映画コラム

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2022年11月28日

「鎌倉殿の13人」悲劇のピュア将軍・源実朝——柿澤勇人を楽しむ“3作品”

「鎌倉殿の13人」悲劇のピュア将軍・源実朝——柿澤勇人を楽しむ“3作品”

(C)NHK

「大海の 磯もとどろに 寄する浪 破れて砕けて 裂けて散るかも」

これは、鎌倉幕府三代将軍・源実朝が詠んだ“失恋”の歌である(三谷幸喜の解釈)。やっとの思いで打ち明けた恋が、破れて砕けて裂けて散ったのだ。胸が張り裂けそうな、血を吐くような、そんな思いが伝わる。血を吐いた先にいるのは、北条泰時。

実朝は、女性を愛することができない。父(頼朝)と兄(頼家)は、あれだけ女好きだったというのに……。源家、振り幅が大きすぎる。したがって、実朝には後継ぎができない。そのことが、後に鎌倉幕府最大の悲劇につながる……。

NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の中で、恐らくもっともピュアなキャラクター、源実朝。
あの癖の強い父(大泉洋)と兄(金子大地)の、血を引いているとは思えない。演じるのは柿澤勇人。きっと他の作品でも、ピュアで育ちの良さそうな好青年を演じているに違いない。

彼の出演作を3本、紹介したい。その好青年ぶりをみていくこととしよう。

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1:『クローズEXPLODE』

(C)2014 高橋ヒロシ/「クローズEXPLODE」製作委員会

ちょうど北条義時を演じている、小栗旬の人気シリーズの3作目。

「県内随一の不良校・鈴蘭制覇を目指す猛者(ヤンキー)たちの戦いを描く」

ちなみに小栗旬は前作で卒業し、今作の主役は東出昌大である。意気消沈しないでほしい。東出昌大も決して悪くない。長すぎる手足を持て余しながら、戦う様が良い。

そして、柿澤勇人である。当然ヤンキーの役だ。最初に謝ってしまうが、もちろん好青年ではない。ピュアでもないし、育ちが良くもない。「スラムダンク」序盤の桜木花道のような赤毛のリーゼントパーマ。短ランにボンタン。常にガムを嚙んでいる。“鈴蘭喧嘩偏差値”4位(1位は柳楽優弥)。口調は当然オラオラである。

(C)2014 高橋ヒロシ/「クローズEXPLODE」製作委員会

実朝役を観てファンになった方には、なかなかショッキングな役柄だろう。だが真の柿澤勇人ファンならば、目を逸らしてはいけない。ただ、やはり柿澤勇人、根が実朝である。どれだけオラついても、目が優しい。優しさを隠すためか、常にメガネをかけている。このメガネが非常に優秀で、どれだけ暴れようがどれだけ殴られようが、絶対にはずれない。欲しい。

クライマックス。「ODA」という“高校中退軍団”との乱闘時においての売り言葉、「高校行ってるヤツがイキがってんじゃねーぞ!」に対する買い言葉、「オレだってな、毎朝牛乳配達やってんだよバカヤロー!」が、しみじみとすばらしい。実は苦学生なのである。

2:『猫は抱くもの』

(C)2018「猫は抱くもの」製作委員会

『ジョゼと虎と魚たち』の、犬童一心監督作。

「元アイドルという経歴を隠してスーパーで働く沙織(沢尻エリカ)。彼女の飼い猫・良男(吉沢亮)は、自分を人間だと思っている」

まず、沢尻エリカがとことん薄幸である。アイドル時代は、“枕営業上等”なプロデューサーにもてあそばれる。スーパーで働きだして本社のマネージャーと付き合いだしたと思ったら、二股をかけられていた。どうも男運が悪い。クズ野郎ばかりが寄ってくる。



クズ・プロデューサーを演じるのが、柿澤勇人である。クズ・マネージャーを演じるのも、柿澤勇人である。クズの二役である。なぜかこの作品では、柿澤勇人が“クズの象徴”みたいな扱いを受けている。不憫でならない。そして当然、好青年ではない。引き続き、お詫びしたい。

3:『すくってごらん』

(C)2020映画「すくってごらん」製作委員会 (C)大谷紀子/講談社

「田舎に左遷された元エリート銀行員が、惚れた女性を懸けて金魚すくい勝負に挑む」

別にふざけてはいない。そういう映画だ。主人公の銀行員に尾上松也。恋のライバルに柿澤勇人。
そう。後鳥羽上皇VS源実朝である。朝廷VS鎌倉幕府。現代に蘇った承久の乱だ。(実際の承久の乱の時には、実朝はいないが)

本作は、ちょくちょく唐突にミュージカルになる。最初は戸惑うが、じきに慣れる。やがて、クセになる……。

(C)2020映画「すくってごらん」製作委員会 (C)大谷紀子/講談社

当然、柿澤勇人も歌う。何度も歌う。さすが元・劇団四季である。べらぼうに歌が上手い。歌だけではない。ピアノで弾き語るし、ピアノの上でタップまで踏んでしまう。

柿澤勇人演じるキャラの紹介をしたい。さすらいの金魚売りにして金魚すくいの達人。ヒロイン(百田夏菜子)の幼なじみであり、プロ級のピアニストでもある。要素が多い。

(C)2020映画「すくってごらん」製作委員会 (C)大谷紀子/講談社

そしてもっとも大事な要素として、キャラが「好青年」なのだ。3作目にして、やっと好青年の柿澤勇人である。少々チャラいが、そんなことは些末なことだ。ヤンキーでもクズでもないし。

クライマックスの金魚すくい対決も、なぜか突然みんなが歌いだす。「勝負はどうなったの!?」と思うだろうが、細かいことを気にしてはいけない。考えるな。感じろ。

建保7年1月27日、雪の鶴岡八幡宮

(C)NHK

「出でいなば 主なき宿と なりぬとも 軒端の梅よ 春を忘るな」


実朝が運命の鶴岡八幡宮に出かける前に、詠んだ歌である。実朝は、すでに自らの死を受け入れていた。この歌は、御台所である千世に向けた歌か。はたまた、泰時に向けられたものか。

公暁に刃を向けられた際、実朝は一度は小太刀を抜こうとした。泰時から託された小太刀を。だが実朝は小太刀を抜くことはなく、甘んじて公暁に斬られた。

実朝は、泰時に鎌倉幕府の未来を託し、そして死を受け入れたのだろう。実朝にとっての泰時は、“想い人”だ。その想い人から託されたものは、言わばその人の分身だ。実朝は、泰時の分身を血で汚すことを望まなかった。

実朝が泰時に望むものは、この真っ黒になってしまった鎌倉の世を、誰も血を流すことのない世にすることだ。

実朝の死を受け、泰時は覚醒する。鎌倉を我が物にしようとする、父・義時に宣戦布告をする。

この鎌倉を、実朝が歌った「春」にするために。

(文:ハシマトシヒロ)

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