インタビュー

2022年11月04日

稲垣吾郎インタビュー『窓辺にて』で感じた今泉力哉監督の想い

稲垣吾郎インタビュー『窓辺にて』で感じた今泉力哉監督の想い

今泉力哉監督の最新作『窓辺にて』が11月4日(金)に公開される。大人のラブストーリーを描く本作では、ある悩みを持つ市川茂巳が主人公だ。茂巳を軸に「好き」という感情自体について掘り下げられており、改めて大人たちが「愛とはなんなのか」を考えさせられる作品となっている。

今回は、茂巳を演じる稲垣吾郎にインタビュー。稲垣が感じる、茂巳との共通点、そして今泉作品ならではの空気について語ってもらった。

「エモーショナルに生きすぎたくない」自身と役との共通点

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――稲垣さん演じる主人公の市川茂巳は他人には理解されづらい感情を抱えているという役どころですが、今泉監督がオフィシャルインタビューで「稲垣さんは『自分が知ってる感情だ』と言ってくださった」と話されています。具体的にどういった部分で知っている、わかる、と感じられたのでしょうか。

稲垣吾郎(以下、稲垣):この作品で一貫して言えるのが何かを手放すということ。蓄えることに満足していると、肝心なものが結局、何も残っていなかった、ということもあります。僕自身はあまり手を放せないほうなんですけど、茂巳のように生きていきたいな、ということは最近よく思いますね。

あと、この物語のひとつのベースになっているのが夫婦の不倫。その中で、主人公の茂巳は自分の妻が浮気をしていても、ショックを受けないんです。これは今泉監督が30代のときにふと湧いた感情らしいんですけど、僕も分からなくないかな、って。喜怒哀楽がないわけではないんですけど、日常では、あまりエモーショナルに生きすぎたくないタイプなんです。あまり人に期待したりとか、人に依存することもないので、それがつまらないだとか、心がないように思われてしまうかもしれないんですが、その辺の僕の思いがこの役とは通じているように感じました。冷めていると言えば冷めているんですけど、今泉さんにもそういうところがあるんじゃないのかな。

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世の中には喜怒哀楽の表現の基準があって、例えば、この作品の中では「浮気されたら普通は怒るでしょう。怒らないっていうことは、あなたは相手を愛していない証拠じゃないの」って言われるシーンがあるんですが、それは世の中の基準。でも、そこに同調しないと、軽薄な人間だと言われたり。難しいですよね。一緒になって喜ばなきゃいけないとか、そういうのに冷めちゃうんですよ、僕。この作品ではそういったメッセージもコミカルに、軽やかに描いています。

――稲垣さんは監督と心で通じ合っているような感覚でいた、とコメントされていましたね。

稲垣:もともと今泉監督の中にある個人的な想いや感情を、僕だったらそれを表現できるとシンパシーを感じてくれたんでしょうかね。撮影中はすごくいい時間でした。そういう通ずる部分のある2人ですから、必要以上に会話をすることもなくて、それがまた面白かったな、と。

楽しかった俳優としてのチューニング

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――そういった中で、役作りの過程や演じていて楽しかった部分はありますか?

稲垣:お芝居はその作品のスケール感や温度に合わせなきゃいけないと思うんですよ。もちろん、人それぞれではあると思うんですけど、僕は合わせていく方。やっぱり、今泉組には今泉組の芝居の仕方があって、そこに自分を合わせていきます。今泉監督の作品は、ナチュラルというか、ドキュメンタリーみたいじゃないですか。いろんなシーンを切り取ってますけど、ワンシーンでも、ちゃんと前後が感じられるような。そういうシーンっていいですよね。観ている人が前後の出来事を感じられるように書いてくれている脚本を、僕がどういうふうに俳優としてチューニングしていくのかが楽しかったですね。

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――中村ゆりさんや玉城ティナさん、志田未来さんといった俳優の皆さんとのシーンもひとつの見どころだと思います。その中ではどのようなチューニングをされたのでしょうか。

稲垣:やっぱり、お芝居は相手との呼吸で生まれてくるものであって、僕は自分ひとりで作り込んでいくものではないと思っているんです。茂巳はいろんなところに行きますが、どこででも受け身。でも楽しかったですよ。特に、終盤に中村ゆりさんとの夫婦2人のシーンがあるんですけど、そこはワンカットで長回しで撮っているんです。8分から9分ぐらいの予定だったんですけど、実際は12分のシーンになりました。最初はワンカットの予定ではなかったんですけど、リハーサルでやってみたらよかったので。お芝居は、面白かったら割る必要なんてないですからね。作品の頭から順に撮影してくれていたので、それまでの溜められていた自分の気持ちを吐露できるようないいセリフが描かれていると思います。

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――急遽、ワンカットでの撮影ということで緊張感もありそうですね。

稲垣:そうですね。本当にフレッシュな気持ちで、まさにドキュメンタリーのようなお芝居ができたのかな、と思っています。実際に試写を見たときも、自分が出ているから、じゃなくて、ちゃんと映画としてそのシーンを見ることができました。観ていて緊張もありましたね。でもそれは、自分の芝居の出来に対する緊張感じゃなくて、作品に引き込まれたからこその緊張感でしたね。自画自賛になっちゃいますけど、「このシーンはすごいな」と思いました。


やり続けることに意味がある

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――茂巳は、書きたいのに書けない、ではなく、ある種の満足感を得て書かなくなった小説家ですが、稲垣さんご自身がこれまでの経験の中で共感する部分はありますか?

稲垣:単純に書く人はずっと書き続けてほしいな、って僕は思いますけどね。俳優もどんなにすごい作品があったとしても、やり続けることにも意味があると思うので。ただ、茂巳さんは、それよりも上の境地にたどり着いたんでしょうね。僕はそこまでのものを生み出したことがないので、そういうふうに考えたことはないかな。

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でも、例えばまた5人か6人のアイドルグループを作るからオーディションします、って言われたらやらないかもしれない(笑)。あれが一番な形だったな、というのが僕はあるので。だから、語弊があるかもしれないけど「新しい地図」も僕はあんまりグループとは言ってないんです。どこか、心の中ではあれが一番大きなものだったから、かけがえのないものだったから。そういうふうに考えると、茂巳さんの気持ちもわからなくもないかな。ちょっと強引ですけどね。

――作中では、“贅沢な時間”についても話題が出てきます。稲垣さんにとって、贅沢な時間はどのようなものでしょうか。

稲垣:時間に追われないで、なにも決めない時間って贅沢ですよね。ただ気の向くままに、散歩したり。それはすごく贅沢だなあ。あと、自然もいいですよね。海を眺めたり、山に行ったり、ゴルフ場とか、心が洗われます。時間を決めないで、自然と一体化、というと大げさかもしれないですけど、人間社会ではなく、自然の秩序の中に身をゆだねるというか。

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――本作では小説も重要になってくるかと思うのですが、稲垣さんも本はよく読まれますよね。

稲垣:読書はちょっと波があるかな。すごくブームのときと、離れちゃうときと。僕はその作品を書いた方と対談したり、お会いできることもあるんですけど、これも最高の贅沢ですよね。そう考えると、僕は贅沢な時間が多いかもしれません。

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――稲垣さん流の読書の楽しみ方はありますか?

稲垣:読書の楽しみ方は無限ですよね。人それぞれでいいと思います。でも例えば……1人の作家を深掘りしていくとか、好きな映画の原作を読むとか、自分が好きな人が勧めてくれる本とか。あとはネットで意見を交わすとか、人と繋がれるのもいいんじゃないかと思います。

(撮影=渡会春加/取材・文=ふくだりょうこ)

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