インタビュー

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2022年06月24日

映画『神は見返りを求める』吉田恵輔監督インタビュー「いつだって愛を描きたい」

映画『神は見返りを求める』吉田恵輔監督インタビュー「いつだって愛を描きたい」


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主演・ムロツヨシ、共演・岸井ゆきのの布陣で送る映画『神は見返りを求める』が6月24日(金)に公開される。ムロツヨシ演じる主人公“神のように優しい男”田母神と、岸井ゆきの演じる“底辺YouTuber”ゆりちゃんの物語。ともに同じ夢を志すふたりが、とあるきっかけで豹変する様に目が引きつけられる。

本作を手がけた吉田監督いわく、この映画のテーマは「見返りを求める男と、恩を仇で返す女」。構想のきっかけや、役者・ムロツヨシと岸井ゆきのの魅力についてお話を伺った。

吉田監督が「YouTuber」を通して描き出したリアル


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――まず、本作で大きく「YouTuber」を取り上げたきっかけについて教えてください。


吉田恵輔監督(以下、吉田):映画『空白』(2021)の脚本を書いたあとだったので、次はコメディ要素を取り入れたポップな作品を書きたいなと思ったのが、最初のきっかけです。見返りを求める男と、恩を仇で返す女の人間関係を描き出すのに、どんな舞台がピッタリ合うかをしばらく考えてました。

たまたま別の打ち合わせで「YouTuberを扱うのはどうだろう?」と行き着いたんです。僕自身にとってはまったく未知の世界だったので、舞台設定が決まってから急いでYouTuberについて勉強し始めました。

YouTuberはこれまで描いてこなかった分野だし、自分にとっても刺激を感じられるはず。なおかつ、動画配信には「第三者の視点」も加わるから、物語に広がりも生まれると思ったんです。


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――実際の撮影は、どのように進んでいきましたか?

吉田:もう、死ぬほど大変でしたね!

YouTubeの画面を作り込まなきゃいけないことを、すっかり失念してました。サムネイル画像、日付、再生数、関連動画など、すべてゼロから作らないといけない。本物の画面を使うわけにはいかないですからね。物語の本筋には関係のない部分だからこそ「なんでYouTubeにしちゃったんだろう?」って後悔しました。

でもやっぱり、YouTubeっていう分野にはとても興味があるんですよ。これまでもエンタメ界隈は舞台から映画、映画からテレビと移り変わってますよね。現代の主流になりつつあるのは、YouTubeを始めとするインターネット配信。プロじゃなくても参入できる、まったく新しい文化を元に物語を描き出すのは、大変なのと同時にとても面白かったです。


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――吉田監督自身、YouTubeを含めた動画SNS文化には、どんな印象をお持ちですか?

吉田:ネガティブとポジティブ、両方の見方がありますね。保守的な言い方をしてしまうと、YouTubeには“人の褌で相撲を取ってる”印象が拭えない。だからといって、映画のように長く残る作品のほうが、位が上なわけでもない。

僕自身は嘘をつきたくないと思ったので、映画のなかにも、両方の目線を感じられるセリフを盛り込みました。

新しいものが台頭すると必ずネガティブな意見が出てくるのが、世の常じゃないですか。映画も最初は三流扱いだったし、ドラマだってそう。見慣れないものには違和感がつきまとうものなんです。

だから、YouTubeに対する世間的な見方も、今後もっと変わっていくんじゃないかと思います。ほかのエンタメとの違いや境目も曖昧になってくるでしょうしね。 

変わる人と変わらない人の違い


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――本作で描かれる“人間が豹変する様”を見ていると、絶妙なリアリティを感じました。とくに、岸井さん演じるゆりちゃんの変貌ぶりはすごいですね。

吉田:ゆりちゃんは、最初は純粋に、田母神とYouTubeをやるのが楽しかったはずなんですよね。でも、もっと刺激的な人と出会ってしまうと、自分だけ違うステージに行けたと勘違いしちゃうのが人間。本来は、相手を見下しているとバレちゃいけないのにね。

――お芝居に関して、岸井さんとすり合わせをする場面などあったのでしょうか?

吉田:いや、基本的に僕が芝居に関して何か言うことはありません。今作に限らず、これまで作ってきたほとんどの映画では、芝居が上手で理解力がある人をキャスティングしているので。

僕自身が脚本を書いていて監督も兼ねているので、作品や芝居に対する解釈について“正解”を持ちすぎてるんですよ。だから、役者に対してアレコレ言いたくないんですよね。

あえて情報は与えすぎずに、どんな芝居で返してくるかを見させてもらう姿勢を心がけてます。


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――ゆりちゃんのように、いわゆる「売れる」「売れない」によって、変わる人と変わらない人がいますよね。いつまでも変わらないでいるためには、どうすればいいのでしょうか?

?田:「相手にしてもらったこと」と「自分がしてあげたこと」を天秤に乗せたときに、前者を金貨一枚分多く見積もっておくことが大事じゃないかな。

たとえば、自分が食事を奢ってあげたことは鮮明に覚えてるけど、誰かに奢られたことって意外に早く忘れちゃうものですよね。相手にしてもらったことを少しだけオーバーに覚えておくと、フェアなんじゃないでしょうか。

「個性100」と「生々しい素人」がぶつかった化学反応


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――岸井さんとムロさんをキャスティングする過程において、お二人の名前はすぐに浮かんだのでしょうか?

吉田:岸井さんの名前はすぐに浮かんだんですけど、田母神を誰にお願いするかは、少し考えましたね。

最初は『Shall we ダンス?』(1996)に出演されていた役所広司さんを思い浮かべたんですよ。ただ『空白』を書き終わって、もう少しポップで明るめな作品を作りたいなと思ったときに、コメディアン的な能力がある人のほうが合うのかな、と思い直して。そこからムロツヨシさんに行き着きました。


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――吉田監督から見て、お二人はそれぞれどんな魅力をもった役者ですか?

吉田:ムロさんは、一言で表すなら「完全個性」ですね。類稀なる技術を土台にした個性を、これでもかと追求した人。芝居もルックスも唯我独尊じゃないですか。自分で作り上げた”パイオニア的突破力”を見せてくれるので、彼の芝居に対しては強弱しか言うことはありません。

岸井さんは、スーパーコンピューターくらい正確な芝居ができるのに、ものすごく素人臭を出せる役者。「生々しい素人」なのに、毎度のように完璧なことをしてくるんですよ。そんな「生々しい素人」と「完全個性」がぶつかると、ちょうど良いバランスになるのかな、と思います。

ネット全盛時代に対する警告と、少しの希望




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――吉田監督の作られる映画には、人間のダークな面も描かれながら、最後には少しの優しさを感じるのが特徴のひとつかと思います。

吉田:やっぱり最終的には、形は違えど愛を描きたいと思ってるんです。友情、親子愛、恋愛、いろいろな愛を見せて終わりたい。今作のクライマックスシーンも、僕なりの愛を表現して締めくくったつもりです。

――見る人によって、捉え方が千差万別にわかれそうな結末ですよね。

吉田:これからますますインターネットが進化していくとともに、“匿名性を奪われた第三者”と戦わなきゃならない時代もやってくるはず。顔が隠れていたら言いたい放題だけど、顔や本名を晒された瞬間に何をするかわからない怖さとセットだと思うんです。インターネットやSNSというのは。

クライマックスでは、そんな風潮に対する警告と、少しの希望を表現したつもりです。少し上を向いたら良い天気が広がってるかもしれないよ、っていう。起こることすべてが最悪なわけじゃなくって、世の中は見方次第で青空にできるんだよって伝えたいんですよね。

最終的には、観客の皆さんにどう捉えられてもいいと思ってるんですよ、それが誰かの人生に繋がるんだとしたら。いつだって善意と悪意は隣り合わせですからね。


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――吉田監督の、今後の作品構想について教えてください。

吉田:『空白』より、もっと嫌な気持ちになるものを書こうかな、と思ってます。こんなこと言っちゃうと、YouTubeの考察動画で「吉田監督はサイコパス」とか言われちゃうかもしれないけど。

なんにせよ、僕は「愛」を描きたいんですよ。その愛の形が苦しく見えてしまうんだと思うんですが……きっと、見た方のレビューに「激重」とか書かれちゃいますね(笑)。


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(撮影=Marco Perboni/取材・文=北村有)

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