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2021年10月08日

<香川照之>「動」だけではない「静」の魅力を伝える6作品<「日本沈没」も始まる>

<香川照之>「動」だけではない「静」の魅力を伝える6作品<「日本沈没」も始まる>



10月10日(日)21時よりTBS系列でドラマ「日本沈没―希望のひと―」が始まります。

小松左京の一大ベストセラー小説を原作に、現代に即した視点から新たなる日本沈没を描くこの作品、基本ストーリーなどを調べるとかなり大胆なアレンジが成されているようです。

そんな中、日本沈没を予言する異端の地震学者・田所博士を演じるのが香川照之。

最近では「半沢直樹」シリーズでのエキセントリックな顔芸など、わざとのオーバーアクトも喜々として演じている彼。

映画でも、たとえば前川裕の小説を原作に黒沢清監督がメガホンをとったサスペンス・ホラー『クリーピー 偽りの隣人』での西島秀俊&竹内結子をとことん追い込んでいく不気味な隣人役は、彼の「動」の演技の最高峰といっても過言ではないでしょう。

ただし、香川照之は何も「動」だけの俳優ではありません。

むしろ変幻自在に「動」も「静」もその中間も、役と作品に応じて巧みに演じ分けるカメレオン俳優といってもいいでしょう。

今回はそんなカメレオンな彼の映画をいくつかご紹介!

ブレイクのきっかけとなった
『独立少年合唱団』



香川照之は1965年12月7日生まれ。

父は歌舞伎役者の二代目市川猿翁で、母は女優の浜木綿子。

1989年、NHK大河ドラマ「春日局」の小早川英明役で俳優デビューを果たした彼は、1990年代はオリジナルビデオ「静かなるドン」シリーズなどで人気を得るようになっていきます。

個人的に彼の存在感に大きく魅せられたのは、2000年の緒方明監督のデビュー作『独立少年合唱団』でした。

1970年代の群馬県の山奥にある全寮制中学を舞台に、吃音症でイジメに遭いつつ、歌っているときだけは吃音にならないことを指摘された少年・道夫(伊藤淳史)と、美しい歌声の持ち主・康夫(藤間宇宙)が合唱団で練習に励んでいくが……といった清冽な中にも思春期の激しさを秘めた傑作で、緒方監督は本作でベルリン国際映画祭新人監督賞を受賞。

そして香川照之は、道夫の資質を見抜く合唱団の顧問・清野役。

かつて学生運動に挫折した忸怩たる想いを胸に秘めながら少年たちを指導していく姿は、静謐な中にも1970年代当時の良くも悪くもの「時代」を体現する存在として、実に素晴らしいものがありました。

ちなみに彼はこの作品と同年の黒木和夫監督作品『スリ』の合わせ技でキネマ旬報助演男優賞や毎日映画コンクールなどその年の助演男優賞を多数受賞し、一躍ブレイクしていくのでした。

中国映画界の篤い信頼
『故郷の香り』



2000年に完成し、2002年に日本でも公開されたチアン・ウェン監督の中国映画『鬼が来た』で日本兵に扮した香川照之は、本作がカンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞したことで、『独立少年合唱団』のベルリン受賞も合わせて評価されたことから世界的にも注目されるようになっていきました。

特に中国映画界からの信頼は篤く、2003年には『山の郵便配達』などで知られる名匠フォ・ジェンチイ監督の『故郷(ふるさと)の香り』にも出演。

これは美しい山村を舞台に、初恋の男女が10年ぶりに再会するものの、男性ジンハー(グオ・シャオドン)には妻子がいて、女性ヌアン(リー・ジア)も聾啞の男性と結婚していて……。

もう二度と戻ることのない初恋の切なさと、思い出の美しさを両立させたこの作品の中で、香川照之はヌアンの聾唖の夫ヤーバを表情だけの演技で慈愛豊かに好演。

ドラマ自体、ほぼこの3人だけで進みますが、見え終えて印象に残るのは美しい山村の風景と、香川照之の一途に妻を想い続ける佇まいで、本作で香川照之は東京国際映画祭優秀男優賞を受賞。

なお、この作品以降も彼は『闘茶~Tea Fight~』(08/日本&台湾合作)『ジョン・ラーベ~南京のシンドラー~』(09/中国&ドイツ&フランス合作)などの国際作品に出演しています。

 

名優の地位を決定的にした
『ゆれる』



日本国内での香川照之の名優としての存在感を決定的なものにしたのは、2006年の西川美和監督作品『ゆれる』かもしれません。

写真家の弟・猛(オダギリジョー)が母の法事で田舎に帰省し、兄・稔(香川照之)が経営するガソリンスタンドで働く昔の恋人・智恵子(真木よう子)と再会して一夜を過ごします。

しかし翌日、兄弟と彼女の3人で渓谷へ遊びに行った際、智恵子が吊り橋から転落し、近くにいた稔に容疑がかけられます。

殺人か?事故か?

事態はやがて兄弟の確執へとなだれこんでいきますが、ここでの香川照之もぐっと抑えた演技を披露しつつ、ある場所で爆発させるという静と動の切り替えが実にお見事。

本作でも彼はキネマ旬報助演男優賞をはじめ各賞を受賞するに至りました。

 

『クリーピー』黒沢清監督の
『トウキョウソナタ』



『クリーピー』の黒沢清監督と香川照之は、それ以前に『蛇の道』(98)とこの主演映画『トウキョウソナタ』でタッグを組んでいます。

ここでの彼の役柄はリストラされた元サラリーマンで、妻(小泉今日子)と子どもたちにはそのことを内緒にしつつ、スーツ姿で家を出てはハローワークで職を探し、ようやく清掃員の職に就くも家族に伝えることのないまま、家族内の諍いに翻弄されていきます。

それぞれに秘密を抱える家族の関係性の中から現代の、そして普遍的な家族のありようを問いかけていくヒューマン映画の傑作で、ここでの香川照之のどこか諦念的佇まいも実に印象的。

ここでの「静」の演技と、『クリーピー』の「動」の演技、同じ黒沢清監督作品でこうも違うものかと驚嘆させられること必至です。

なお、こちらも日本とオランダ、そして香港との合作映画でした。

 

もはや演技ではない!?
『剱岳 点の記』



香川照之および出演俳優たちに「あれは“撮影”ではなく“行”でした」と言わしめた異色作、それが『剱岳 点の記』(09)です。

新田次郎の小説を原作に、1906年の剱岳への山麓測量を命じられた測量官たち(浅野忠信、松田龍平たち)が、大自然の猛威と対峙しながら測量を続けていくさまを、同じ新田原作『八甲田山』(77)の名キャメラマン木村大作が映画初監督。

香川照之は案内人・長次郎を演じています。

全てにおいて本物志向の木村監督は、俳優たちを実際に登山させながら氷点下40度にも達する中で山小屋やテントに泊まり込みながらの長期現地撮影を敢行。

それはまさに『八甲田山』撮影の再来ともいえるもので、俳優たちは演技の域を通り越して、もはやそこにいるだけで奇跡的、生きてるだけでめっけものといった大自然への畏怖を巧まずして体現させた驚異的な作品でした。

 

「半沢直樹」コンビの前章譚!?
『鍵泥棒のメソッド』



 堺雅人&香川照之といえば、おそらく多くの方々が「半沢直樹」シリーズを思い浮かべることと思われますが、実はこのふたり、それ以前にも映画で共演しています。

それが2012年の内田監督作品『鍵泥棒のメソッド』。

しがない元劇団員の桜井(堺雅人)は、銭湯で凄腕の殺し屋コンドウ(香川照之)と同湯しますが、ひょんなことからコンドウは足を滑らせて頭を打って記憶喪失に!

コンドウの正体を知らない桜井は、その羽振りの良さ風情を勘違いして、そのときロッカーのカギをすり替え、コンドウの衣服や荷物を持って逃走。

コンドウは桜井の荷物を渡されたことから、自分は売れない俳優・桜井であると勘違いし、何と真剣に芝居の道を目指すようになってしまいます。

かたや桜井は殺し屋コンドウとして振るまわなければいけない羽目に!?

こうした状況の中、目標期日までに結婚しようと務める雑誌編集者(広末涼子)が桜井と化したコンドーに惹かれていき……。

もうハチャメチャな入れ替わりラブコメディですが、ここで妙味なのは怖い殺し屋から真面目な演劇青年へチェンジしていく香川照之の二段演技で、成り行きで殺し屋にされていく堺雅人と違って、彼は本当に自分が演劇青年と信じ込んでしまっていることで全く別人としての風情を顔芸も何もない自然体で披露。

「半沢直樹」にはまった方々、ぜひともこちらの両者の戦い(?)もご覧になってみて見てください。

(文:増當竜也)

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