映画コラム

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2022年11月17日

『すずめの戸締まり』3作連続100億円超えに視界良好!真の国民的映画監督へ

『すずめの戸締まり』3作連続100億円超えに視界良好!真の国民的映画監督へ


2022年11月11日(金)、新海誠監督の待望最新作『すずめの戸締まり』が公開され、公開から3日間で観客動員133.1万人興行収入18.8億円を記録しました。

<『すずめの戸締まり』と比較>新海誠監督作品の公開3日間の数字


  • 『君の名は。』(2016)

    動員:138.7%
    興収:147.4%


  • 『天気の子』(2019)

    動員:114.9%
    興収:114.7%


上記の数字を踏まえて『すずめの戸締まり』の興行収入100億円の大台はほぼ確実な情勢となりました。

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『君の名は。』前夜:ポストジブリ体制の構築へ

(C)2016「君の名は。」製作委員会

2014年の『思い出のマーニー』をもってスタジオジブリが制作部門の閉鎖を発表しました。

宮崎駿監督の引退宣言のみであれば、“毎度のこと”で済ませられるのですが(実際に現在も長編アニメーション作品『君たちはどう生きるか』を制作中です)、ジブリの制作部門の閉鎖となると事情が異なります。

それまで2年に1本ほどオリジナル長編作品が公開され、3~4年の1本のペースで本丸の宮崎駿監督作品が公開されるということが続いていました。配給元の東宝にとって、前者は興行収入50億円前後、後者は興行収入100億円以上を確実に稼ぎ出すドル箱タイトルです。

しかしジブリが動きを止め、新たに興行収入50億から100億円をコンスタントに稼ぎ出せる長編アニメーション作品制作体制を整える必要がありました。
(C)2012「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会

そこで白羽の矢が立ったのが『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』などで興行収入が右肩上がりの成長を見せていた細田守監督。

さらにジブリのスタッフ出身で、ジブリ時代には『借りぐらしのアリエッティ』『思い出のマーニー』を監督し、ジブリの制作部門の解散後の受け皿というべきスタジオポノックを立ち上げた米林宏昌監督。

(C)2016「君の名は。」製作委員会

そして、上映規模こそ小さいものの熱烈な支持を集めていた新海誠監督でした。(当時の規模感として、『君の名は。』の前作『言の葉の庭』は興行収入1.5億円ほどと推定されています)

ポストジブリ体制を確立する動きが2015年細田守監督の『バケモノの子』から始まり、その流れの中で新海誠監督の『君の名は。』が公開。

(C)2016「君の名は。」製作委員会

今となっては考えられませんが、『君の名は。』はタイトル発表の頃はノーマークに近い存在でした。むしろ当時は同年・同時期公開の『シン・ゴジラ』に注目が集まっていました。ところが『君の名は。』は、高評価と口コミの連鎖で大ヒットを記録していきます。

筆者が20代だった頃はちょうどミニシアター系文化の最盛期で、“劇場が混んでいる”ことがものすごい宣伝効果を生んでおり、『君の名は。』のヒットはまさしく“劇場の混雑による宣伝効果”を思い起こさせました。

(C)2016「君の名は。」製作委員会

最終的に『君の名は。』興行収入250.3億円を稼ぎ出し、当時としては『千と千尋の神隠し』に続く邦画歴代2位の数字です。(現在は3位)

2000年以降、興行収入100億円以上を稼ぎ出した日本人監督は宮崎駿監督と『踊る大捜査線』シリーズの本広克行監督しかいませんでした。

(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

ここ数年は『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の外崎春雄監督、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の庵野秀明監督、『劇場版呪術廻戦0』の朴性厚監督、『ONE PIECE FILM RED』の谷口悟朗監督と100億円以上を稼ぎ出した日本人監督も増えました。

その一方で、複数本の100億円映画を出したのは宮崎駿監督や本広克行監督、そして『君の名は。』の250.3億円に続いて『天気の子』で141.9億円を稼ぎ出した新海誠監督の3人だけです。

(C)2019「天気の子」製作委員会

ちなみに東宝によるポストジブリ路線のラインナップには、以下のような作品があります。

  • 『バケモノの子』(2015)
  • 『君の名は。』(2016)
  • 『メアリと魔女の花』(2017)
  • 『未来のミライ』(2018)
  • 『天気の子』(2019)
  • 『竜とそばかすの姫』(2021)
  • 『すずめの戸締まり』(2022)

また2023年は宮崎駿監督作品かスタジオポノックの新作が予定されています。

2020年はコロナ禍で映画の公開スケジュールが乱れたためローテーションの作品はありませんでしが、別枠として『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が公開。2021年には『劇場版呪術廻戦0』も公開されました。

『すずめの戸締まり』公開:新海監督作品最高のスタート!


『すずめの戸締まり』は2021年の12月に製作発表会見が行われ、メインキャストや音楽について話題性が途切れることなく、会見から約11カ月後の2022年11月11日(金)に公開。

本作は公開3日間で観客動員133.1万人興行収入18.8億円という破格の数字を叩き出し、新海誠監督作品の公開3日間のとしては最高の数字となり、文字通りのロケットスタートです。このスタートを踏まえて、新海誠監督は3作続けての100億円映画監督となりそうです。(宮崎駿監督以来の偉業

ちなみに3本以上の100億円映画監督であることも、宮崎駿監督に続く快挙です。

“新海流劇場体験”はどこまで伸びるか?


新海誠監督は『すずめの戸締まり』の企画をコロナ禍の中でスタートさせたことで、実際に緊急事態宣言によって映画館が休館したり、入場制限が行われたりしたことを目の当たりにしました。

そのため『すずめの戸締まり』において新海監督は“劇場体験・映画体験”を強く意識していることを語っていて、その実現にある種の使命感すら感じさせます。


その考えは、原作小説が公開の2か月以上前に発売されたことにも表れているような気がします。
物語の理解は小説で済ませてもらったうえで「映画館では映画の『すずめの戸締まり』」を浴びるような形で体験ほしい」というところなのでしょう。



映画『すずめの戸締まり』は震災(地震)の描写・人命の取り扱われ方・登場人物の動機など賛否はあるでしょう。一方で“スケール感”という点において、新海誠監督作品としては最大級のため、大画面・高解像度・優れた音響設備でこそ真価を発揮する映画であることは間違いないでしょう。

まさに『すずめの戸締まり』は“劇場体験・映画体験”の映画です。

一方で、同じ思いのもとに作られた映画は本作だけではありませんでした。

先行する形で公開された『トップガンマーヴェリック』、そして現在も公開中の『ONE PIECE FILM RED』です。

(C)2021 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

トム・クルーズ主演の『トップガン マーヴェリック』は大迫力の空中アクションをふんだんに取り込み、まさに“映画館映え”する作品として、興行収入134億円を記録。コロナ禍以降、最大のヒット洋画となりました。公開延期が続きましたが、劇場公開にこだわり続けた“トム・クルーズの勝利”と言えるでしょう。 

©尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会

そして『ONE PIECE FILM RED』。興行収入182億円を突破し、さらに上映が続いている状態です。

『ONE PIECE FILM RED』のヒットの要因は複合的な部分があると思いますが、やはり人気アーティストAdoを全面的に押し出した“音楽映画の一種とも言える形”にしたことは大きく、本作もまた“劇場体験・映画体験”をもたらしてくれる映画でした。

【関連記事】<考察>『ONE PIECE FILM RED』記録破りの大ヒットを生んだ戦略と時代背景

つまり『すずめの戸締まり』の直前に“劇場体験”型映画が2作、しかも大ヒットという形で観客の前に提示されたことになります。ここ数年の日本の映画人口(有料動員)から逆算すると、熱心な映画ファンでない人々が1年に映画館に向かう回数は、平均すると年に1回程度です。

そのような、いわゆる“ライト層”はすでに『トップガン マーヴェリック』か『ONE PIECE FILM RED』でコロナ禍以降の“劇場体験・映画体験”を済ませてしまっている可能性があります。


『すずめの戸締まり』が“腰の強い”興行を展開させるには「年に1回くらい映画館で映画を観る人」の足を映画館にまた向けさせる必要があります。

(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

11月中は対抗作品も少ないですが、12月に入ると12月3日(土)に『THE FIRST SLAM DUNK』、12月16日(金)に『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』が公開予定です。そのため12月はシネコン内での劇場の取り合い、観客の取り合いが起きると考えられます。
 
『すずめの戸締まり』は興行収入100億円を超えることは確実だと言えそうですが、その先については12月の動向がポイントです。
 

『すずめの戸締まり』積極的な宣伝展開

『すずめの戸締まり』は宣伝においても、前作『天気の子』に比べて非常に積極的な感触があります。

『天気の子』の前宣伝はいくつかの動画と画像やスタッフ・キャストのインタビューだけで押し通しましたが、『すずめの戸締まり』は一転して実にオープンなものに。


マスコミ向けはもちろん一般向けの完成披露試写会、11月7日(月)のIMAX先行上映を開催したことなどは、まさに本作の積極的な宣伝展開の象徴的な出来事といえます。

 他にも過去の新海作品のIMAXシアターでのリバイバル上映や『すずめの戸締まり』公開直前に『君の名は。』『天気の子』を地上波放映。また金曜ロードショーでは『すずめの戸締まり』冒頭12分映像の解禁(一部配信系でも解禁)など認知度アップにこれでもか!というほど力を入れています。


そして筆者は大ヒット作品の大規模公開がすっかり定着した、TOHOシネマズ新宿の初日の様子を見てきました。TOHOシネマズ新宿は『すずめの戸締まり』に30回以上の上映回数を用意しました。

(C)Marvel Studios 2022

同日公開であるマーベルの超話題の大作『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』については、TOHOシネマズ新宿はこちらも20回以上の上映回数を確保していました。

1つのシネコンで「2作品に50回以上の上映」についてはまた別の議論を呼んでいますが、やはりというべきか“流石の混雑”でした。特にグッズはすさまじい行列。(最近はチケットをネットで事前購入できるため、劇場のグッズ売り場を指標としています)

『すずめの戸締まり』と『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』が同日公開のため「観客の取り合いで共倒れ」現象が発生する可能性もありましたが、蓋を開けてみると相乗効果で劇場を盛り上げている印象でした。



数字の面や劇場の盛り上がり方、ネットの反応としても上々のスタートを切ったと言っていい『すずめの戸締まり』。

先行する大作もありますが、今後も追い付け追い越せの気持ちで盛り上がることを祈ります。

(文:村松健太郎)

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