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2023年01月25日

舞台「風が強く吹いている」レポ:襷をつなぐ、ステージならではの“熱さ”

舞台「風が強く吹いている」レポ:襷をつなぐ、ステージならではの“熱さ”

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舞台「風が強く吹いている」が、2023年1月18日(水)から22日(日)にかけて、全8回公演された。本記事では、1月21日(土)のソワレ公演の様子をレポートする。

箱根駅伝さながらの臨場感がステージで


「風が強く吹いている」は、三浦しをんによるほぼ陸上素人で構成された寛政大学長距離陸上競技部が箱根駅伝出場を目指す青春群像小説だ。2006年に刊行されて以降、マンガ化・ラジオドラマ化・アニメ化と様々なメディア展開を見せてきた。舞台化は、2009年・2021年に続き3度目となる。今回は2021年の再演にあたり、キャストは主演・清瀬灰二(ハイジ)役の塚田僚一(A.B.C-Z)をはじめ、ほぼ一新されての公演となった。

上演は風が吹くBGMの中、蔵原走(カケル)役の矢部昌暉(DISH//)が客席から静かにステージへ上がり、ハイジと出会った1年前を振り返るところからスタート。以降、観客は箱根駅伝出場までの道のりを、寛政大学長距離陸上競技部員が語る“練習日誌”という形で辿った。

劇中冒頭では、のちに寛政大学長距離陸上競技部寮だと明かされる“竹青荘(アオタケ)”に住まう面々が続々と登場。阿部快征扮する柏崎茜(王子)がゲーム実況者に、高岡裕貴扮する岩倉雪彦(ユキ)がジャズ好きに、と原作小説とは異なる“今っぽい”アレンジも効いていた。


また劇中では、陸上未経験者ばかりにもかかわらず「箱根駅伝を目指そう!」というハイジの一声で始まった無謀すぎる挑戦に、戸惑いながらも前向きに取り組むキャラクターたちの様子が描かれた。時にぶつかり合いながらも、少しずつチームとなっていくアオタケの変化に、会場全体が「箱根駅伝出場が夢で終わってほしくない」という空気に包まれる。

そしてなんといっても、走るシーンは本公演の最大の見どころだろう。ステージという限られた空間を縦横無尽に活用した演出が、集団でのレース展開やごぼう抜き、拮抗する順位争いなど、実際の駅伝さながらの臨場感を観客に届けてくれた。


また各区間を走る間、アオタケの10人は箱根駅伝出場に至るまでの心の内を吐露する。そしてその想いが、各中継所で襷をつなぐ場面であふれだし、観客の涙を誘う。

10区のハイジが、大手町のゴールへ向かう終盤。脚の故障の再発という大きなアクシデントに見舞われながらも襷をつなごうとするハイジの必死な様子が、塚田の大量の汗で伝わってくる。

ライバル校である東京体育大学を僅差で破った寛政大学は、シード権を獲得。会場内には、彼らへの祝福とともに、新・寛政大学長距離陸上競技部へとつながった襷への期待感が充満していた。

襷(タスキ)をつないでつくりあげた舞台


すでに公演が終わった6公演から襷を受け取り、無事に千秋楽へと襷をつないだ本上演。座長の塚田はくり返し「演者、スタッフ、すべての人でつくりあげた舞台だ」と強調した。みんなと一緒だからこそできた舞台であるという彼の言葉に、ステージに立つ出演者たちは大きく頷く。

さらにこの回には、実況の声で出演した生島ヒロシも観客席から参加。彼らが襷をつなぐ様子を、観客席から見守り続けた。生島の観劇という声援にも、塚田をはじめ出演者たちは感謝の気持ちを溢れさせる。

この回で座長の塚田からトークの襷を託されたのは、双子ランナーのジョータとジョージを演じた二葉勇と二葉要(ともに、TWiN PARADOX)兄弟だ。


兄の勇は、走るシーンのあとには舞台袖で息が切れているという裏話を披露。かつて野球に熱中した高校時代の自分に、この舞台できついと感じることもある自分を重ね、当時後悔を感じたことをバネにしてこの舞台では全力でやり切るという決意を表明した。

弟の要からは「同じことを考えていた」と双子ならではの襷トークが飛び出す。加えて立ち稽古時の裏話として、塚田が双子のふたりを見分けられなかったことを観客にも明かした。そんな塚田がふたりを見分けられるようになったことに、寂しさすら感じていると告白すると、会場内からは笑いがこぼれていた。


アオタケに流れるあたたかな時間も、襷をつなぐキャラクターたちの熱さも、原作小説の魅力が見事に表現されていた本公演。原作小説から舞台へと、見えないところでも襷がつながっていたことを実感できるステージだった。

(文:クリス菜緒)

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