【2023年放送】連続ドラマに“ネタかぶり”が多いのはなぜ?


  • 「silent」(フジテレビ系)と「星降る夜に」(テレビ朝日系)
  • 日曜劇場「Get Ready!」(TBS系)と「大病院占拠」(日本テレビ系)
  • 「Get Ready!」と「Dr.チョコレート」(日本テレビ系 4月放送)
  • 金曜ドラマ「100万回言えばよかった」(TBS 系)と「6秒間の軌跡〜望月星太郎の憂鬱」(テレビ朝日系)
  • 朝ドラこと連続テレビ「舞いあがれ!」(NHK)と「ブラッシュアップライフ」(日本テレビ系)
  • 大河ドラマ「どうする家康」(NHK)と月9「女神の教室」(フジテレビ系)
  • 「どうする家康」と「夕暮れに、手をつなぐ」(TBS系)
  • 「どうする家康」と「忍者に結婚は難しい」(フジテレビ系)

……これら、各2作の関連性がおわかりだろうか。それぞれに“かぶり”があるのだ。

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2023年放送ドラマのネタかぶり

「silent」と「星降る夜に」は主要な登場人物に聴覚障害者がいる。
「Get Ready!」と「大病院占拠」では登場人物が仮面をかぶり正体を隠していることと、主人公の決め台詞がある。
「Get Ready!」と「Dr.チョコレート」は主人公がブラックジャック風天才医師。
「100万回言えばよかった」と「6秒間の軌跡〜望月星太郎の憂鬱」は登場人物の大切な人が幽霊。
「舞いあがれ!」と「ブラッシュアップライフ」は主人公がパイロットを目指す。
「どうする家康」と「女神の教室」は北川景子と山田裕貴が出ている。
「夕暮れに、手をつなぐ」と「どうする家康」にはLGBTQのキャラクターが登場する。
「どうする家康」と「忍者に結婚は難しい」は忍者。

……というように設定やキャストがかぶっていて、続けざまに見ると既視感を覚える。もちろん、これだけ日々ドラマが量産されていれば、かぶったり既視感を覚えたりすることは往々にしてあるものだ。

毎クール医療ドラマや刑事ものはかぶりまくっている。どんなに似たものがあっても、物語はそもそも10パターンくらいしかなく、それをあれこれ組み合わせて作っているのだからという理屈で咎められることはない。とはいえ最近、似た感じのものが増えてはいないだろうか。

あえてネタをかぶらせることもある

「silent」と「星降る夜に」と、「Get Ready!」と「Dr.チョコレート」はクールが違うのでまだしもと言いたいところだが、これはこれで、聴覚障害者との恋やブラックジャック風の医者というかなり絞り込まれた設定のかぶりには不思議な感情がわいてくる。制作者としては、事前に似たような企画になってしまったら企画変更しようと思うものではないのであろうか。

ただし、あえてかぶらせるということもなくはない。というのは江戸時代、歌舞伎の世界ではライブであることの良さを最大限に活かし、今起こっている話題を芝居に取り入れて観客を楽しませていたそう。同時期に別の小屋でやっている演目を取り入れたり、市井で話題の事件を取り入れたりするなど、いわゆる時事ネタに敏感だった。

現代でもたまに舞台で、別の公演の話題をアドリブで言うようなこともある。こういう遊びは、撮影と放送までのスパンが短いテレビドラマならやりやすいだろう。しかも最近はSNSがあるから、放送中に視聴者と楽しみを共有できる。

各ドラマを比較・考察!

■「舞いあがれ!」と「ブラッシュアップライフ」

(c)NHK

SNS効果が良いほうに作用したと思う例は、「舞いあがれ!」と「ブラッシュアップライフ」であろう。

「舞いあがれ!」は主人公・舞(福原遥)が航空学校で学び航空会社の内定までもらいながらリーマン・ショックで入社延期になり、そのまま実家の町工場で働く。パイロットにならず東大阪の町工場を活性化のために働く舞に、パイロットになってほしかったと残念に思う視聴者が現れて来た頃、「ブラッシュアップライフ」である。早逝した主人公・麻美(安藤サクラ)が生き返り人生をやり直す話で、何度か人生をやり直した末、パイロットになる。

「舞いあがれ!」の舞がパイロットにならなそうな気配のなかで、麻美が夢をかなえてくれて視聴者は溜飲を下げた。航空学校で舞が練習に使用していたダンボール製のコントロールパネルが「ブラッシュアップライフ」では何回も生まれ変わった人物が作ったという体(てい)でかなり完成度の高いものになっていたことはSNSで盛り上がった。

2作がたまたまかぶっているグレーゾーンではなく、「ブラッシュアップ〜」が「舞いあがれ!」のパロディをやっているとしか思えない展開だった。ここまで堂々とできたのは、同じころNHKと日本テレビがコラボをやっていたからではないだろうか。

3月12~19日に「NHK ×日テレ コラボウイーク」と銘打って、テレビ放送が始まって70年、同じ年に放送を開始したNHKと日テレが局の垣根をこえて人気番組&特番でコラボを行うという企画があったのだ。

「ブラッシュアップ〜」はコラボのラインナップに入ってはいなかったものの、最終回は12日。さりげなく局同士で遊んでみたのではないだろうか。これくらいぬけぬけとやると楽しい。「ブラッシュアップ〜」がコメディだったから成立したのだと思う。

■「100万回言えばよかった」と「6秒間の軌跡〜望月星太郎の憂鬱」

(c)TBS

例えば、「100万回言えばよかった」と「6秒間の軌跡〜望月星太郎の憂鬱」の幽霊かぶりは、どちらもとてもシリアスなので「ブラッシュアップライフ」とはまた変わってくる。

ただどちらの作品も、大事な人が亡くなって幽霊として出てきたときの主人公の戸惑いや、ずっと抱えている思い残しと戦いながら、やがて死を受け止めて乗り越えていくことに誠実に向き合った繊細なドラマだった。そのため設定がかぶっていることは気にならず、ドラマの行方を楽しめた。

■「silent」と「星降る夜に」

(c)Fuji Television Network, Inc.

「silent」と「星降る夜に」もどちらも純粋な恋愛もので、前者は聴覚障害に悩む話で、後者はすでにその悩みを乗り越えた人の話だったことで差別化されてはいる。

「星降る夜に」の聴覚障害者は、声が聞こえなくてもあっけらかんとして周囲とコミュニケーションをとっている。こんなふうな関わり方ができたらいいなあと思うような描き方だった。もちろんそれは「silent」の登場人物たちが悩んできたからこそ、みんなでよりよい世界を考えるきっかけになっているのだというようなことを感じるわけだが。

ついでに記しておくと「星降る〜」では過去、聴覚障害者を扱ったレジェンド的名作「愛していると言ってくれ」(TBS系)を見て手話を覚えたと登場人物に語らせていた。バカリズムのようなコメディ作家ではないが、さすがベテラン・大石静、ドラマ視聴者に対する手厚いサービス精神を持っている。

■「Get Ready!」と「大病院占拠」

(C)日本テレビ
 
「Get Ready!」と「大病院占拠」は前者が主人公側が謎の仮面、後者が犯人側が仮面と役割は反対であり、コロナ禍でマスクした登場人物がよく出てくるようになったなか、マスクキャラが増えていることも必然のようにも思えないことはない。

犯人がマスクは比較的あるパターンだが、「Get Ready!」の主人公たちが仮面をかぶっている仮面ドクターと呼ばれていることはなかなかぶっ飛んだアイデアだった。映画化もされる仮面ライダーを意識したのかなという気もしないでもないのは第1話のゲストが「シン・仮面ライダー」の主演・池松壮亮だったから。

SNSで盛り上がったのは仮面よりも妻夫木聡の「Get Ready」、櫻井翔の「嘘だろ」の決め台詞がいつ出るかであった。

■「Get Ready!」と「Dr.チョコレート」

(c)TBS

「Get Ready!」と「Dr.チョコレート」の天才医師は定番中の定番。ワンクールに医療ものがかぶることももはや当たり前という状況だが、ブラックジャックみたいな医者を連発するのはどういうことかと思ったら、今年2023年は「ブラックジャック」連載開始から50周年のようなのでこれはクリアーとしておきたい。

■「夕暮れに、手をつなぐ」と「どうする家康」

(c)TBS

「夕暮れに、手をつなぐ」と「どうする家康」のLGBTQはジェンダーレスの機運に乗った印象である。サステナブルの取り組みをドラマにひとつ取り入れるとポイントがついて、集めると何かいいことがあるんじゃないかと穿った見方をしてしまう。

■「どうする家康」と「忍者に結婚は難しい」

「どうする家康」と「忍者に結婚は難しい」は忍者。医療、刑事、恋愛かぶりならまだしも忍者かぶりはあまりにも狭い世界ではないか。

■「どうする家康」と「女神の教室」

(c)NHK

「どうする家康」と「女神の教室」の俳優かぶりはコロナ禍、撮影スケジュールがずれはじめた頃から顕著になっている現象だ。主役も脇役に限らず、同じクールに複数の作品に出ている俳優たちがいる。人気のバロメーターや好印象というよりは、新鮮味に欠けるというネガティブな気分をもたらしがち。

ドラマの内容よりも俳優が同じクールにあちこちに出ることについて、制作者にはもう少し考えていただきたい。


テレビ離れが顕著になり、世帯視聴率でドラマの人気がはかれなくなった今は、SNSで反応を手っ取り早く可視化できる。そのため、一瞬のSNSのネタに走りながらドラマを作らざるをえない各局にとって、かぶりは手を携えてこの苦難を乗り越えようという団結の証なのかもしれない。

いずれにしても同じような題材を使っても同じ俳優を起用しても傑作になるときはなる。私たち視聴者はそれを待っている。

(文:木俣冬)

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