阿部サダヲの“振り幅”を楽しめる作品「5選」|『シャイロックの子供たち』公開記念

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(C)2023映画「シャイロックの子供たち」製作委員会

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役者の演技を評するときに「カメレオン俳優」といった言葉が使われるようになって久しい。元は、あのハリウッド俳優ロバート・デ・ニーロの、役作りにまつわる壮絶な逸話から生まれた言葉とも言われている。

そんな言葉が日本にも伝わって以来、さまざまな役者が「カメレオン俳優」と称されてきた。阿部サダヲは、確実にそのひとりとして認識されているだろう。映画『死刑にいたる病』(2022)やドラマ「空白を満たしなさい」(NHK)では、また新たな境地を開拓している。

そんな彼が最新作『シャイロックの子供たち』で挑むのは「熱血銀行員」だ。

本記事では、阿部サダヲの“カメレオン俳優たる底力”を感じるのに相応しい映画を5作品紹介したい。

1:『シャイロックの子供たち』

(C)2023映画「シャイロックの子供たち」製作委員会

すでに映像化の常連である池井戸潤原作が、またもや劇場版になる。『シャイロックの子供たち』は、彼の原点にして最高傑作と銘打たれており、すでにWOWOWにてドラマ化されている作品でもある。

本作で阿部サダヲが演じるのは、ごく一般的な銀行員・西木。そのパーソナリティに特筆すべきところはない。『死刑にいたる病』で演じた榛村のようにサイコパスでもなければ、『アイ・アム まきもと』(2022)で演じた牧本のように、真っ直ぐで純粋なキャラクターでもない。

(C)2023映画「シャイロックの子供たち」製作委員会

いわゆる“ちょっと一癖ある”役柄を演じることが多かった阿部サダヲにとって、今作の西木は良くも悪くも普通だ。部下の北川(上戸彩)や田端(玉森裕太)とともに、銀行内で勃発した、とある事件の解決のために奔走する。

阿部サダヲにしては珍しい、普通で少々熱血なだけの銀行員なのだが……物語の終盤、彼が選んだ結末と、待ち受ける運命には驚かされる。そうなって初めて、明るく陽気な西木の“底知れなさ”を表現するのに、阿部サダヲ以外のキャスティングはあり得なかったと知ることになるのだ。

2:『殿、利息でござる!』

(C)2016「殿、利息でござる!」製作委員会

実話を元にした映画『殿、利息でござる!』で阿部サダヲが演じたのは、明和3年、吉岡宿と呼ばれる宿場町にある酒屋の当主・穀田屋である。吉岡宿は、本来はお上から支給されるはずの助成金を交付されておらず、金策にあえいでいた。

ある日、吉岡宿唯一の知恵者と言われている菅原屋(永山瑛太)が、とある妙案を口にする。吉岡宿の皆で銭を出し合い、お上に貸す。利息を受け取れるよう画策すれば、吉岡宿に金がまわるようになると踏んだのだ。

(C)2016「殿、利息でござる!」製作委員会

菅原屋は「夢物語だ」と言い、半分は思いつきで提案しただけだったが、穀田屋は本気と受け取った。次々と同志を募り、紆余曲折の末、一千両(現代の貨幣価値で3億円)を集めることに成功する。

一度決めたらテコでも動かない頑固さ、実直で誠実な穀田屋の人柄を、阿部サダヲは見事に表現している。

『謝罪の王様』で演じた黒島のコミカルさや、『死刑にいたる病』で演じた榛村の薄寒さも感じられない。彼が演じてきたなかでは、比較的落ち着いた真面目な風貌である。時代劇である『殿、利息でござる!』の作風に、違和感なく馴染んでいる。

3:『謝罪の王様』

(C)2013「謝罪の王様」製作委員会

『舞妓Haaaan!!!』(2007)や『なくもんか』(2009)同様、監督・水田伸生、脚本・宮藤官九郎、主演・阿部サダヲのチームが生み出したコメディ映画『謝罪の王様』(2013)。阿部サダヲ演じる黒島譲は、「東京謝罪センター」の所長である。確実に相手に伝わり、こんがらがった事態を終息へと導く、究極の謝罪方法「土下座」を伝授するのが生業だ。

黒島は、パッツンおかっぱ+キビキビとしたコミカルな動きが特徴的。幼い頃に訪れた温泉旅館で、飼おうとしたザリガニを温泉に放流した事件をきっかけに、謝罪に目覚める原体験からして、普通ではない。

後に東京謝罪センターのアシスタントとなる典子(井上真央)、セクハラで訴えられてしまう沼田(岡田将生)、息子の暴行事件にヤキモキする大物俳優の南部夫妻(高橋克実、松雪泰子)など、黒島に負けず劣らずの個性的なメンバーたちと出会うことに。

(C)2013「謝罪の王様」製作委員会

それぞれが持ち込んでくる、あらゆる謝罪案件を実にエキセントリックな方法で解決していく黒島は、物語中盤から後半にかけての案件には少々苦労する。「マンタン王国」と呼ばれる国と、政治的な問題に発展してしまい……その解決法は、現代に生きる私たちにとっても示唆に富んだ手法と言えなくもない。

さすがクドカン脚本、全体的に“ぶっ飛んでいる”印象でありつつも、物語そのものや役柄をひっくるめ“乗りこなしている”のが阿部サダヲだ。

彼は一般人役はもちろんのこと「ちょっとクセが強いキャラクター」もなんなくこなす。彼のカメレオンっぷりは、すでに誰も後ろに続くことのできない境地に至っているのかもしれない。

4:『彼女がその名を知らない鳥たち』

(C)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会

沼田まほかるによる同名小説を原作とし、白石和彌監督が手がけた映画『彼女がその名を知らない鳥たち』。蒼井優と阿部サダヲのW主演と銘打たれた本作は、公開当時、邦画ファンはもちろんのこと、それ以外の層にも話題になったほどの“問題作”と言っていいだろう。

蒼井優演じる十和子は、少々危なっかしいタイプの女性だ。どう危なっかしいかというと、阿部サダヲ演じる恋人・陣治がいながら、平気で百貨店のスタッフ・水島真(松坂桃李)と関係を持ってしまったり、働かず根無草のように生きて、生活費は陣治に頼りっきりだったりする。

(C)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会

そんな十和子を心配し、健気に、真摯に、いつだってそばにいて彼女を支える陣治。常に無精髭を生やし、くたびれた作業服を着ているビジュアルも含め、前者に挙げた二作とはガラリと雰囲気を変えている。

十和子に尽くす陣治、陣治のことなど顧みず、自由に生きる十和子。終盤にかけて、作品を貫く“ひとつの大きな謎”に鮮やかな終止符が打たれる。そして決して二人を救う事実ではない。

その絶望感とやるせなさは、阿部サダヲの目の奥から感じられる“取り返しのつかない暗さ”に起因している。そして、その目が次項で触れる作品へと繋がっていくのだ。

5:『死刑にいたる病』

(C)2022映画「死刑にいたる病」製作委員会


『死刑にいたる病』
は、櫛木理宇による同名小説を原作とした実写映画。白石和彌監督の手によって具現化された本作は、岡田健史(現在は水上恒司に改名)演じる大学生・雅也と、阿部サダヲ演じるサイコパスキラー・榛村のふたりを主軸に、物語が進んでいく。

ある日突然、雅也のもとに死刑囚から手紙が届く……といった冒頭から、すでに不穏で不気味な空気が漂う本作。とにかく阿部サダヲ演じる榛村の“目の昏さ”や“瞳孔が開いている感じ”に、恐怖しか感じない。

(C)2022映画「死刑にいたる病」製作委員会

『彼女がその名を知らない鳥たち』でも現場をともにしている白石和彌監督は、この時期に目の当たりにした“阿部サダヲの底知れなさ”が忘れられず「もう一度あの阿部サダヲが見たい」と思い、起用に至ったのだとか。

榛村が纏う独特の空気感を見ていると、自ずと「空白を満たしなさい」の佐伯を思い出してしまう。なんらかの理由で亡くなったにも関わらず、“復生者”として生き返った徹生(柄本佑)の前に現れる、謎の男・佐伯。彼の目の奥も、なんとも言えない悲壮や諦観に満ちていた。

(C)2022映画「死刑にいたる病」製作委員会

しかし、佐伯と榛村で圧倒的に違う点は「二面性」である。佐伯は一貫して“何を考えているかわからない男”だったが、榛村には表と裏、ふたつの顔があった。パン屋の店主として学生たちに接するときの榛村は、どこから見ても“ただの親切な人”。それが打って変わって、残酷すぎる方法で学生たちを犠牲にする殺人鬼に変貌する。その二面性を見せつけられるからこそ、恐怖が倍増するのだ。


コメディからサスペンスまでお手の物な阿部サダヲが、普通の銀行員を演じている姿は、一周まわって想像できないかも知れない。その才幹は、ぜひともスクリーンで『シャイロックの子供たち』を直接味わっていただきたい。

(文・北村有)

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| 2016年 | 日本 | 129分 | (C)2016「殿、利息でござる!」製作委員会 | 監督:中村義洋 | 阿部サダヲ/瑛太/妻夫木聡/竹内結子/寺脇康文/きたろう/千葉雄大/橋本一郎/重岡大毅/羽生結弦/松田龍平 |

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