お笑い

REGULAR

2021年12月19日

<「M-1グランプリ2021」>人生、変えてくれ!M-1を荒らす地下芸人3組をクローズアップ

<「M-1グランプリ2021」>人生、変えてくれ!M-1を荒らす地下芸人3組をクローズアップ

「M-1グランプリ2021」のファイナリストが発表されたとき、例年との色の違いに驚いた。

ファイナリストのうち、9組中5組が初登場。さらに「吉本芸人の大会」と揶揄されることもある「M-1」で、9組中4組が“非吉本”。ダークホースばかりの、異例の布陣だ。

個人的に特に注目しているのは、ランジャタイ(グレープカンパニー)・モグライダー(マセキ芸能社)・真空ジェシカ(人力舎)の3組。アンテナを張っていなければ、彼らのことは知らない人のほうが多いだろう。3組に共通するのは、“非吉本”であること、そして滲み出る「地下」のにおいだ。

【関連記事】<「M-1グランプリ2021」ファイナリスト>9組の芸風ざっくりまとめ
【関連記事】<「M-1グランプリ2021」敗者復活戦>16組の芸風ざっくりまとめ
 

地下芸人という存在

昨年王者・マヂカルラブリー野田を起点に、「地下芸人」という言葉が一般的になった。この言葉に明確な定義は無いが、イメージとしては「メディア露出がほぼ無く、インディーズライブを中心に活動する芸人」という感じだろうか。

野田はピン芸人時代、いわゆる「地下ライブ」に数多く出演していた。当時の思い出として、師匠・モダンタイムスやかつての同志・アルコ&ピースとのエピソードを、よくメディアで語っている。

近年の「M-1」で言えば、錦鯉やぺこぱ、トム・ブラウンなども地下出身の芸人だ。大衆に媚びず、己の笑いを貫き、お客さんの少ない小さな劇場に立ち続ける……「地下芸人」という言葉には、そんな暗くじめっとした雰囲気を感じる人もいるかもしれない。

今年、世間が「ランジャタイ」に慣れた

今年の「M-1」ファイナリストには、「地下芸人」の象徴とも言える芸人がいる。それがランジャタイとモグライダー。2組とも、華やかさとは無縁の時代が長かった。

ランジャタイは昨年の「M-1」で敗者復活戦に出場し、深い爪痕を残した。予測不能の動きをする国崎と、綾波レイ(アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』)を真似た髪型がトレードマークの伊藤。

敗者復活戦で国民投票最下位だったことを受け、国崎が発した「国民最低」がTwitterでトレンド入り。敗者復活戦自体の結果は奮わなかったが、深夜番組やネタ番組中心にメディア露出が増え、2021年は彼らが地下から地上へ這い出た1年となった。熱狂的に応援するファンが激増し、彼らが表紙の「芸人雑誌 volume5」(太田出版/12月17日発売)は予約段階で売り切れ状態に。

この1年で、ランジャタイを取り巻く環境は劇的に変わったように見える。が、それまでは「地下芸人の王道」を走るようなコンビだった。今のポップな様子からは想像できない、芸人すら寄せ付けない暗い時代もあったという。ランジャタイは、お客さんのウケ量に惑わされず、自分たちが「面白い」と思う世界をひたすら披露し続けるコンビだ。かつては、ネタ中にひと笑いも起きないなんてこともあったという。

今年は、世間がランジャタイに少しずつ慣れるための1年だったのかもしれない。彼らが貫く「面白さ」は、昔から変わっていない。メディア出演が増えたとしても、彼らは変わらなかった。その分、少しずつ視聴者に耐性がついた。だから、決勝で滑ってもウケても彼らの“勝ち”は確定している。審査員がどう評価するのか、楽しみでたまらない。ランジャタイのブレない世界はあまりにも深遠で、彼らの魅力にとりつかれたら終わり。底なしの沼が待っている。


太陽の下に這い出た「モグライダー」が見る景色とは

 そんなランジャタイと長くしのぎを削ってきたのが、モグライダーだ。メガネ&リーゼントの芝と、大柄で天然のともしげからなるコンビ。

特に芝は国崎と親交が深く、毎日のように遊んでいた時代もあったという。モグライダーの特徴は、ネタ合わせをほとんどしないこと。ともしげの言い間違えや奇天烈な発言に、芝が即座に、そして的確にツッコむ。彼らの魅力は「今、この瞬間」しか見られない、刹那の漫才だ。練り上げられた、隙の無い“上手い”漫才とは一線を画す、彼らにしか作り出せない唯一無二の時間。

今年は、早い段階から「今年のモグライダーは違う」という声が地下で囁かれていた。モグライダーはライブシーンでは「面白い」と認められつつ、決勝どころか準々決勝を突破するのも今年が初めて。今年はライブシーンの前評判が的中し、一気に駒を進めることとなった。

劇場に足を運ぶようなお笑いファンは、モグライダーを心底愛している。彼らがいるだけで、そのライブの満足度が上がるという信頼がある。芝にかかればどんな芸人も面白くなるし、ともしげの突飛な発言は1秒も見逃したくない。長年地下に潜っていた“モグラ”が地上に出るまでもう少し。そのとき見えるのは、どんな景色なんだろう。界隈の期待を一身に背負い、あのせり上がりから飛び出すモグライダーを想像するだけで、胸が熱い。


「真空ジェシカ」は、「M-1」をどう荒らすのか

そして、真空ジェシカ。彼らの芸人人生は、ひとことで言うと「エリート」だ。川北とガクが出会ったのは、大学時代。二人は別々の大学でお笑いサークルに所属しており、プロになるためにコンビを組んだ。

彼らは、かなり早い段階で頭角を現した。大学生の大会で決勝進出したことがきっかけでスカウトされ、養成所を経ずに事務所に所属。さらに川北は、在学中に「R-1ぐらんぷり」で準決勝まで残るなど、当時から界隈では名の知られた存在だったという。真空ジェシカは2019年に「マイナビ Laughter Night 第5回チャンピオン大会」で優勝し、翌年からTBSラジオで冠番組「真空ジェシカのラジオ父ちゃん」を開始(現在はPodcastで配信中)。ネタだけでなく大喜利も強く、「AUN」というコンビ大喜利の大会では3連覇を果たした。

経歴だけ見るとエリート街道まっしぐらで、大小の賞レースで爪痕を残しながら、満を持して「M-1」ファイナリストになったように見える。しかし彼らの芸風をひとことで表すなら、「尖っている」。特に川北はネタも平場も関係なくボケ続け、放送コードすれすれ……いや、余裕で引っかかるレベルの下ネタを連発。プライベートや人間性を出すことはあまり無く、なにか聞かれてもボケてはぐらかしているようなイメージがあった。

勝手な憶測だが、エリートと呼ばれることを嫌い、己らの「面白さ」を突き通すことであえてレールを踏み外そうとしていたのではないか。そのスタンスはまさに「地下」の血筋。正統派を外れるように歩んでいた真空ジェシカだが、おそらくラジオがきっかけで、ここ1~2年で支持者を増やした。鋭角な尖りはそのままに、近寄りがたい存在ではなく応援したい存在に様変わりしたのだ。

その変容は、まさに“主人公”。決勝の場で、彼らはどのように爪痕を残すのか。少々ハラハラしつつも、「なにが起きても、真空ジェシカの味方をしたくなるんだろうな」という謎の確信もある。決勝で、審査員、そしてお茶の間が真空ジェシカをどう見るのか。きっと、想像を超える未来が待っている。

地下から地上へ。決勝の舞台はもうすぐ

ランジャタイ・モグライダー・真空ジェシカ。彼らの強さは、地下で培われた揺るがない地肩。そして、誰も真似できない世界観とスタイルだ。結果に関わらず決勝の舞台を荒らし、観た人に衝撃を与えるだろう。それはきっと、昨年起きた「漫才か、漫才じゃないか」論争を塗り替えるほどの衝撃だ。

宮本浩次の歌う「昇る太陽」に乗せた予告動画(https://youtu.be/jU6uZqKh6XI)は、「人生、変えてくれ。」というメッセージで締めくくられる。誰が優勝しても、きっと全員の人生が変わる。今年の「M-1グランプリ」はまさに、「人生、変えてくれ。」の言葉を体現する大会になりそうだ。

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

RANKING

SPONSORD

PICK UP!