続・朝ドライフ

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2022年09月30日

「ちむどんどん」最終回:比嘉一族無双だがお金と命の扱いに最後まで疑問が残った

「ちむどんどん」最終回:比嘉一族無双だがお金と命の扱いに最後まで疑問が残った


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2022年4月11日より放映スタートしたNHK朝ドラ「ちむどんどん」。

沖縄の本土復帰50年に合わせて放映される本作は、復帰前の沖縄を舞台に、沖縄料理に夢をかける主人公と支え合う兄妹たちの絆を描くストーリー。「やんばる地域」で生まれ育ち、ふるさとの「食」に自分らしい生き方を見出していくヒロイン・比嘉暢子を黒島結菜が演じる。

本記事では、最終回となる第125回をライター・木俣冬が紐解いていく。

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ときに202X年

泣きそうになりました。

暢子(黒島結菜)は”念願”のお店・やんばるちむどんどんを”歯を食いしばって”オープンした当日、歌子(上白石萌歌)が高熱で倒れて三日三晩、昏睡状態に陥ります。

医者はでき得る限りの手を尽くした、あとは……ということで、矢も盾もたまらず、賢秀(竜星涼)、暢子、良子(川口春奈)はお墓のある海に向かい、お父ちゃん(大森南朋)に助けを求めます。これは「エール」オマージュ?

そこで明かされたのはまもるちゃん(松原正隆)優子(仲間由紀恵)と収容所で一緒だった人物であること。ご苦労されたのですね。そう思うと、第124回の料理を食べて一言は、何も食べられなかったときの苦しみを感じて、いま、こうして美味しいものをみんなで食べることができることがどれだけ幸福かを思い知らされるようでした。

伝えていかないといけないけれど容易には語れないことの象徴がまもるちゃんだった。
まもる(守る)という名前も意味があったのでしょう。

そして時は過ぎ……202X年(令和X年)。

比嘉家兄妹は年をとり、孫ができ、それぞれが大家族になりました。ある日、みんながやんばるちむどんどんというか実家に集合します。その目的は、優子(仲間由紀恵)の誕生日を祝うこと。

誕生を祝うこと、生きてることを祝うこと。「命どぅ宝」を言葉では言わずに、まもるちゃんと優子の誕生日と子孫繁栄で表現しています。そしてカチャーシー。

稲垣来泉さん(暢子)、土屋希乃さん(良子)、浅川大治さん(賢秀)、布施愛織さん(歌子)が孫役で登場して、みんな元気で、そこは純粋に顔がほころびました。子供の元気な生き生きした姿はエネルギーをもらえます。まさに命の象徴です。

子供時代以降「ちむどんどん」に欠けていたのはこの最も大事な命の躍動感をキープし続けられなかったことでしょう。

賢秀はやたらと動いていたけれど、飾らないシンプルな ちむがどんどんする波動が画面を通して感じられなかったことが続いた気がします。

最終回の前で突然、歌子が倒れて、兄妹が走って叫んでも、黒島さんが他の番組で走って叫んでいたときのような躍動感がなかった。ふつうはロケで走って叫べば、たいてい見ているほうにも響くものですが(かのとんでも朝ドラの誉も高い「純と愛」だって最終回、ヒロインが崖で叫んでいるシーンには凄みがありました)、どんなに自然のなかで走って叫んでも嘘が勝ってしまうとはある意味すごいです。

嘘の最たる部分は歌子の病気です。病院の出入り口、待合室がなぜかロケでそこだけリアルでしたが、それすらセットぽく見えるという嘘の力の強さには驚きます。

歌子が倒れることは命の大切さを強調するためなのでしょうけれど、どうなるの? と続きを気にする材料になっているように見えて、心配する気持ちを利用されているようで胸がうずきました。

ドラマの中盤で歌子が重病なんじゃないかと思わせたエピソードや、歌子が仮病を使うエピソードはとりわけ本気で心配したらだめだと思わされ、視聴者の善意を弄ばれているようにも筆者は感じました。
月日が経過したとき、お墓が映し出され、誰が亡くなったのだろう?と気にさせて、比嘉一家は全員健在とホッとさせる仕掛けのようにも見えてしまいます。

このドラマから命とお金の大切さを読み取ることも可能です。ただ、命は前述のように、歌子の病気を物語の駆動装置にしていることが疑問なのと、お金も、最後まで賢秀はタクシー料金を踏み倒すことを喜劇的に使い、借金は倍にして返したとナレーション(ジョン・カビラ)で言われても……。

真面目なところとユーモアとがうまく融合されていないと筆者は感じましたが、ため息が出る、泣きそうになる という言葉の意味はひとつではないように、このドラマをどう感じるかはひとそれぞれです。

ホンモノのタクシー(タクシーの運転手役が沖縄出身のゴリさん)、病院の待合室のほかに202X年時の共同売店もロケでした。ところで善一(山路和弘)はどうなったのか。あんなにずっと出ていたのに急に124回から出なくなって何も言及されない。まもるちゃんと統合されちゃったのでしょうか。

2X年、和彦(宮沢氷魚)はちょっと沖縄言葉になり三線も弾いて沖縄に馴染んでいます、民俗学の本もたくさん出していますが、その本のタイトルが「沖縄の歩み」「私たちの沖縄」「沖縄の文化について」「沖縄の民俗学」と教科書や参考書のようにフラットなものばかりで、それが「ちむどんどん」を象徴していたような気がします。物語にはもっとロマンや作り手の強い意思がほしい。

ただ、暢子(68)の新聞記事の談話は「ちむどんどん」の全貌を網羅したわかりやすい文章でした。

(文:木俣冬)

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