビドラマ「スクール・ウォーズ」シリーズと同じ京都市立伏見工業高等学校ラグビー部とその監督をモデルにしたノンフィクション小説の映画化で、こちらのほうがより原作の世界観に近いものになっています。主人公の熱血教師には照英が扮しました。



走ることで栄光を勝ち取って真のイギリス人になろうとするユダヤ人エイブラムズ(ベン・クロス)と、神のために走るスコットランド人牧師リデル(イアン・チャールソン)、ふたりの陸上選手が1924年のパリ・オリンピックに出場する『炎のランナー』(81)は、第54回アカデミー賞作品層を受賞。

ヴァンゲリスのシンセサイザー音楽も、当時大きな話題になりましたね。


スポーツを通しての
人と人との熱い絆

スポーツそのもののドラマとは少し視点をずらしたところでの、スポーツを大きなアイテムとするヒューマン映画も多数存在します。



フィル・アルデン・ロビンソン監督の『フィールド・オブ・ドリームス』(89)は、主人公の農夫(ケヴィン・コスナー)がふとどこかしら聞こえてきた“謎の声”に応じてトウモロコシ畑の一部に小さな野球場を作ったところ、そこにジョー・ジャクソンをはじめ次々と時空を超えて伝説の野球選手たちが現れるというヒューマン・ファンタジーの名作。

ちなみにケヴィン・コスナーは本作以外にも『さよならゲーム』(88)『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』(99)『ドラフト・デイ』(14)と、野球を題材にした名作への出演が目立つスターでもあります。



『人生の特等席』(12)は、メジャーリーグのアトランタ・ブレーブスの老スカウトマン(クリント・イーストウッド)と娘との間でわだかまっていた関係が緩和されていく様を描いた“父と娘”の映画でした。



SFファンタジー『オーロラの彼方』(00)では、1999年の青年ジョン(ジョン・カヴィーゼル)が30年前に殉職した若き日の父フランク(デニス・クエイド)と時空を超えて無線で繋がり、父子の会話を交わしていきます。

この息子、何とフランクがやたらと1969年当時のニューヨーク・メッツのことばかり話すことから、彼が自分の父親だと悟るのでした。

野球によって父と子が通じあっているケースが往々にしてある、アメリカを象徴し得たユニークな設定でもあります。



昨年、コロナ禍にも関わらずクリーンヒットを飛ばした城定秀夫監督の日本映画『アルプススタンドのはしの方』(20)は、甲子園に出場した高校の生徒らがアルプススタンドで一生懸命応援している中、その熱狂をよそに端っこの方でたむろしている高校生たちの姿を描いた青春群像劇の傑作。



岩崎夏海のベストセラー小説でその名の通りの内容『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』、通称『もしドラ』も2011年に映画化されています。今振り返ると前田敦子&峯岸みなみを筆頭に瀬戸康史、池松壮亮、川口春奈など今を時めくキャスティングがなされていました。



『ルディ』のデイヴィッド・アンスポー監督の出世作『勝利への旅立ち』(86)は、インディアナ州の田舎の高校バスケットボール部の栄光を描いた実話の映画化です。

と同時に、これはコーチに扮するジーン・ハックマンを筆頭に、バーバラ・ハーシー、デニス・ホッパーら数々のアメリカン・ニューシネマの名作群に出演していた名優たちが、それぞれ若き日の挫折を乗り越えて再生していく様を描いたオールド・パワーの復権を促す作品でもありました。



クリント・イーストウッド監督の『ミリオンダラー・ベイビー』(04)も、前半こそ女子ボクシングを題材にしたスポーツ映画としての躍動が魅力的に描かれています。

ところが後半、何とヒロイン(ヒラリー・スワンク)が試合で全身不随となって以降は“尊厳死”をモチーフとする内容へと変貌していくことで激しい賛否両論を巻き起こした、文字通りの問題作でした。



ケン・ローチ監督のコメディ『エリックをさがして』(09)では、人生のどん底にあえぐ中年男(スティーヴ・エヴェッツ)の前に、何と地元マンチェスターの英雄でもあるエリック・カントナが現れ、数々のウンチクある発言で勇気をもらった彼は、その後の難局を乗り越えてゆきます。

社会派として知られる名匠ケン・ローチ監督ではありますが、実は大のサッカーファンで、一度はこういった映画を作りたかった!?


ユニークさも感動もある
おもしろスポーツ映画たち

ここでちょっと変わり種の面白スポーツ映画をいくつか紹介していきましょう。



『ミスターGO!』(13)は、中国のサーカス団にいたゴリラが、団の借金返済のために何と韓国プロ野球最下位のチームに入団して大活躍する奇想天外のコメディ。日本からオダギリジョーも出演しています。

動物ものではほかにもカンガルーがボクサーになる『マチルダ』(81)や少年サッカーチームに所属しているスポーツ万能犬の活躍を描いた『2002ワンワンカップ』(00)などもありますね。



活劇の帝王ロバート・アルドリッチ監督の『ロンゲスト・ヤード』(74)は刑務所を舞台に囚人(バート・レイノルズ)VS看守チームのフットボール対決が熱く激しく描かれた傑作で、2005年にはリメイクもされています。



そのサッカー版ともいえるのがバリー・スコルニック監督の『ミーン・マシーン』(01)で、ここではイギリスの刑務所を舞台に囚人VS看守チームのサッカー試合が繰り広げられていくのでした。



一方、日本映画界の活劇アルチザン岡本喜八監督は、戦後のヤクザ同士の抗争を何と野球で解決しようという『ダイナマイトどんどん』(78)を発表。

ここではトンデモな喧嘩プレイの数々が見る者を大いに沸かせながら、戦争そのものへの非までも打ち出してくれています。



ジョン・ヒューストン監督の『勝利への脱出』(80)は第2次世界大戦下のドイツ軍が管轄する連合軍捕虜収容所を舞台に、プロパガンダを目的とするドイツ軍VS捕虜(シルヴェスター・スタローン、マイケル・ケインら)チームのサッカー試合を利用して脱走計画を企てるというもの。

試合シーンでは20世紀を代表する名選手ペレが登場し(本作サッカー・シーンのテクニカル・アドヴァイザーでもあります)、あの伝説のバイシクル・キックを披露するというお宝ショットまで拝めます。



おもしろサッカーの代表格といえば、チャウ・シンチー監督・主演の『少林サッカー』(01)。

「ありえねー!」と呆れかえりつつも、大笑いのミラクルシーンが続出する奇想天外サッカー映画です。



島本和彦原作漫画の実写映画化『逆境ナイン』(05)もまた「そんなバカな!」の連続で見る者を呆然自失とさせてくれる、熱血にもほどがある高校野球映画。

玉山鉄二が大真面目に熱血バカ投手を演じ、ヒロインの堀北真希が可憐です。



本作の羽住英一郎監督は『おっぱいバレー』なる、これまたキテレツながらも一大感動(?)のスポーツ映画を撮っています。

うっかり「優勝したらおっぱいを見せてあげる」と約束させられてしまった顧問の女性教師(綾瀬はるか)の忸怩たる想いをよそに、“バカ部”の汚名を返上して練習に励む中学男子バレーボール部部員たちの一大奮闘記!?

しかも、何とこれもまた、実話を基にした映画でもありました!?


スポーツで輝き続ける
さまざまな女性たち

では最後に、やはり『野球少女』から始まった本稿ですから、女性が大活躍するスポーツ映画をいくつかご紹介して終わりたいと思います。



1943年から54年までアメリカに創設されていた全米女子プロ野球リーグを題材とした『プリティ・リーグ』(92)は、ジーナ・デイヴィスやマドンナなど錚々たる顔ぶれで当時の偏見や差別に立ち向かっていく感動作でもあります。



弱小リトルリーグに天才ピッチャー少女(テイタム・オニール)が入団したことから奇跡が舞い込んでくる野球映画の決定版『がんばれ!ベアーズ』(76)はシリーズ化されましたが、残念ながら少女の出番は1作目のみ。

以降は、もうひとりの立役者でもある不良少年(ジャッキー・アール・ヘイリー)を主人公とする内容へシフトしていきました。

(なお、1979年にはTVシリーズ化され、2005年にはリメイク映画も制作)



日本でも『がんばれ!ベアーズ』に倣えとばかりに制作されたのが、日本プロ野球史上初の女性投手・水原勇気の活躍を描いた『野球狂の詩』(77)。

もちろんこれは野球漫画の神様・水島新司の同名漫画を原作としたフィクションですが、演じる木之内みどりの見事な左利きアンダースローのフォームの美しさは、いつ見てもほれぼれするほどです。



日本映画は女性を主人公にしたスポーツ映画が意外に多く、『甦れ魔女』(80/バレーボール)『YAWARA!』(89/柔道)『卓球温泉』(98/卓球)『がんばっていきまっしょい』(98/ボート競技)『ヒロイン!なにわボンバーズ』(98/バレーボール)『ドラッグストア・ガール』(03/ラクロス)『シムソンズ』(06/カーリング)『フライング☆ラビッツ』(08/バスケットボール)『武士道シックスティーン』(10/剣道)『綱引いちゃった!』(12/綱引き)『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(17/チアリーデイング)などなど……。

ぱっと思いつくだけでも、これだけ挙がってきます。



大学生相撲を題材にした周防正行監督の『シコふんじゃった。』(91)も、実は女性の活躍抜きには語れない名作でした。



女子ボクシングものとしては、日本代表として安藤サクラ主演『百円の恋』(14)を、アメリカ代表としてミシェル・ロドリゲス主演『ガール・ファイト』(00)を挙げたいと思います。



そしてもし、独断と偏見で良いので女性スポーツ映画の最高峰を1本だけ挙げろ!と言われたら、迷わずロバート・アルドリッチ監督の遺作『カリフォルニア・ドールス』(81/リバイバル題は『カリフォルニア・ドールズ』)を推します。

女子プロレス界を舞台にしたタッグ・チーム“カリフォルニア・ドールス”のふたり(ヴィッキー・フレデリック&ローレン・ランドン)と老マネージャー(ピーター・フォーク)の巡業の旅をロードムービー感覚で描きつつ、人生の侘び寂びと迫力ある試合シーンとのメリハリを絶妙につけたスポーツ映画史上に残る名作です。

以上、各項目ごとに実際は1冊の本ができるほど膨大な数が存在するスポーツ映画ではありますが、今回『野球少女』なる快作の日本公開をきっかけに、野球はもとよりさまざまなスポーツ映画の扉を開いてみるのはいかがでしょうか。

もちろん実際に、そのスポーツに挑戦してみるのも大いに結構です!

(文:増當竜也)

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