人生を変えた映画

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2023年01月25日

漫画家・冬野梅子が綴る、田舎の高校生が観た『ヴァージン・スーサイズ』の衝撃

漫画家・冬野梅子が綴る、田舎の高校生が観た『ヴァージン・スーサイズ』の衝撃

一本の映画が誰かの人生に大きな影響を与えてしまうことがある。鑑賞後、強烈な何かに突き動かされたことで夢や仕事が決まったり、あるいは主人公と自分自身を重ねることで生きる指針となったり。このシリーズではさまざまな人にとっての「人生を変えた映画」を紹介していく。

今回登場するのは漫画家の冬野梅子さん。これまで手掛けた『普通の人でいいのに!』や『真面目な会社員』で描く“東京で暮らす人々の孤独や喜び”が大きな共感を生んだ新人作家。紹介してくれたのは、ガールズムービーの金字塔のあの作品だった。

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『ヴァージン・スーサイズ』

アメリカの郊外に住む5人の美しい姉妹。末っ子のセシリアが自殺したことから始まる残りの4人の物語。フランシス・コッポラ監督の娘であるソフィア・コッポラのデビュー作で1999年に公開。配給:東北新社

きっかけは雑誌で見たワンシーン

言わずと知れたガーリームービーの金字塔『ヴァージン・スーサイズ』は、田舎の高校生だった私にも届きました。

当時、高校2年生だった私は、部活に熱心ではなくよくサボっており、放課後はTSUTAYAとゲオを梯子して100円レンタルで暇を潰していました。最低でも3日に一度は3本ほどレンタルして帰るインドアルーチン生活、そのきっかけになったのが『ヴァージン・スーサイズ』です。

地元にはレンタルビデオ店がいくつかありましたが、映画にハマる前にたまに訪れたのは高校から1番近く品揃えもそこそこの小さな店でした。

たいていは、友達の家でみんなでホラー映画を観るとかそういう時に利用していましたが、暇つぶしに一人でブラブラしていた時、洋画コーナーの一番下の棚にそれはありました。

背表紙に『ヴァージン・スーサイズ』の文字、「これは!」という直感で手に取り、思いがけない再会に感動したのを覚えています。

遡ること2年前、中学3年生当時、遅刻やサボりの多いちょっとギャルっぽい女子と同じグループだった頃、彼女はYUKIが好きだった私に「家にあるYUKIが載ってる雑誌あげるよ」といい雑誌『H』(ロッキング・オン)を何冊かくれました。ファッション誌でもないアイドル雑誌でもないそれは、お洒落とか可愛いとか簡単な言葉では表現できない、普段手にするティーン雑誌と違い私が顧客ではないことが一目でわかる、それゆえ手にすることに喜びのあるずっしりと重い一冊でした。

結局のところ、YUKIの部分だけ切り抜いて捨ててしまうのですが(もったいない!)その雑誌に載っていた数枚の写真が『ヴァージン・スーサイズ』のワンシーンだったのです。

レンタルビデオ店で背表紙を見た瞬間に、あの雑誌で見たビジュアルが一気に思い浮かび、「あれって映画だったんだ」と興奮しながらビデオを手に取りました。

その頃は、映画といえば大作しか知らなかったので、起承転結の説明が難しい、感動や興奮など大きなドラマが起こらない作品に触れることじたい初めてで、世の中にはこういう面白いんだか退屈なんだかわからない作品があり、しかもそれを好意的に受け止める自分がいる、ということも大きな発見でした。映画が好きになる入口になった作品だと思います。

(文・冬野梅子)

Profile


冬野梅子(ふゆの・うめこ)
漫画家

2019年に『マッチングアプリで会った人だろ!』で 「清野とおるエッセイ漫画大賞」期待賞を受賞。その後発表した『普通の人でいいのに!』(モーニング月例賞2020年5月期奨励賞受賞作)はTwitterを中心に一大論争を巻き起こした。次作『まじめな会社員』(全4巻/講談社)が大好評発売中。
Twitter:@umek3o

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