阿部サダヲが『死刑にいたる病』で見せてくれた“体験”



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史上最悪の連続殺人鬼(シリアルキラー)からの依頼は、たった1件の冤罪証明だった―
 衝撃的なコピーと阿部サダヲの真っ黒な目に吸い込まれそうなメインビジュアルの映画『死刑にいたる病』。どんな内容なのか、観る前から気になって仕方がなかった。

映画の感想の多くは「面白かった」「つまらなかった」「このシーンがよかった」といったものになると思う。だが本作は少し違う。いや、もちろん先に挙げたような感想を挙げることも可能だ。



だがなによりも「すごい体験をした」という感想が先に立つ。単に物語を観たというよりは、主人公・雅也(岡田健史)と一緒に連続殺人犯・榛村(はいむら・阿部サダヲ)に接したような感覚を味わった。そしてそれは、阿部サダヲの演技によって得られた感覚だといって間違いない。

本記事では『死刑にいたる病』を中心に、同じく白石和彌監督作品の『彼女がその名を知らない鳥たち』も挙げ、俳優・阿部サダヲの演技と阿部サダヲ×白石和彌作品の魅力をお伝えしたい。

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映画『死刑にいたる病』榛村大和



大学生の雅也のもとに一通の手紙が届く。それは24人もの人々を殺した殺人鬼・榛村からのものだった。中学生の頃通っていたパン屋の店主だった榛村を当時は信頼していた雅也は、彼の願いを聞き入れ独自に調査を始める……というストーリー。

映画を観る前、予告やあらすじを見て不思議に思っていたことがある。仮に一件が冤罪だったとしても、確実に23人は殺している連続殺人犯の言うことを、なぜ主人公の雅也は聞いたのだろうか。

まずそんな人と関わりたくないし、協力することで自分の立場が悪くなる可能性すらある。またいずれにしても、死刑という結果は変わらないのに。



だが、作品を観はじめるとそんな考えはどこかへ行った。阿部サダヲの演じる榛村の声を聞いたら、雅也や周りの人たち、殺された少年少女たちが彼に惹かれて好きになる気持ちがわかってしまったのだ。

同時進行で、彼の残虐な殺人シーンを観ているのにもかかわらずだ。きっと近くにいたら彼を信頼したし、それだけでなく彼との関わりが日々の原動力にすらなっていたかもしれない。このセリフを言っているときの彼は本当に親切で優しい気持ちなのではないか、と思えてきてしまうシーンも多々あった。

彼の人格や起こったできごとへの感想だけでなく、上記のように思ってしまった自分も含めて、すごく怖かった。他では味わったことのない経験だった。

 

榛村を榛村たらしめた、特に印象的な要素が2つある。

ひとつは、榛村の声。優しくて心地よく、どこか人を安心させるようなトーンで無性に惹かれてしまう。予告映像にも入っている「僕が言うのもおかしな話だけど、本当に気を付けてくれよ。そいつは人殺しなんだから」というセリフなどは、ちょっと感動してしまう。

洗脳とは、このような話し方で行われるのかもしれないと思うくらい魅力的なのだ。よく知った阿部サダヲの声でもあるのに、なぜこんなにも特異な感じがするのだろうか。



もうひとつは、榛村の目。真っ黒で光のない目と、監督の指示でホワイトニングしたという真っ白な歯のコントラストが不気味だ。鑑賞前も怖かったが、鑑賞後の今もメインビジュアルの榛村と目が合うのが怖い。

優しい声とは裏腹に、感情のない目。この目と声によって、物語と榛村の沼に引きずり込まれた。榛村の顔に感情が宿る数少ないシーンは、恐怖以外の何物でもない。どのようなシーンなのかは、実際に映画を観て確認してほしい。



榛村と接する雅也の考えや表情の変化、面会室のガラスを通して2人の顔が並んだり重なったりする様子にも要注目だ。

この映画でしか味わえない、恐ろしい体験ができる作品。次の展開の予想が常に裏切られる点も楽しめるポイントだ。映画館で観たほうが確実に没入できるので、予告やビジュアルを観て気になった方はぜひこの機会を逃さないでほしい。

『彼女がその名を知らない鳥たち』佐野陣治役


(C)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会

下品で貧相、金も地位もない15歳上の陣治(阿部サダヲ)と暮らす十和子(蒼井優)は、8年前に別れた黒崎(竹野内豊)が忘れられない。黒崎に面影が似た水島(松下桃李)と関係を持つ……というストーリー。

この作品で阿部サダヲが演じる陣治は、言葉を選ばずに言うとまぁ汚らしい。日焼けした顔・ひげ・太った身体という外見もだが、くちゃくちゃと音を立てて食べ物を食べ、食卓で靴下を脱いで足のゴミを取る……という顔をしかめたくなるような行動にドン引きしてしまう。


(C)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会

一日に何度も十和子に電話するのにも狂気を感じるし、好感が持てるポイントがない。自分勝手でわかままな十和子の言いなりでご機嫌取りに終始している様子にもイライラしてしまう。

物語の途中から、陣治へのある疑惑が浮かび、恐ろしい人間に見えてくる。最後に明らかになる真実はどんなものなのか。そして誰も予想できなかったラストに大きな衝撃を受ける。本作もまた、忘れられない体験だ。

ちなみに十和子と陣治だけでなく、松坂桃李の役も竹野内豊の役も全員とんでもないクズである。ちょっと嫌いになりそうなくらいに嫌な奴になりきった4人の演技に敬意を表したい。

>>>『彼女がその名を知らない鳥たち』を観る

次はどんな体験をさせてくれるのか、楽しみで仕方ない



演じているのが榛村と同じ人とは思えないくらい、表情豊かで人間くさい陣治。正しいのかはわからないが自分を犠牲にしてでも十和子への愛を体現し続けた陣治と、自分の欲望のままにたくさんの人を殺した榛村。

両極端といってもいい2人の人物を、この上ないリアリティーをもって演じた阿部サダヲという俳優は、観客を作品の内側へ連れて行き、味わったことのない体験をさせてくれる稀有な存在だ。

彼が今度はどんな世界へ連れて行ってくれ、どんな体験をさせてくれるのか。
非常にに楽しみである。

(文:ぐみ)

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