映画コラム
<2021年公開映画TOP10>「あなたのベスト10は?」って訊かれたから私的に書くが、ネタバレすると1位は誰がなんと言おうと『ビーチ・バム』だ
<2021年公開映画TOP10>「あなたのベスト10は?」って訊かれたから私的に書くが、ネタバレすると1位は誰がなんと言おうと『ビーチ・バム』だ
【第3位】『バーフバリ』かと思って観に行ったら『野火』だった。『ジャッリカットゥ 牛の怒り』
本当は8位くらいにしようと考えていたのだが、順位をああじゃないこうじゃないと組み替えていたらとうとう3位にまで上り詰めてしまった奇作が『ジャッリカットゥ 牛の怒り』である。
今年いちばんの「なんか良くわからねぇけど、すんげぇもん観た」案件。キャッチコピーの「暴走牛VS1000人の狂人」はまさにその通りで、牛はオマケで狂人たちが一夜の狂宴を繰り広げる。
鑑賞前は『バーフバリ』シリーズのようなテンションを想像していたのだが、蓋を開けてみればそれは地獄の釜の蓋であり、その中身は『野火』(塚本晋也版)だった。と思ってしまうほど、要は「なんか人間が変わっちゃう」映画である。
本作は、テンションよりも湿度が高い。一部超絶ハイテンションな人間もいるが、冷房が効いた映画館の中ですら狂人たちの、インドの夜の熱気を感じられるほどで、とにかく暑苦しい点が最高だ。
冒頭の黙示録の引用から始まり、『サウンド・オブ・ノイズ』のようなサウンドメイク、そして四方八方から飛んでくる音響設計は映画館でないと絶対に味わえない。なのでサブスクやレンタルなどでの鑑賞はあまりおすすめできない。
ありとあらゆるインド映画の枠を超える、というか今やジャンルものとなっている「インド映画」へ対する偏見をブチ壊す傑作で、忘れ去られてしまうのはあまりにももったいない。もし映画館で観れる機会があるならば、ぜひ鑑賞してみて欲しい。
【第2位】青春の色ってどんな色?何から何まで最高な『少年の君』
2019年の中国・香港合作映画だが日本では今年公開。中国には高考という全国統一入学試験があり、日本とは比にならない受験戦争が繰り広げられている。勉強しかやることがないものだからストレスが溜まり、それは「いじめ」として発散される。本作もまた、いじめが大きなファクターとなっている。
いじめ描写はかなりエグく、ときたまネットの海に放流されるリアルな「中国イジメ動画」と比較してなんら遜色はない。なので、過去にいじめられた経験があるといった方は注意して欲しい。フラッシュバックしてしまう可能性がある。
主人公は進学校に通う少女だが、彼女はひょんなことからいじめの標的にされてしまう。その彼女のボディガード、というか心を通わせていくのが不良少年のシャオベイ(イー・ヤンチェンシー)だ。
2人の交流はとても心があたたまるし、ネタバレになるので言及は避けるがとてつもなく哀しい。とにかく、青春映画として完璧な1本。ところで、なぜ中国や台湾、あるいは東南アジアを舞台とした恋愛青春映画は、良い感じのシーンでバイクに二人乗りするのだろうか。
【第1位】自由で、バカで、最高な『ビーチ・バム』
確か6月くらいに観た気がするが、それ以来『ビーチ・バム』が1位を独走し続けている。あまりに自由で、バカで、楽しく、そして哀しい映画だった。
本作は2019年にアメリカで公開されているが、2021年に日本で観ることができて本当に良かった。鬱屈した世情のなかで底抜けに明るく、健康的で、幸せなグルーヴに満ちていたからである。
登場人物たちの多くはモラルの欠片もなく、無茶苦茶な人間ばかりなのも良い。「ああ、そうだ、映画って、こんなに自由なんだよな」と爆笑しながらもしみじみしてしまう。むしろコロナ禍においては「もしかしたら、こいつらの方が人間としてギリでまともなのでは」と思ってしまうほどだ。
2021年は2020年よりも厳しい年だった。正直言えば仕事もあんまりなかったし、移動も制限されていた。自分では結構平気な面をしていたつもりだったが、無意識のうちに「食らってしまっていた」のは間違いない。そんななかで『ビーチ・バム』を映画館の暗闇で孤独に摂取することにより、少なくとも私は浄化された。その抗体価は半年経った今でも保持されている。
以上、極私的なTOP10を開陳してきたが、今回ランクインしたなかで、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』と『アメリカン・ユートピア』を除いてはすべて映画館で観た。もちろんランクインしていない作品も相当数あり、多くは映画館で鑑賞している。
今年、緊急事態宣言により映画館は強烈な打撃を受けた。協力金の少なさはもちろん、行政に振り回され、理不尽な仕打ちを受けまくったと思う。大変ななかでも踏ん張って、映画を絶やさぬよう火の番をしてくれた、すべての映画関係者に大いなる感謝を。来年の年末には、こんな結びを書かずに済むよう祈る。2022年も、皆様に素晴らしい映画体験が待っていますように。
(文:加藤広大)
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