2022年06月23日

『PLAN75』倍賞千恵子の演技に酔いながら突きつけられる”命のリミット”

『PLAN75』倍賞千恵子の演技に酔いながら突きつけられる”命のリミット”



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「75歳から自分の生死を選べる社会制度」ーー映画『PLAN75』は、もしかしたら少し未来の日本で実現してしまうかもしれない、安楽死を支援する制度・PLAN75を題材にしている。

少子高齢化が進む日本でこの映画を見た瞬間、妙な生々しさに恐怖が迫り上がってきた。戦々恐々とする一方で、PLAN75と向き合う高齢者・角谷ミチを演じる倍賞千恵子の演技が染みる。

PLAN75を推進する市役所職員・岡部ヒロムを磯村勇斗が、PLAN75の申請者をケアするコールセンターの担当者・成宮瑤子を河合優実が演じている点にも触れたい本作。

ベテラン・若手それぞれの表現力によって、この映画が投げかけるテーマがより深化していると言えるだろう。



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倍賞千恵子の「手」と「声」に注目

倍賞千恵子演じる角谷ミチは、ホテルの客室清掃に従事する78歳。とあるきっかけで職を失った彼女は求職活動に勤しむが、その困難さに心が折れ、やがてPLAN75に申し込む。



倍賞千恵子は、その表情、目の動き、所作、どれをとっても言い表せない”深み”を感じさせる役者。その滋味溢れる演技にはさらなる磨きがかかっている。彼女が映し出されるシーンは美しく、だからこそ悲しみも強い。

とくに注目して欲しいのは「手」「声」。ミチが受話器を手に取るシーンがいくつかある。希望を持って耳に当てるときもあれば、やるせない予感に力なく触れる瞬間も。そして作中でも言及される「良い声」でもって、彼女の喜びや不安が余すところなく表現される。



丁寧な演技に酔いながらも、私たちは想いを馳せずにはいられない。自分にも訪れるかもしれない”命のリミット”について。

PLAN75申請者に心を寄せる若手2人の演技

PLAN75の申請窓口で働くヒロムを演じる磯村勇斗。そしてコールセンター勤務の成宮を演じる河合優実も、この映画に味わいを添える役者だ。



ヒロムは市役所職員として、1人につき30分と設定された時間に忠実に、機械的に申請者の対応をする。そのなかで、自身の叔父がPLAN75に申し込んだ現実と向き合うことになる。

片や河合優実が演じた成宮のように、自ら死を選んだ者と電話で話すのは、容易いことではないだろう。わからないことは丁寧に説明したり、他愛もない雑談をしたりするのだ。近い将来に”いなくなる”ことが決まっている人と。



身内が”当事者”になったことで、初めてPLAN75を自分ごととして捉えられるヒロム。そして流れ作業のように死を選ばされる高齢者との交流に、心を悩ませる成宮。2人の若者の機微はそのまま、この映画を見る私たちに繋がる。



PLAN75の目的は、高齢者の数を減らすこと。住む場所を決めるのも仕事を探すのも苦労する高齢者を、社会的に減らすことを目指した制度。

それが是か非かは、見る人それぞれに委ねられる。

(文・北村有)

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(C)2022「PLAN75」製作委員会 / Urban Factory / Fusee

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