人生を変えた映画

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2023年01月24日

アーティスト・布施琳太郎の生き方を変えた『ロッキー』の“夢を追いかける姿”

アーティスト・布施琳太郎の生き方を変えた『ロッキー』の“夢を追いかける姿”


一本の映画が誰かの人生に大きな影響を与えてしまうことがある。鑑賞後、強烈な何かに突き動かされたことで夢や仕事が決まったり、あるいは主人公と自分自身を重ねることで生きる指針となったり。このシリーズではさまざまな人にとっての「人生を変えた映画」を紹介していく。

今回登場するのは現代アートの世界で活躍する若手アーティスト、布施琳太郎さん。紹介するのは、中学生の時に観て心を熱くさせられた『ロッキー』。決して折れないその姿から、夢を追いかける熱量が伝わってきた──。

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『ロッキー』

1976年公開。主演と脚本を務めたシルヴェスター・スタローンの大出世作でもある。フィラデルフィアのスラム街に住む三流ボクサーのロッキーが夢を掴むまでを描く。本作を含めて『ロッキー』シリーズは全6作。ライバルであるアポロの遺児アドニスを描いたスピンオフシリーズ『クリード』の3作目が2023年公開予定。

フィラデルフィアで初めて観た現代美術とロッキーの彫像

アーティストとして活動する僕は、作品やプロジェクトを作る際に、哲学書を読んだり、映画館や美術館に足を運ぶことで自分の表現に幅を持たせようとしてきた。しかしそうした知的な刺激とは異なる部分で大切なのが、夢を追いかける熱量を思い出し続けることである。

そのために僕が繰り返し観るのが『ロッキー』シリーズだ。僕はシリーズ第一作を中学1年生のときにはじめて観て深く感動した。人生ではじめて買ったCDはロッキーのサントラだった。「アイ・オブ・ザ・タイガー」を聴いていれば、なんだってできる気がした。学校から自宅までの下校の道には坂があったので、そこを無闇に駆け上がったりしてみた。汗をかくことができて嬉しかった。

借金取りの仕事をして食いつなぐ三流ボクサーのロッキー・バルボアは、チャンピオンのアポロ・クリードの思いつきで世界ヘビー級タイトルマッチの挑戦者に抜擢される。キャリアの差から挑戦するか迷いながらも、周囲の人間たちに支えられることでトレーニングに打ち込み、試合を迎えるロッキー。

試合でまずダウンを取ったのは無名の挑戦者であるロッキーだった。しかし顔色を変えたアポロによって繰り返し殴られ、ダウンを取られて周囲の人間も目を背けるなか、起き上がり、立ち続ける。結果的に負けるとしても、決して折れないロッキーの姿に中学生の僕は胸を打たれた。

高校生になった僕が東京藝術大学を目指して予備校に通いたいと父に打ち明けると、それなら勉強のために」と言ってアメリカに連れて行ってくれた(恵まれたことだと心から感謝している)。そして現代美術の父とも言われるマルセル・デュシャンの作品を数多く収蔵するフィラデルフィア美術館を訪れたのだが、そこは劇中で走り込みをするロッキーが最後にたどり着く場所である。

この美術館の入り口には両手を空に向かって突き出したロッキーの彫像が立っている。美術館のなかにはデュシャンの作品がある。僕にとっての現代美術の原体験は、デュシャンの知性と、ロッキーの熱量で二重化しているのだ。倒れても起き上がり、立ち続けるロッキーの姿は、僕の生き方を根本的に変えてしまったように思う。

(文・布施琳太郎)

Profile

アニメイト=米澤柊

布施琳太郎(ふせ・りんたろう)

アーティスト

1994年、東京生まれ。情報技術や洞窟壁画、ラブレター、大衆文化論などについてのリサーチと対話に基づいて、iPhone発売以降の都市で可能な「新しい孤独」を実践。絵画や映像作品の制作、展覧会の企画、詩や批評の執筆、トークやクラブイベントへの出演などを、同世代のアーティスト、詩人、デザイナー、研究者、音楽家、批評家、匿名の人々などと共に行っている。主な展覧会企画に「惑星ザムザ」(2022/東京・小高製本工業跡地)、「隔離式濃厚接触室」(2020/ウェブサイト)、主な個展に「新しい死体」(2022/PARCO MUSEUM TOKYO)、「すべて最初のラブソング」(2021/東京・The 5th Floor)など。現在は「時を超えるイヴ・クラインの想像力」(2022/金沢21世紀美術館)に参加すると同時に、自主企画の連続講義「ラブレターの書き方」を開講中。
https://rintarofuse.com/

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