映画ビジネスコラム

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2021年05月27日

【考察】『007』のMGMをAmazonが買収へ|コロナ禍はハリウッドメジャーをも飲み込むのか?

【考察】『007』のMGMをAmazonが買収へ|コロナ禍はハリウッドメジャーをも飲み込むのか?



『007』『ロッキー』と言った大ヒットシリーズを抱え、オープニングロゴでライオンが吠えることでもお馴染みのハリウッドメジャーの一角MGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)。

そんなMGMをインターネット通販大手のAmazonが84億5000万ドル(約9200億円)で買収することを発表しました。

MGMとは?



MGM(一時期はMGM/UA)は1924年に設立されたハリウッドメジャーの一角。メトロ・ピクチャーズ・コーポレーションとゴールドウイン・ピクチャーズ、ルイス・B・メイヤー・ピクチャーズの三者が合併したものでMGMはその頭文字をとったものです。

『風と共に去りぬ』や『オズの魔法使い』『雨に唄えば』『ベン・ハー』と言った映画史に残る名作を作り、80年代以降は『007』や『ロッキー』など製作していました。

現在、ハリウッドメジャーと呼ばれる会社はパラマウント・ピクチャーズ、ユニバーサル・ピクチャーズ、ソニー・ピクチャーズ・エンターテイメント、ワーナー・ブラザース・エンターテイメント、(20世紀FOXを買収した)ウォルト・ディズニー・スタジオの5社ですが、MGMはその歴史からこれらに次ぐ存在感と実績を築いている老舗スタジオと言えます。

しかし、その一方で大作主義に固執したことから経営難に陥ることも多々あり、ソニー・ピクチャーズからの資本提携を受けたり、権利関係を切り売りするような形を続けたりと、綱渡りの会社経営を続けていました。

そのため、近年の場合日本では『ロッキー』シリーズから派生した『クリード』は日本ではワーナー・ブラザースが配給し、『007』シリーズはソニー・ピクチャーズが配給したりしています。

ハリウッドを直撃した新型コロナウィルス



全世界的にパンデミックを起こしている新型コロナウィルス。

アメリカは、多くの感染者・死者を出してしまい、様々な面で大打撃を受けました。

当然、ハリウッドに代表されるアメリカ映画界も大きな影響を受けました。(主要都市部の)映画館の営業は止まり、これは一年近い期間に及びました。

当然、公開予定だった大作映画はことごとく公開延期となります。

日本でも多くの映画が緊急事態宣言を受けて、撮影・製作が遅れたり、公開規模が確保できなかったりといった理由で公開延期になる作品が多く出ました。

これが、ハリウッド映画であるとアメリカ(北米地区)だけでなく、世界全体を市場にすることを前提にして作られているために、公開延期となるとそのビジネススケールからくる損失は非常に大きなものになってしまいます。

仕方がなく、ディズニー・ピクチャーズは一部作品を傘下の動画配信サービスDisney+での単独配信(プレミア配信)に切り替えたり、ワーナー・ブラザースが傘下の動画配信サービスHBOMAXと劇場のハイブリッド公開に踏み切ったりしました。

映画というものは基本的に先行投資型のもので、制作費から広告費まで先に投下して、これを公開後のチケット代、ソフト化した時の売り上げなので回収しつつ、利益を上げるものです。この先行投資の部分を軽減するために、時にはスター俳優のギャランティも後払い(出来高払いのような形)にして、先行投資の枠から外すようにするような防衛策が取られたりもしてます。

これは新型コロナウィルスのウィルスの感染拡大により公開が延期されていても同じことで、最低限の告知(宣伝)は続けなければいけません。一言で宣伝と言っても世界全体を市場としているハリウッド映画は全世界への宣伝と言うことになり、そこにかかるコストは数億ドル単位になるものになります。これが一年以上の公開延期となるとボディーブローのように会社本体の経営をじわじわと、しかし確実にダメージを蓄積させていきます。

多くの関連企業体の一角であるハリウッドメジャーは総合的な形で利潤を上げ、損失を埋めることができますが、資本力が弱く経営体制の弱い会社はひとたまりもありません。

MGMはそんな会社の一つでした。近年では“大ヒットシリーズの新作の世界的なヒットを当てにした経営”が続いていたMGMは、新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、この経営スタイルがキープできなくなりました。

致命的だった『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』の公開延期



MGMにとって命綱だったのが人気シリーズ『007』の最新作『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』でした。

ダニエル・クレイグのジェームズ・ボンドの5作目であり、“クレイグボンド最終作”でもあるこの映画は、悪役に『ボヘミアン・ラプソディ』のラミ・マレックが起用されたほか、新たに007のコードネームを持つキャラクターに新鋭のラシャーナ・リンチが、他過去シリーズからレイフ・ファインズ、ベン・ウィッショー、ナオミ・ハリス、ジェフリー・ライト、クリストフ・ヴァルツなどが登場。

日系3世のキャリー・ジョージ・フクナガ監督が起用されたことも話題になっているほか、あのビリー・アイリッシュが主題歌を担当してます。。

『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』は当初2020年4月に全世界で公開、日本でも4月10日公開予定とされていました。しかし、ここで新型コロナウィルスの感染拡大が起きてしまい同年11月に公開予定に延期となります。

これがさらに2021年の4月(この時点で1年延期)に、さらにさらに2021年10月への延期と当初の公開予定から1年半以上の年月がかかってしまうことになっています(しかも10月の公開が確実になっているわけでもありません)。

こんな状況ですが、この間にも『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』についての最低限の宣伝活動は全世界規模で行われ、コストは積みあがっていきました。

傘下に配信サービスを持たないMGMは、かかり過ぎる経費の回収と、映画公開について先行きが見えないことからAppleTV+やNetflixに『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』のライセンス売却を提案したりといった動きを見せていました。

この時はMGM側が提案した額面が、想定外の金額(高すぎた)だったために破談となりましたが、この動きはMGM自体の経営難を大いに感じさせるものでした。

そして、Amazonによる買収へ、『007』はどうなる?



AmazonによるMGMの買収の噂は数日前から伝わってきましたが、遂に正式発表となりました。

Amazonは動画配信サービスのAmazon Prime Videoを展開していますが、オリジナリティという点では同業他社のNetflixなどにやや後れを取っている部分がありました。

それでも今年のアカデミー賞に『サウンド・オブ・メタル』や『続ボラット』『あの夜、マイアミで』を送り込むなど攻勢に転じていました,

そして、今回のMGM買収によって、Prime Videoのサービスラインナップ内にMGMの映画作品を追加することでPrime Videoのオリジナリティを強化し、さらに主にテレビ番組制作を担ってきたAmazon Studiosの役割を強化し、映画事業をさらに展開させていくと思われます。

MGMが保有する4,000本以上の映画作品、17,000本以上のテレビ番組はもちろん、『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』、レディー・ガガ主演の『ハウス・オブ・グッチ』、ポール・トーマス・アンダーソン監督のタイトル未定の新作などもAmazonは今回の買収で権利を保有したとのことです。

映画ファンとして気になるのはやはり『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』の行方ですね。過去にAmazon Studiosが手掛けてきた映画は劇場公開されたのちにAmazon Prime Videoにて配信されるものもあれば、直接Prime Videoで配信されるものもありバラバラです。

すでに公開されて予告編から見ると、ド迫力のアクションが満載のようなので、映画館、できればIMAXなどのラージフォーマットで見たいところなのですが、果たしてどうなるのでしょうか?

これまでにかかったコストなどを考えると劇場公開の可能性も低くないとは思うところですし、プロデューサーは劇場公開の可能性についても言及していますが、果たして?

 (文:村松健太郎)

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