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『ベイビー・ブローカー』是枝裕和監督 × ソン・ガンホが示す新たな家族観



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『そして父になる』(2013)『万引き家族』(2018)などの作品で知られる是枝裕和監督と、『パラサイト 半地下の家族』で日本においても名を知らしめた名優であるソン・ガンホがタッグを組んだ。

映画『ベイビー・ブローカー』では、赤ちゃんを人身売買する裏家業に手を染めている2人の男に加え、とある理由から自身の子どもを赤ちゃんポストへ預けた女がともに旅をする。

「赤ちゃんが最も幸せに生きられる里親を見つけたい」ーーいつしか、そう願うようになった3人。果たして命が生まれてくる意味とは? 生きていかなければならない理由とは?

これまでさまざまな形の”家族”を描いてきた是枝裕和監督が、新しく提示する死生観と家族観。これまでの監督作品を振り返りながら、ソン・ガンホとの相乗効果がどのように表れているかを考察したい。

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さまざまな家族を描いてきた是枝裕和

血が繋がっていなければ、本当の家族とは言えないのだろうか。

「家族」における最大のテーマに、映画をとおして真摯に取り組んできた是枝監督。それが顕著に表れている作品として『そして父になる』『海街diary』『万引き家族』の3作品が挙げられるだろう。

『そして父になる』は福山雅治主演、子どもの取り違えをテーマにした物語である。



エリート建築家である良多(福山雅治)と妻のみどり(尾野真千子)、そして6歳の息子・慶多(二宮慶多)は何不自由なく暮らしていた。安穏な日々に影が差したのは、病院からのとある知らせ。別の子どもとの取り違えが発生していたという、まさに寝耳に水な話だった。

その後、良多は血の繋がった息子を引き取り育てていこうとするが、さまざまな困難が心を悩ませていく。果たして、血の繋がりは家族における必要条件なのだろうか。

広瀬すず、綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆らが4姉妹の役を務めた映画『海街diary』。広瀬すず演じる浅野すずは、腹違いの妹として存在が知れることになる。綾瀬はるか達が演じる幸田3姉妹は、自分たちが暮らす家へ妹を受け入れ、ともに生活することに。



すでに3姉妹としての”あうんの呼吸”が仕上がっているところへ、いくら妹といっても腹違いの立場で加わることは、一般的に考えると困難がともなうだろう。家族の在り方を描いた是枝作品のなかでも、とりわけセンシティブな姉妹関係に迫った作品といえるかもしれない。

『そして父になる』『海街diary』にも出演し、是枝監督作品ではお馴染みのリリー・フランキー。彼が主役を務めるのが『万引き家族』だ。



血の繋がりのない者たちがひとつの家に住み、収入が少ないなかでギリギリの生活を送っている。とある日、児童虐待を受けている女児(作中で”りん”と命名)を迎え入れたところから、物語の歯車は回り出す。

実の両親にひどい目に遭わされるなら、たとえ血が繋がっていない他人とであっても、温かい家庭で暮らすほうが幸せではないのか。家族とは何か、生きるとは何かーー人としての根源的なテーマに言及した作品である。

さまざまな家族観を描いてきた是枝監督が、新しい着眼点と名優たちとのタッグにより、世に送り出す新作が『ベイビー・ブローカー』だ。



是枝裕和が提示する新たな家族観

映画『ベイビー・ブローカー』は、第75回カンヌ国際映画祭にて2冠を達成した作品。『パラサイト 半地下の家族』で主演を演じたソン・ガンホを迎えた本作にて、是枝監督はまたもや「家族」の在り方をテーマに選んだ。

ソン・ガンホ演じるクリーニング店経営の男・サンヒョンは、借金を抱えるほどの経済難に陥っている。赤ちゃんを人身売買する裏家業に手を染めており、より高値で買ってくれる里親を探そうと必死だ。



裏家業の仲間・ドンスをカン・ドンウォン、産んだばかりの赤ちゃんを”赤ちゃんポスト”に預け、ともに里親探しの旅に参加する母親・ソヨンをイ・ジウン、彼らを現行犯で捕まえようと追う刑事2人をぺ・ドゥナとイ・ジュヨンが演じている。



サンヒョンたちが里親探しに乗り出したきっかけは、お金欲しさだった。しかし、赤ちゃんにとっての未来を考えるうちに「より幸せな人生を実現できる里親を」と希望するようになっていく。

産まれてすぐに捨てられた赤ちゃん。果たして彼らに、産まれてきた意味はあるのだろうか。あるとしたら、どんな意味の元に生きていくのだろうか。そもそも、幸せに生きていけるのだろうか。



「血の繋がり」をテーマに、いろいろな家族の在り方を描いてきた是枝監督。『そして父になる』では子どもの取り違えをテーマにし、『海街diary』では姉妹関係を描き出し、『万引き家族』では”あやふやな家族”を浮き彫りにした。そして本作『ベイビー・ブローカー』では、より人類としての根源的なテーマに肉薄していく。「命そのもの」だ。

これまでと同様に、是枝監督は映画を通して私たちに問いかける。「産まれてきた命には等しく意味があるのか?」「望まれずに産まれてきた命にも意味はあると言えるのか?」ーーそれらの問いは、簡単に答えることを許さない種類の問いかけだ。

是枝裕和×ソン・ガンホの相乗効果

映画『パラサイト 半地下の家族』にてさらなる脚光を浴びたソン・ガンホ。彼を中心とするキャスト陣と是枝監督の間で『ベイビー・ブローカー』の構想は着々と進んでいた。

『パラサイト 半地下の家族』もある意味で、家族の在り方をテーマにしている。本作でソン・ガンホの演技を見た方なら、彼がいかに泥臭く実直に、かつ人間味のある表現をするか知っているだろう。作り手と演じ手が根底に流れるテーマ(「命」や「家族」)を共有したとき、生まれる相乗効果は計り知れない。



さまざまな方向から「家族とは何か」を考え続けてきた是枝監督。自身にとって初の韓国映画作品にソン・ガンホを迎え、彼を中心に脚本を組み立てていった。

その結果、生活を立て直すために仕方なく闇の世界に手を染めるやるせなさや、金と命を天秤にかけなければいけないもどかしさに向き合った男・サンヒョンがスクリーン上に実現。

人生はままならないものであること、生きていくことを最優先にしたときに手のひらからこぼれ落ちていくものすらも、悲哀たっぷりに表現している。



是枝監督作品における役者ソン・ガンホを見つめたとき、そこに共通して浮かんでくるのは「ひと筋の希望」ではないだろうか。

思い通りにならないのが人生であり、ときには神を呪いたくなる事態に見舞われることもある。しかし、最後には蜘蛛の糸を辿るような希望を提示され、各々の実生活へと帰らされるような感覚があるのだ。

『パラサイト 半地下の家族』の結末にて、おそらく何十年もの時間をかけてモールス信号を送り続ける父親(ソン・ガンホ)。ひと筋の希望を繋ぐようにして、その息子は例の別荘を購入し父親を助けるべくエリートになることを決意する。第三者からすると絶望でしかないが、当事者にとっては生きる支えになっているのかもしれない

是枝監督作品と役者ソン・ガンホの間には、そんな”希望”が共通して見えてくる。

韓国の名キャストたちと作り上げた、新しい死生観と家族観を炙り出した映画『ベイビー・ブローカー』。観賞後にはぜひ、”命”と”意味”の関係性について、思いを馳せてほしい。

(文・北村有)

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