〈新作紹介〉『そして、バトンは渡された』石原さとみの映画の「代表作」がついに誕生!



■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

※本記事では、ネタバレに相当する明かされていない事実を含んでおります。予めご了承ください。

前田哲監督が『老後の資金がありません!』の後に手掛けた映画ですが、コロナ禍の影響もあって、結果として双方が同じ日に公開されるというのもなかなかユニークな事象ではあります。

『老後~』がドタバタも含めたコメディ仕立ての人間讃歌であったのに対し、こちらはほのぼの感とミステリアスな要素を加えながら展開していくヒューマニズムあふれる悲喜劇となっています。



複数の父親を持つ娘(永野芽郁)という設定は一見『マンマミーア』などを思い浮かべたりしますが、その母(石原さとみ)も血は繋がっておらず、実に不可思議な母子関係が魅惑的に綴られていくとともに、自由奔放な母がもたらすさまざまな謎が、やがて観客に滂沱の涙を流させるという仕掛け。

(私が試写会で鑑賞した際、映画の4分の3ほど過ぎたあたりから前後左右に座っていた女性たちが一斉にぐずり泣き始め、まるでサラウンドのようにか細い嗚咽と鼻水をすする音が響き渡っていました!)

こういった作品の場合、キャラクターにどこまで共感できるかが大きなポイントとなるわけですが、前田哲監督作品は奇抜なキャラを魅力的に描きながら見る側に共感をもたらす術を心得ている感があり、今回も例外ではありません。



また今回は特に、母を演じる石原さとみの好演が、本作の成功をもたらした最大の要因といっても良いでしょう。

テレビドラマでは数々の代表作を放ち続けている彼女ですが、映画ではそれこそ『わたしのグランパ』(03/本作の東陽一監督に当時取材させていただいた際、デビューまもない石原さとみのことを「未来の大器!」として熱弁を奮われていたことが懐かしく思い出されます)以来、ついに映画でも真に「代表作」と呼べるものが誕生した!といった感慨に包まれています。



一見スキャンダラスで、きまぐれで、だらしなく、自由奔放、それでいて血の繋がらない義理の娘に寄せる母性など、実に謎めいたキャラクターを「背伸びした感」など微塵もないままの自然体で演じ切った力量は大いに称賛に値するでしょう。

「映画はキャスティングで成否の70パーセントくらいが決まる」とでもいった映画ウンチクの名言を思い出すに足るほどの存在感が、まさに今回の石原さとみからは発散されていました。



その他のキャスト陣も概ね好演で、良質でウエルメイドな作品として推したい作品です。

(文:増當竜也)

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(C)2021 映画「そして、バトンは渡された」製作委員会

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