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2022年03月17日

『SING/シング:ネクストステージ』ここでしか聴けない歌と言葉が生きる勇気をくれる

『SING/シング:ネクストステージ』ここでしか聴けない歌と言葉が生きる勇気をくれる


SNS社会だからこそ響くメッセージ

音楽や歌の魅力もさることながら、SNS社会を生きる私たちにこそ響くメッセージが随所に散りばめられた本作。心を揺さぶるショーとともに、これからの現実世界を生きる勇気を与えてくれる。ネタバレにならない範囲でご紹介したい。

インターネットが普及し、SNSが浸透するにつれて、確実に私たちの”情報を摂取する方法”は変わった。世間を賑わせる流行も、行きたい店も、食べたいスイーツも、見たい映画も、聞きたい音楽も、ほとんどの情報はSNS経由で入ってくると言っても過言ではない。

そして、一億総発信時代と言われるSNS社会。自分が何者であるか、相手が何者であるか、文字・写真・動画である程度の判断ができる時代になった。それが吉と出るか凶と出るかは、日々SNSを使う私たちの手に委ねられている。

これらの風潮が表すのは、そのまま「自由で生きやすい社会」かもしれない。個人の裁量で情報が得られる時代、好きなときに好きな人と繋がれる時代は、一昔前から見たら奇跡に近いだろう。



しかし、メリットがあればデメリットもある。コロナ禍と相まって、SNSは確実に私たちの「とある力」を弱めている気がしてならないのだ。

それは「自分で自分を信じる力」「自分の価値を他人に決めさせない力」である。

本作において、劇場支配人・ムーンは新たな夢を抱く。それは、今よりもさらに大きな舞台で、仲間たちとともに壮大なショーを作り上げること。前作と同じように無謀な挑戦が始まるのだが、それにともなってムーンは何度か心が折れそうになる。

そんなムーンに向かって、とある仲間は励ます。「夢を追う者に挫折はつきもの」であると。挫折や失敗を怖がっていては挑戦すらできない、一歩も前に進めないと鼓舞するメッセージは、前作にも通じるところがある(恥ずかしがり屋のミーナに、ムーンは繰り返し恐怖を克服する術を説いた)。

私たちには、とくに10〜20代の若い世代には、夢がないと言われる。しかし、そうだろうか? 本当に夢を持っていないのだろうか? 本当は、SNSを始めとする”世間”からの声をキャッチしすぎて「夢なんて持たないほうが安心だ」と思い込んでいるのではないか?

ムーンを含め、自分の”得意”や”好き”に正直になって努力するキャラクターたちを見ていると、夢を追うことは何も恥ずかしいことじゃないんだと思えてくる。失敗や挫折は怖いけれど、それあってこその挑戦なんだと勇気をもらえる。

自分で自分を信じる力。SNS社会に浸りきった私たちにとって、忘れてはならないことだ。



また、本作には、何度も夢を志し何度も諦めかけるムーンたちに向かって、容赦ない言葉を浴びせる者も登場する。「負け犬だ」「力不足だ」ーーそんな言葉たちはそのまま、現実世界に生きる私たちへの心ない言葉に変換されてもおかしくない。

夢や目標を持ち、行動を起こしても、目の前に立ちはだかる言葉たち。

「やっても無駄だ」

「現実を見ろ」

「できるわけない」

言葉の力は強大だけれど、ムーンたちは教えてくれる。そんな言葉は、受け取りさえしなければなかったことになるのだ、と。他人が何を言ったって気にするな、自分の価値を他人に決めさせるな、と。

SNSが普及したことによって、私たちは格段に発言しやすくなった。それは裏を返せば、他人の発言も簡単に受け取りやすくなったことを意味する。しかし私たちは、受け取る言葉を取捨選択できることを忘れてはいけない。

受け取る必要のない言葉は、受け取らなくてもいい。悪意ある言葉であればなおさらだ。都合のいいことだけを耳に入れて生きろというのではなく、まずは自分の声を聞くことが大切なのだ。

『SING/シング:ネクストステージ』は、これからも続くであろうSNS社会を生き抜く至言が詰まった、上質エンターテイメント映画である。

(文・北村有)

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