2021年11月04日

森山未來×伊藤沙莉対談|心に残る言葉とは「言った側は往々にして覚えてないもの」映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』

森山未來×伊藤沙莉対談|心に残る言葉とは「言った側は往々にして覚えてないもの」映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』

テレビ美術制作会社に勤めていたという異色の経歴ながら、作家・エッセイストとして活動する”燃え殻”が手がけた恋愛小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』。WEB連載時から「エモすぎる」と話題を呼んだ小説が、森山未來主演、伊藤沙莉がヒロインで映画化される。11月5日劇場公開、Netflixでも同日に世界同時配信予定。


→画像ギャラリーはこちら

90年代の東京を象徴するさまざまなカルチャーが登場する、懐かしく切ない鮮烈な映像は、きっと誰が観てもそれぞれの”あの頃”を呼び起こすに違いない。


2020年から1995年へと時を巻き戻しながら、TVの美術製作スタッフとして働く主人公・佐藤誠(森山未來)が、忘れられない恋人・加藤かおり(伊藤沙莉)に想いを馳せる物語。もう戻ってはこない二人の時間が描かれる。本作が初共演となる森山未來・伊藤沙莉に話を聞いた。

リアルな緊張感で、初対面のぎこちなさを表現

——本作は時間が逆行していく構成です。どんな撮影の仕方をされたのか気になりました。現代から過去の順に撮られたのでしょうか? それとも過去から現在でしょうか?

森山:できるだけ現在から過去へと、映画の流れに沿って撮影しました。映画と同じで頭から観ると時代をさかのぼっていく形です。髪型の変化などでそれが伝わるよう工夫してます。

——森山さんは、佐藤の21歳から46歳までを演じられました。年齢の幅を演じ分けるにあたって、髪型の変化も大事なポイントだったんですね。

森山:そうですね。たとえば、ある程度の髪の長さになると、前髪を分けることで表情がよく見えるようになりますよね。反対に髪が短くなると前髪が作られる。そうすると、年齢的な意味では”ごまかし”が効くようになるんです。前髪も込みで表情を作るからだと思うんですけど。


2015年までは年齢を重ねるごとに、僕の髪が少しずつ長くなっていくんですよ。で、2015年から1995年へ遡ったあと2020年へと戻ってくるラストシーンが、一番髪が短くなってます。そのシーンの佐藤は46歳の設定なので、髪を短くして輪郭を出せば、重ねてきた年齢を表現できるんじゃないかと(監督と)話した記憶があります。

——容姿の話で言うと、伊藤さん演じるかおりも、シーンによって見た目や服装が変わっていきますね。

伊藤:5回くらい衣装合わせをしました。通常は1〜2回くらいなんですけど。衣装以外の面も妥協せず、追求する現場でしたね。



——撮影順が物語の時系列に沿っていない場合でもつながっている演技をしなければならないのは、伊藤さんも大変だったんじゃないでしょうか。

伊藤:私の場合は、そこまで時系列の入れ替えはなかったので、やりやすかったかもしれません。クランクインも、佐藤とかおりが出会ってから、初めてしっかりお話する喫茶店でのシーンでした。「森山さん、よろしくお願いします!」っていう緊張感のまま撮影に臨めたと思います。初対面のぎこちなさをそのまま表現できたんじゃないかな、と。

ただ、ラフォーレ原宿の前でWAVEの袋を目印に待ち合わせるシーンは、割と後半に撮影しました。そこは、それまで文通でやりとりしていた佐藤とかおりが、初めて顔を合わせるシーンなんですね。


その直前に撮ったのが、付き合っている二人が過ごす、渋谷のラブホテルでのシーン。初対面の緊張感とはまた違うかもしれないけど、お互いに気恥ずかしい感じが出せたのも、結果的に良かったかもしれません。

交流のきっかけは森山の愛読書「アルケミスト」

——90年代が青春ど真ん中ではない世代でも、観る人それぞれの青春時代が自然に思い出される映画になっているなと感じました。それにちなんで、森山さん・伊藤さんご自身の「青春を思い出す映画や本」について教えてください。

森山:今はもう閉館してしまっていますが、渋谷のシネマライズという映画館で、岩井俊二監督の『リリィ・シュシュのすべて』(2001)を観た記憶があります。伊藤ちゃんは読書が好きなんだよね、当時からたくさん本を読んでたの?


——先日発売されたエッセイ「【さり】ではなく【さいり】です。」でも、読書や映画鑑賞が趣味だと書かれていますね。

伊藤:冊数を多く読むわけではなく、大好きな伊坂幸太郎作品が殆どですけど、撮影時に未來さんから(本を)いただいたのをきっかけに、伊坂作品以外も読むようになりましたよ。

——どんな作品ですか?

森山:パウロ・コエーリョの「アルケミスト」です。僕が10代の頃に出会ってから、大切に読み続けている本を、伊藤さんにお勧めしました。

伊藤:「アルケミスト」、すっごく面白かったです。感想を言おうとすると、うまく言葉にできないんですけど……。読み終わった瞬間に「ああ、未來さんっぽいなあ」って思いました。この本を好きなのが未來さんっていう人なんだ、って実感したというか。


もちろん、本を一冊だけ読んだからって、未來さんのすべてを知ったつもりじゃありません。だけど「アルケミスト」を読んだことによって、未來さんに一歩近づけた気がしました。未來さんの「こう在りたいと思える理想像」や「物事に共感するポイント」が、この本を媒介にして伝わってきたというか。

そのおかげで、かおりとして佐藤に対面するときも、より近づきやすくなったような気がします。演じる上での大きなヒントをいただけて、ありがたかったです。

——撮影の合間にお話することは少なかったのでしょうか?

森山:この本の話をきっかけに、徐々に話すようになったかもしれませんね。

伊藤:そうですね。

森山:今回の作品は、かおりからすべてが始まっていると僕は思ってるんです。

この映画は、佐藤がいつまでも忘れられないでいる恋人・かおりの余韻みたいなものを感じさせながら、時代を遡っていく構成です。かおりとの出会いや実際にかおりとともに過ごす時間は、物語の最後に描かれる。現代に生きる佐藤の中には、いつまでも、かおりの存在や言葉が残っているんですよね。


かおりと過ごすシーンの撮影に辿り着くまでに、自分の中で、かおりに対するイメージが過度に膨らみすぎていたんだと思います。「かおりってどんな人なんだろう」「どんな風に笑って、どんな風に泣くんだろう」っていう。そういった面がいい緊張感として画面に表れた部分もあったと思うけど、でも、もっと(伊藤さん自身に)近づきたいっていう思いもあって。だから、本をプレゼントしてみようって思ったのかもしれません。

役者の仕事を頑張る糧、心を支える言葉

——かおりが佐藤に言う台詞「君は大丈夫だよ。おもしろいもん」がとても心に残りました。佐藤はこの言葉を糧に仕事を頑張ってこられたのでは、と想像できるのですが、このように「誰かに言われた一言」によって頑張れたエピソードがあれば教えてください。

伊藤:子役としてお仕事をさせてもらっていた当時、とある撮影の打ち上げで、永山瑛太さんに言われた言葉を今でも覚えてます。「頑張ってね。……いや、頑張らなくていい。いつまでも、そのままでいてくれたら俺はうれしいよ」って。ちなみに、私は瑛太さんに恋をする役でした。

しゃかりきに命懸けで頑張るよりは、役者としてのお仕事を楽しめたらいいな、と思えるきっかけになりましたね。


森山:それ、瑛太に確認した? 本人、覚えてた?

伊藤:覚えてないと思います。お酒飲んで酔ってましたから(笑)。

森山:言った側は往々にして覚えてないものなんだよね、そういうのって。

僕が覚えてるのは、16歳の頃に役者の山内圭哉さんに言われた言葉です。当時、大阪松竹座でやっていた舞台でご一緒していて。どんな流れでそういう話になったかは忘れたんですけど、「俺って(役者として)どうですかね」って山内さんに相談したら「20歳になった時にどんな役者になってるかやな」と言われたんです。やけに、それを覚えていて。


でも、20歳を超えてからか、30歳を超えてからか……久々に山内さんに会ってその話をしたら、向こうは一切覚えてなかったです。なんのことやら、みたいな。

——言った側は忘れていても、言ってもらった側は、その言葉を糧に頑張れる面がありますよね。

森山:そうですね。作中のかおりも、それくらいの気軽さで言ったのかもしれません。



(<森山未來>スタイリスト:杉山まゆみ、ヘアメイク:須賀元子、<伊藤沙莉>スタイリスト:吉田あかね、ヘアメイク:aiko、撮影・冨永智子、文・北村有)

<衣装クレジット(森山):シャツ/¥42,900、パンツ/¥46,200 共にETHOSENS>

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

(C)2021 C&Iエンタテインメント

RANKING

SPONSORD

PICK UP!