映画『流浪の月』原作→映画で痛感する“純愛の新境地”



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あなたは、他人から決して理解されない恋を経験したことはあるだろうか。

予め言っておくと、不倫や二次元、DV常習犯などはこの域には入らない。
説明をすればするほどに理解が得られない“純愛”が、映画『流浪の月』に確実に存在している。

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生きているだけで罪を着せられる“無限の愛”



家族との楽しい生活は一変、突如として居場所がなくなってしまった10歳の少女・家内更紗
そんな少女を救ったのは、後に“ロリコン誘拐犯”と仕立て上げられてしまう大学生・佐伯文だった。

事件から15年後、更紗が偶然立ち寄った喫茶店のオーナーとお客さんとして、“禁断のふたり”は再会することになる。

24歳になった更紗と、34歳になった文。
壮絶な過去を乗り越えた2人には、それぞれにパートナーがいる。更紗のことを過剰に愛する中瀬亮と、文に救われた谷あゆみだ。



誰よりも更紗のことを、文のことを想い、庇い、共に歩んでいこうとし、更紗と文もその気持ちに全力で応えようとする。

しかし、まっとうな道を生きようとすればするほど、心の奥底にしまい込んでいる疑問が深まってしまう。

「どうして私は、文と一緒にいられないんだろう」
「どうして僕は、いつまで経っても大人になれないんだろう」



世間体とは裏腹に、自分の気持ちに正直にしか生きられない2人と、彼らの弱さを浮き彫りにする取り巻きたち。

あまりにもディープで繊細な物語「流浪の月」が、巧みに構成された脚色と代替が利かないキャスティングで、映画『流浪の月』として世に絶大なるインパクトを残すことになる。

原作→映画化で譲れない「脚色」と「キャスティング」



原作の話題性が高ければ高いほど、映画化へのハードルもぐっと高くなる。

直近の成功作品でいうと『そして、バトンは渡された』『恋する寄生虫』『真夜中乙女戦争』『余命10年』あたりだろうか。

これらの成功要因は「脚色」と「キャスティング」にある。
どんな作品でも一歩間違えると原作の良さを踏みにじってしまうことになる、譲れないポイントだ。



映画『流浪の月』の監督・脚本を務めたのは李相日氏。
ーーそう、この時点で「流浪の月」映画化の成功が保証されたと言っても過言ではない。観た人の心に深い傷跡を残した映画『悪人』『怒り』を手掛けた監督なのだから。

筆者は映画鑑賞後に原作を拝読したのだが、驚くほどに如実に、そして丁寧に整理整頓された映画化に度肝を抜かれた。

■巧みに構成された「脚色」



原作と映画を比較して気付いたことがある。
それは、映画『流浪の月』は原作を読んだからこそさらに楽しめる作品ということだ。

たとえば、更紗を苦しめていた従兄・孝弘の末路や、更紗の同僚である安西さんやその娘・梨花との馴れ初め、との関係性に変化が起こるポイントとなる帰省のタイミングなど、原作と映画では構成が絶妙に異なっている点が多々ある。



“そうじゃない感”ゼロな脚色に盛大に感服するだけでなく、原作→映画を体感することで登場人物それぞれのよりデリケートな部分に触れることができるのだ。

念の為補足しておくと、映画のみを体感することで生じる違和感は一切ないので、安心してほしい。原作には原作の、映画には映画の良さがある。

■代替が利かない「キャスティング」



「この役はこの人が演じる以外考えられない」
と断言できる作品は、そう多くはない。

本作の中でもMVPを贈りたいのは、佐伯文を演じた松坂桃李だ。

文が“ロリコン”という周知の事実は、「流浪の月」の全貌を知るとそこまで重要度が高くない情報となる。

なぜなら、彼の生きづらさの根幹は“特殊な病気”にあるからだ。それ故の“無機質さの中に垣間見える底知れぬ欲望”は、松坂桃李にしか醸し出せない独特な雰囲気なのである。



「うち、来る?」ーー更紗にかけたこの最初の一言は、原作を読むたびに消え入りそうな松坂桃李の声で脳内再生され、完全に癖になってしまうほどの威力を持つ。

家内更紗を演じた広瀬すずは、女優人生を着実に積み重ねてきた彼女の集大成作品となること間違いない。



中瀬亮を演じた横浜流星のこれまでの硬派でフレッシュなイメージを覆すトラウマ級な愛憎劇は圧巻であり、谷あゆみを演じた多部未華子は原作と比較すると最もキャラクターに違いがあったがスクリーンの中で“谷さん”として力強く生きていた。



なによりも、安西佳菜子役を務めた趣里に非常に驚かされた。
キャラクターとしては原作よりも映画の方が俄然柔らかく描かれているものの、“趣里扮する安西さん”は“原作の安西さん”そのものだったのだ。



他、更紗のバイト先の店長・湯村を演じた三浦貴大、文が営むカフェの一階でアンティークショップを経営するオーナー・阿方を演じた柄本明、文の母親・音葉を演じた内田也哉子ら脇を固めるメンバーも、本作に欠かせないスパイス的要素として確立している。

映画『流浪の月』は、見事なまでに的確なキャスティングに誰もが心揺さぶられることだろう。

原作→映画の順で“流浪の月ワールド”を体感せよ



映画『流浪の月』に関しては、原作→映画の順で“流浪の月ワールド”に浸ることを強く推奨したい。

原作に記されている情報を網羅的にインプットした上で映画に臨むことで、より濃度の高い“流浪の月体験”を得られることができるからだ。

ここまで密度の濃い原作が150分の映像に凝縮された感動は、鑑賞から数日経った今でも胸をそっと締め付ける。

「流浪の月」ほどの“純愛の新境地”を、私は他に知らない。

(文:桐本絵梨花)

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