2021年05月29日

『明日の食卓』『女たち』『茜色に焼かれて』etc……今、日本映画の女優たちがすごいことになっている!

『明日の食卓』『女たち』『茜色に焼かれて』etc……今、日本映画の女優たちがすごいことになっている!


■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」

過酷な状況が続いて久しい日本の映画業界ではありますが、作品そのものをきちんと注視していくと、着実に傑作秀作快作が続々と生まれていることに気づかされます。

その中でふと気づかされるのが、女優陣の頑張りによって支えられている作品が多いこと。

5月28日に公開されたばかりの『明日の食卓』と6月1日公開予定の『女たち』も、そうした状況を大いに象徴し得ている作品です。

今回はこの2本を中心に、最近の日本映画界の女優たちの奮闘を見ていくことにしましょう。

『明日の食卓』が示唆する「子は天使ではなく母は女神ではない」こと



息子を殺したのは私ですか――?

こんなショッキングながらもどこか意味不明で謎めいたキャッチコピーがつけられた映画『明日の食卓』は、椰月美智子の同名小説を原作に、昨年『糸』を大ヒットさせた瀬々敬久監督のメガホンで映画化したものです。

ここには3人の母親が登場します。



神奈川在住で10歳の息子・悠宇と次男を持つ石橋留美子(菅野美穂)は、結婚前のフリーライターの仕事を復活させたばかり。

大阪在住で10歳の息子・勇を持つ石橋加奈(高畑充希)は、シングルマザーとしてアルバイトを掛け持ちして生計を立てています。

静岡在住で10歳の息子・優を持つ専業主婦の石橋あすみ(尾野真千子)は隣に住む姑に気を使いつつも恵まれた環境にはあります。

この3人の女性たち、たまたま“イシバシ・ユウ”という名前の10歳の男の子の母親ということで共通していますが、他に何か接点があるわけではありません。
(ただし加奈とあすみは、留美子のママさんブログのフォロワーではあります)

そして、それぞれがそれなりに幸せな家庭を築いているように思えていたものが、母の想いと子の想いが微妙にすれ違っていくことから徐々に歯車が狂い始め、やがては……!?

一見穏やかに進んでいたかのようなホームドラマ感が、気づくと壮絶なまでにリアルで過酷な状況へと追いやられていくのには仰天するほどではありますが、そこで冒頭に記したキャッチコピーの意図に気づかされていく作品であり、ネタバレ厳禁の極上ミステリであり、そして子どもは決して天使ではなく、母親は決して女神ではないことをとことん思い知らされる重厚な人間ドラマでもあります。
(見終わって救いがあるのか否かは、どうぞご自身の目でお確かめください!)

何よりも、ここで母親を演じる3人の女優たちそれぞれの見事な演技と存在感!

映画は少しご無沙汰だった菅野美穂ですが、今回は見ているこちらが戦慄するほどに、子育てに伴う喜怒哀楽の感情を身体全体で体現してくれています。



世代的には他のふたりより少し下となる高畑充希は新境地ともいえる役柄で、複雑な家庭環境にあらがいつつ、ふと明るさの奥に潜む孤独と不安をよぎらせる瞬間もお見事。

そして尾野真千子ですが、どこか自分に自信が持てないのを隠すかのように我が子を盲愛していく母の行く末をスリリングなまでに演じきっています。

特に彼女の場合、現在公開中の石井裕也監督の傑作『茜色に焼かれる』(21)では肝の座ったシングルマザーを好演しているだけに、それとは真逆の姿に驚かされることでしょう。



社会的題材に重厚な人間ドラマを組み込むことに長けている鬼才・瀬々敬久監督の作品は、時折その才気が走りすぎてしまうきらいもありますが、今回は家族というモチーフゆえか、誰も戦慄しつつ納得し共感もできる逸品に仕上がっているように思えます。

特に今、子育て真っ最中の母親の方々ならば、劇中の3人それぞれの喜びも悲しみも分かち合えるのではないでしょうか。

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(C)2021「明日の食卓」製作委員会 / (C)映画「女たち」製作委員会

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