『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』を読み解く“10”の視点

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これほどありのままの日常を覗いてみたくなる殺し屋がかつていただろうか。2021年にスマッシュヒットを記録した『ベイビーわるきゅーれ』の殺し屋コンビ、ちさと(髙石あかり)とまひろ(伊澤彩織)が嬉しいことに早くも映画館に帰ってきた。

その名も『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』。これはマイケル・ベイ監督のぶっ飛びアクション『バッドボーイズ2バッド』へのオマージュ……なのだろうか。タイトルの時点で映画ファンのハートをくすぐってくるところが心憎いというか、なんとも「ベビわる」らしい。

話題沸騰の『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』の魅力について、10の視点からご紹介していきたい。

※本記事では『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』の一部ストーリーに触れています。未鑑賞の方はご注意ください。

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1:さらっと復習『ベイビーわるきゅーれ』とは

(C)2021「ベイビーわるきゅーれ」製作委員会

阪元裕吾監督が手がける「ベビわる」シリーズは、前作も本作も一貫して“ゆるふわな日常シーン”と見る者を釘づけにする“キレキレのアクションシーン”が作品の軸といえる。殺伐とした雰囲気の殺し屋映画は数あれど『ベイビーわるきゅーれ』ほど殺し屋の日常生活にスポットを当てたアクション映画も珍しい。

特に前作はちさともまひろも社会に放り出されたばかりで、ふたりは共同生活を送りながら家賃の支払いもままならない状態。アルバイトを始めてもちさとは客相手にポロっと本能が出てしまい、極度のコミュ障のまひろは社会に馴染めず劣等感に苛まれるという、社会人ホヤホヤの“等身大ぽさ”が瑞々しくもあった。

(C)2021「ベイビーわるきゅーれ」製作委員会

ところが日常から一転して殺し屋の表情になると黒く暗い光が眼に宿り、有無を言わさず対象をひとりまたひとりと葬っていく。躊躇なく引き金を引いてヘッドショットを撃ち込む姿はいかにも映画的な嘘臭さを感じさせず、髙石の演技力とスタントパフォーマーである伊澤のキレ味鋭いアクションがキャラクターに説得力を与えていた。もちろん『ベビわる2』もその要素を大前提として成り立っていることは疑いようがない。

前作ではヤクザを相手に私情も挟んだ抗争が勃発し、文字どおり臆することなく大暴れを見せたちさととまひろ。今回は少し毛色が異なり、ふたりが所属する殺し屋協会の正規ポストを狙ってアルバイトの殺し屋兄弟・ゆうり(丞威)とまこと(濱田龍臣)に命を狙われることになる。

2:相変わらず暮らしはイマイチの殺し屋コンビ

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命を狙う立場でありながら、命を狙われる立場となったちさととまひろの私生活にはどのような変化があったのだろうか。

まずふたりが共同生活を送る部屋にポップさが加わっており、前作に比べて垢抜けてきた印象がある。もしかするとヤクザとの抗争を経て、ふたりが“生きにくさ”より“自分らしさ”を選択した現れなのかもしれない。ただしいろいろとツケが回ったのか部屋の広さは明らかに狭くなっており、ちさとの「最近とり肉しか食べていない」という発言からもふたりの生活状況が窺える。

懸案だった生活費等の管理はどうか。こればかりはどうやら相変わらずのようで、以前入会したジムの会費をほったらかしにした結果とんでもない額を請求されることに。

「殺しはピカイチ。暮らしはイマイチ。」という本作のコピーに相応しく、ふたりには申し訳ないが「ああやっぱり、ちさととまひろだなぁ」なんてついつい親目線になってしまう。

3:ちょっぴり成長もした殺し屋コンビ

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とはいえ、生活空間に変化が生じたようにちさととまひろ個人にも人間的な成長がわずかながら垣間見える。たとえば前作では、コミュ力おばけのちさとにまひろが嫉妬してふたりの仲が険悪になり、まひろが素直に謝ったことでふたりの絆がより深まった。そんな出来事を経たまひろは(コミュ障こそ変わらないのだが)今回自暴自棄になることはなく、常にちさとのそばにいることを選ぶ。

一方のちさとも、前作で見られた瞬間湯沸かし器のような性格をコントロールする術を身につけた印象を受ける。おかげで空間認識能力が先鋭化されたのか、何気ない場面でゆうりとまことを出し抜く様子も見られた。

4:髙石あかりのコメディエンヌぶりが加速!

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ところが。手元の資金を増やすためとはいえ、本作でちさとは賭け事に走ってしまう。しかもちさとを演じる髙石のコメディエンヌぶりが前作より拍車がかかっているため、妙に只者ならぬ雰囲気を醸し出しているのが余計に厄介。髙石の柔軟な表現力によって“ギャンブラーちさと”という魅力を新たに開花させてしまったのだ。

そういった意味でも、髙石の底の見えないズバ抜けた存在感は「ベビわる」シリーズに欠かせない持ち味のひとつ。ちさとというキャラクターをただ飄々と演じるのではなく、笑顔を見せていた次の瞬間には殺し屋の顔になっていたり、セリフのない場面でも内側に渦巻く苦悩を表情で語ってみたりといった表現力に注目してほしい。

5:よりバラエティ豊かになったアクションシーン

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前作はキレのあるガンファイトや拳がぶつかり合う重さとスピード重視の肉弾戦が随所に散りばめられており、一躍邦画アクションのトップランカーに躍り出た。特にクライマックスで繰り広げられたまひろ役の伊澤と渡部を演じた三元雅芸のタイマンバトルはアクションという名の芸術にまで昇華しており、SNSなどで話題をさらったことがまだ記憶に新しい。

前作に引き続き本作も園村健介がアクション監督を務めており、一言でアクションといっても前作以上にバラエティ豊かなアクションシーンが盛り込まれている。例えば銃を持った銀行強盗にもちさととまひろは(期限ギリギリの支払いが迫っていることもあり)怯むことなく立ち向かい、あっという間に事態の制圧に成功する。ふたりにとっては朝飯前、といったところか。

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面白いのは着ぐるみを着たアルバイト中に勃発するちさとvsまひろ戦だ。本来なら着ぐるみアクションは視界が狭まり、体の動きも制限されてもっさりした動作になってしまうはず。しかし園村アクション監督の手にかかれば、着ぐるみバトルであってもやたらというか驚くほどひとつひとつの動きがキレッキレ。同時に一昔前のジャッキー映画のようなユーモアも感じ取ることができ、香港カンフーアクション好きの筆者は思わず「おお」と見惚れてしまった。

6:進化を続ける園村流「ベビわる」アクション!



中でもちさと&まひろvsゆうり&まこと戦は、予告編にも盛り込まれているハイスピードなガンアクションが見もの。前作のクライマックスで映画『リベリオン』のガン=カタにも通じるガンアクションが見られたが、今回はより広い空間を活かして相手との距離を確保した上でのアクションに変化している。

銃弾の軌道を避けつつ反撃に転じる動作は、たとえるならバレエのように華麗でダンサブル。筆者の勝手なイメージだが、そこには園村アクション監督が『マンハント』でタッグを組んだ香港ノワールの巨匠、ジョン・ウーのアクション美学が根底に流れているようにも思えた。

7:ドニー・イェンとバトルを繰り広げた丞威の実力

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そして本作最大の見どころが、ゆうり役・丞威の身体能力をマックスまで引き出したまひろとのバトルだ。

前作で渡部を演じた三元雅芸は数々の映画・ドラマでアクションを披露しており、『ベイビーわるきゅーれ』出演後のホラー映画『オカムロさん』ではアクション監督を担当したプロ中のプロ。

一方俳優であると同時にダンサーでもある丞威は、長い手足を活かした動作が美しく、あのドニー・イェンとクライマックスバトルを展開した『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』でその実力は証明済み。アクション俳優・丞威はスタントパフォーマーを務める伊澤の対戦相手としてまさに申し分ない。

また前作の伊澤vs三元のバトルは光源が少なく薄暗い場所だったが、本作は日中かつ採光もバッチリの環境ゆえに伊澤vs丞威戦の一挙手一投足がより見やすくなっている。フェイントや寸止め、ゼロ距離でのパンチングの応酬は目を見張るものがあり、相手の強さを理解した瞬間にふとこぼれる笑みも含めて高揚感が凄まじい。

園村アクション監督は前作以降『生きててよかった』『裸足で鳴らしてみせろ』『終末の探偵』に携わり、監督も兼任した『BAD CITY』では小沢仁志と山口祥行の重厚感あふれる肉弾戦を描いてみせた。

汗ほとばしる泥臭い動作設計は、まさに唯一無二。1作ごとに進化を続ける園村アクションの指標のひとつとして、「ベビわる」シリーズは重要な位置づけにある。

8:田坂さんファン歓喜!出演シーン倍増!!

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本作ではちさと&まひろ以外に、2組のバディが登場する点でも前作との違いが大きい。前述のとおり本作は丞威と濱田龍臣が兄弟役で参戦。そしてもう1組が水石亜飛夢演じる田坂と中井友望演じる宮内茉奈の掃除屋コンビだ。

田坂は前作から登場しており、奔放なちさと&まひろコンビに手を焼いてイラつく姿を見せていた。出番こそ短かったものの水石と髙石の絶妙な呼吸の良さもあって強烈なインパクトを残しており、本作ではメインキャラクターのひとりとして出演シーンがガッツリ長くなった。

また単純に田坂を登場させただけでなく、物語を動かすキーマンとしての役割も大きい。重要な転換点なので詳細は伏せるが「死体処理にうるさい田坂さん」という前作で構築したキャラクター性を、とことん行動やセリフに活かした脚本には拍手を送りたい。

9:田坂のバディ役・宮内茉奈がフレッシュ!

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一方でちょっと驚いたのが、前作と本作の間で田坂に茉奈というバディが現れたという点だ。田坂ひとりでも十分な個性を放っているが、茉奈が加わったことでちさと&まひろとはまた違った凸凹コンビ感が生まれた印象が強い。しかも既に茉奈が田坂をコントロールしている気配もあり、実際に彼女の存在が田坂に大きな影響を与えるトリガー役にもなっている。

本編初参加となった中井は、朝井リョウ原作の『少女は卒業しない』や今泉力哉監督の『かそけきサンカヨウ』等に出演する注目株。『少女は~』では図書室に拠り所を求め人には明かせない淡い恋心を抱く少女を好演していたが、本作では物事を白黒はっきりさせる行動力や意志の強さがなんとも頼もしい。

10:余韻を大きくする濱田龍臣の存在

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またアルバイトの殺し屋役という、意外な役どころに起用された濱田の存在も実は本作における重要なキャストだといえる。「意外」というのもやはり子役出身の濱田は好青年のイメージが強く、ウルトラシリーズに対する愛情の強さからファンに「濱田プロ」の愛称で親しまれるなど、悪役としてはミスマッチに思えてしまう。

とはいえ丞威も含めてゆうりとまことは前作のヤクザ一家(本宮泰風・うえきやサトシ・秋谷百音)とは異なり、悪役というより敵役と呼ぶのが相応しい。特にまことはゆうりに比べてはつらつとした印象があり、一丁前に定食屋の看板娘に恋をする。

そして何より「あいつら仲間だったら楽しかったかもな」というセリフがまことのキャラクターを物語っており、クライマックス後に残る余韻はまこと=濱田の存在あってこそといえるかもしれない。

まとめ:阪元ユニバースの拡張への期待



世界線は違えど阪元監督の『ある用務員』から派生した殺し屋コンビは『ベイビーわるきゅーれ』につながり、『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』へ至るまでほんの少しずつ成長を遂げている。

その間に阪元監督自身も『黄龍の村』や『最強殺し屋伝説国岡[完全版]』『グリーンバレット 最強殺し屋伝説国岡[合宿編]』など話題作を連発。阪元ユニバースの拡張に対する期待も大きい。

前作よりパワーアップ(?)した、ちさととまひろのゆるふわな日常と殺し屋生活がどのような結末を迎えるのか、ぜひ劇場で固唾を飲みながら見守ってほしい。

(文:葦見川和哉)

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