2021年06月06日

『グリーンランド―地球最後の2日間―』レビュー:世界崩壊の48時間に伴う「覚悟」のシミュレーション・パニック映画!

『グリーンランド―地球最後の2日間―』レビュー:世界崩壊の48時間に伴う「覚悟」のシミュレーション・パニック映画!



■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

久々のディザスター系パニック映画ですが、こうしたジャンルは時と場合によって忌避されがちな傾向もあります。

では、今は?

これが意外と見ていてハマるというか唸らされるというか、本作そのものは『妖星ゴラス』(62)『メテオ』(79)『ディープ・インパクト』(98)『アルマゲドン』(98)などの路線に連なる巨大隕石落下がもたらす世界崩壊の危機を描いたフィクションではあります。

ただし、それを目撃するのがいつ心の世界が崩壊してもおかしくはないような忸怩たる現代社会で暮らす私たち観客のメンタルを大いに刺激し、いつしか主人公らとともに決死のサバイバルを疑似体験していくことになる分、リアル感もハンパなものではありません。



しかもこの作品、たとえば『大空港』(70)『ポセイドン・アドベンチャー』(72)『タワーリング・インフェルノ』(74)『大地震』(74)『カサンドラ・クロス』(76)『スウォーム』(78)など1970年代に大流行したパニック超大作のようなオールスター・キャストを駆使しての映画的ゴージャス感よりも、「もし今このようなことが起きたら?」といった恐怖と不安のシミュレーション感覚が前面に押し出されています。

そして本作の中で生き残る資格を得られるのは「政府に選ばれた人たち」のみという非情な現実が突きつけられますが(『ディープ・インパクト』でも最終的に同じ決断が下されますが、シビアに考えるとそうならざるを得ないものなのか……?)、これによって選ばれなかった側のパニックは当然として、選ばれた側のエゴみたいなものまであぶり出されていきます。

その意味では見ていてあまり気持ちもよろしくなかろうと思いきや、本作は「家族の絆」という私たち観客が一番ほだされてしまう設定をベースに話を進め、また要所要所のスペクタクルやサスペンスの盛り込み方にも怠りはないので(多少ご都合主義的な部分は目をつぶりましょう)、結果としてはパニック映画の王道を鑑賞しているかのような錯覚を覚えられることでしょう。



何よりもタイムリミット48時間、政府の選民政策そのものに対する批判などはさておき、自分が選ばれたとしたら? 選ばれなかったとしたら? それぞれどのように行動するだろうといった「覚悟」のシミュレーションを実践することが大いに可能な作品です。

ジェラルド・バトラーとモリーナ・バッカリンといった主演陣以外、日本ではさほど著名なキャストが見受けられないのは『ツイスター』(96)『デイライト』(96)『ダンテズ・ピーク』(97)『ボルケーノ』(97)など1990年代に再流行したときのパニック映画群の韻を踏んでもいますが、それだけに名優スコット・グレンがさりげなく登場したときは、それだけで思わず心にホロリと来るものがありました。

いぶし銀ではあれ、パニック映画にはある程度のスターが存在してほしいものと思う私は、やはり1970年代パニック映画の洗礼から抜けられない世代のようです。

(文:増當竜也)

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