2021年07月29日

『イン・ザ・ハイツ』レビュー:さまざまな差別と偏見を乗り越えるためのミュージカル=エンタテインメント!

『イン・ザ・ハイツ』レビュー:さまざまな差別と偏見を乗り越えるためのミュージカル=エンタテインメント!



■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

ミュージカルというジャンルは、単に歌って踊って楽しく華やかに繰り広げるものだけではなく、社会に対するメッセージを歌と踊りに盛り込みながら観客の意識を向上&啓蒙させていくという、真のエンタテインメントとしての醍醐味をも内包していると常々確信しています。

特にアメリカでは古くからキリスト最期の七日間を反骨ロックで謳いあげながら神と人の関係性を描いた『ジーザス・クライスト・スーパースター』(73)や、おなじみ「オズの魔法使い」の世界を黒人キャストのみでミュージカル化した『ウィズ』(78)、ヴェトナム戦争反戦ミュージカルの映画化『ヘアー』(79)、20世紀前半アルゼンチンのファーストレディ、エヴァ・ペロンの波乱の人生をマドンナが熱演した『エビータ』(96)、最近でも実在したサーカス王の半生を通して不遇な境遇に置かれた人々の凱歌を力強く訴えた『グレイテスト・ショーマン』(17)などなど、「社会派」なる冠をつけてもよいほどの優れたミュージカル映画を輩出し続けています(これらの大半はブロードウェイ・ミュージカルの映画化)。

本作『イン・ザ・ハイツ』も「人種のるつぼ」たるアメリカの現実を鋭く見据えながら、「移民の街」ワシントン・ハイツで生きる若者たちがさまざまな逆境に立ち向かいながら夢と青春を謳歌していくさまを力強い歌とダンスでパフォーマンスしていく逸品です。



こちらもオフブロードウェイからブロードウェイに進出してトニー賞作品賞など4冠を成した傑作ミュージカルの映画化ですが、たとえばおよそ540人のダンサーたちが街ごと繰り出して踊るシーンなど、舞台とは異なる映画ならではの醍醐味がきちんと変換されて表現されているあたりも強く訴えておきたいところ。

主要キャストをアジア系で揃えたコメディ映画『クレイジー・リッチ!』(18)で注目されたジョン・M・チュウ監督がメガホンをとっていますが、20世紀アメリカで移民として不遇な扱いを受け続けつつも真摯に生き続けた老婆の存在がさりげなくフューチャーされることで、これからの未来へ羽ばたいていく若者たちへのエールも見事に描出されています。



日本も含む世界全体の厳しすぎるほどの現実が次々と露になっていく21世紀ではありますが、その中でいかに人は前向きに旅立っていけるのかを巧みに示唆していく真のエンタテインメントとして強く推したい作品です。

(文:増當竜也)

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