2022年02月04日

『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』山寺宏一×井上喜久子対談:一生懸命生きているのに間違ってもいるデスラーとスターシャ

『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』山寺宏一×井上喜久子対談:一生懸命生きているのに間違ってもいるデスラーとスターシャ


レジェンド・キャラを演じる 歓びも難しさも


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――レジェンド的な作品およびキャラクターを受け継いで演じる歓びと難しさなど教えていただけますか。特に山寺さんはかつて『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』(09)などで主人公の古代進も演じられていますが、リメイクシリーズでのデスラーも全く違和感がありません。


山寺:いやいや。でも原作シリーズの最初から僕はデスラーが大好きでした。まさか自分が演じることになるとは思ってもいなくて、オファーをいただいたときは本当に嬉しかったんですけど、後から「これは大変な仕事を引き受けてしまった!」と。

井上:私も山寺さんと同じように「自分がスターシャをやっていいんだろうか」と思いながら、『2199』はすごく悩んでいました。

“ヤマト”はたくさんの方々の想いがずっと支えてきたシリーズで、その中でスターシャは素晴らしい存在感のキャラクターである一方、星の女王としての重責であったり苦しみや悩みをたくさん抱えている女性なので、そんな彼女の深い想いをどれだけ私が表現できるのか、彼女に寄り添いながら探っていきましたし、彼女自身の内面の葛藤みたいなものも忘れないよう努めました。

また今回は『2199』では描かれなかったものすごい過去や衝撃の事実を、ちゃんとみなさんに伝えなけれ
ばいけないという責任を感じましたが、実は私自身、事実を語ったことですごく浄化された気がしたんですよ。自分がわからなかったところがいっぱいわかったというか「スターシャ、そうだったのか!」って。それは決して楽しい過去ではないですけど、今回それを語れたことが私は嬉しかったです。

山寺:もうスターシャは喜久子ちゃんしかいないです。

井上:いえいえ、とんでもないです。

山寺:ずっと昔からやってたんじゃないかってくらい。

井上:恥ずかしいからやめてください(笑)。

――井上さんのスターシャからは、凛とした佇まいの中から窺える心の弱さが上手く醸し出されていたと思います。

井上:スターシャを演じさせていただく上で、自分の中でイスカンダル女王としての強さと、ひとりの女性としての弱さは絶対に共存しているはずだけど、『2199』ではその弱さが語られることはありませんでした。でも今回はそちらの部分、女性としての切ない想いが台本に描かれていたので、山寺さんが先ほどおっしゃっていたように、とても自然に演じることが出来ましたね。

山寺:スターシャの神々しさと凛々しさ、そして儚さって、演じようと思って醸し出せるものでもないんですよ。演じてらっしゃいますけど(笑)。でももともと喜久子ちゃんが持っているものが、すっと自然に出てくる。デスラーはガミラス臣民のために冷徹な独裁者を演じていた一方で、ずっとスターシャへの愛を抱えてきたわけですが、そう思わせるだけの存在感が喜久子ちゃんのお芝居では表現されていて、本当にぴったりだと思います。

井上:いやいやいや……。

山寺:でも、まさかこんな過去があったとは!(笑)

井上:ねえ、びっくりしますよね!(笑)「真実を伝える時が来ました」の台詞を言うときも、いよいよこのときが来たんだって気持ちでしたし、その言葉からいろいろな過去や真実が語られていくこともあって、万感の想いで演じさせていただきました。今思い返すと、自分の人生で感じてきた悲しみや苦しみって、スターシャの言葉として乗せていくための経験だったのかなって思えるくらい、とても感情移入できたんですよ。星の女王様でもないくせに(笑)。

声優ってたくさんの作品をやらせていただく上で「よく理解できないけど、台詞を言う」みたいなことがどうしても起きてしまうものですけど、スターシャが真実を語るシーンでは本当に彼女の気持ちに寄り沿えることが出来ました。

原作シリーズと同じ台詞でも今回は意味合いが異なる


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――予告には原作にもあった「古代、私ごと撃て!」の名台詞が入っていました。


山寺:あのシーンは原作でも有名なシーンで、伊武雅刀さんの名演は語り継がれていますし、僕も敬愛しておりますけど、あまり意識しすぎるといけない。というか「原作を気にしすぎてるのって、実は僕だけなんじゃないか?」ってことに最近気づきまして、みんなそんなに気にしてないかなって。他の作品でも偉大な先輩の役を引き継ぐとき「どうせ叶わない」とか、いろいろ言われちゃったりするんじゃないかとか……。

井上:山寺さん、真面目だから。

山寺:いや、先達の方々の声に似せよう似せようと意識しすぎていたんじゃないかって、最近反省しているんです。リメイク・シリーズでも、たとえば古代役の小野大輔くんを原作の富山敬さんと比べたことなんて僕はないですよ。

井上:確かに!

山寺:それなのに、どうして自分の役だけ比較しちゃうのか、縛られちゃうんだろうかって思ったんです。ですから以前は原作も見すぎるくらい見ていましたが、これからはあまりそういうこともやめようって。リメイク・シリーズは、スタッフもキャストも新しくなって、新しいホンで、新たなる“ヤマト”を作ろうとしているわけですよ。安田監督だって“ヤマト”世代でない分、「新しい目で見たから、素晴らしいものができた」とみなさんおっしゃっていますし、僕もそう思います。

しかも今回語られる真実って、原作になかった設定ですからね。そうすると「私ごと撃て!」といった言葉の重さも、原作とおのずと違ってくると思うんです。

僕自身、デスラーのスターシャへの想いって何なのだろう?とずっと考えていたんですよ。原作では「スターシャには古代守がいるのに!」って、当時のファンからよく言われてましたよね。

井上:そうでした(笑)。

山寺:でもあのときは「そんな奴がいても、デスラーはスターシャを愛している!」という解釈も成り立っていたわけです。ところが今回のデスラーは母親の愛も得られず、兄も死に、孤独な境遇を経てああいう人間ができあがり、それでもスターシャへの愛を忘れることはなかった。それが今回で衝撃の事実を知らされて「では、今までの俺の想いは何だったんだ?」「今までの誇りとは?」といったさまざまな感情が湧き上がっていった果てに……もう理屈抜きでしたね。

――あの台詞をデスラーが言ったとき、現代ならではの『新たなる旅立ち』が見事に確立されたと確信しました。とにかく今回は彼の弱さが魅力的に表現されています。

山寺:ありがとうございます。自分自身としては、特に弱さを意識するというよりも、何よりも台本にそう書かれていたわけで、ガクっとなるし、ワナワナするし、激昂もする。そういったデスラーの中の人間らしさは『2202』でも描かれていましたが、今回はその裏付けが成されています。特に『2202』でデスラーの過去を掘り下げていただけたおかげで、彼が完全に強い人間ではなかったことが明らかになりましたし、今回の感情もいろいろ出しやすくなっていました。

全てはガミラス臣民のために無理して虚勢を張っていたデスラーではありますけど、人間味がより醸し出されるストーリーだったので、自然とそういう風に演じることができたんだと思います。

ただ、その後で「やっぱりデスラーは伊武さんじゃなきゃダメだ」ってネットの書き込みとかを見て「まだ僕のを見てないだろう!」と思いながら、また落ち込む(笑)。

井上:(笑)

山寺:まあ、そういうことを気にしててもしょうがないかな……というのが、最近の感じです。もともと僕はずっと伊武さんのファンですし、ただ比較されるのを過剰に恐れていたら絶対に追いつけないし、これだけデスラーをやらせていただいて、いろいろな見せ場も作っていただいているのに、それで自分のものにできないようじゃいけないし、自分の中で苦しんでいてもいけない。

実際、出来上がったものを見ると「もうちょっとこうすれば良かったかな?」とか、いつも思うんです。でもそのときにマイクの前で気持ちを込めてやったものがベストと思うしかないし、とにかく自分なりにやるしかないという想いになってきましたね。

改めてリメイクされるとしたらどのキャラクターを演じたい?


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――最後に、『宇宙戦艦ヤマト』は時を経て繰り返し制作され続けるに足る名シリーズだと思いますが、時空を超越できたとして、次世代のリメイクではどのキャラクターを演じてみたいですか。


井上:自分的にはやはりスターシャですね。生まれ変わっても、またやりたいです。

山寺:その時代にもよりますね。近い未来だったらまたデスラーをやりたいけど、もっとトシをとったらわからないかなあ。

井上:元老院の重鎮とかも、山寺さんひとりで全キャラできそう。スターシャもできたりして(笑)。

山寺:できるか!(笑)でも、今のリメイク・シリーズが将来の人たちから「もうこれには叶わないから、手をつけるのはやめよう」みたいに言ってくれる域にまで行けるといいですね。それか、僕が死んだ後でリメイクされたとき、「伊武さんもヤマちゃんも良かったので、僕プレッシャーなんです」と、そのときのデスラー役の声優さんが言ってくれると嬉しいかな(笑)。

井上:おもしろーい!(笑)

山寺:逆に「山寺さんは抜けるけど、伊武さんは抜けませんよね」なんて、30年後くらいの若い声優に言われて、スタッフからも「伊武さんをお手本にやってください」なんて言われたりしたら……。

井上:いや、あの、山寺さん!?(笑)

山寺:一方で、デスラー役の人が「俺、気にしすぎなのかな……」とか悩んでもらえたら(笑)。

井上:山寺さん、妄想力すごすぎ(笑)。
 
(撮影=あまのさき/取材・文=増當竜也) 

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