“THE BACK HORN”と熊切和嘉監督、異色のタッグによる音楽映画『光の音色』

(C)2014 THE BACK HORN Film Partners

『海炭市叙景』や『私の男』などの秀作、意欲作などで映画ファンに広く知られ、最新作『武曲』が6月に公開される俊英・熊切和嘉監督ですが、今回はそんな彼が2014年に人気オルタナティヴ・ロックバンド“THE BACK HORN”とタッグを組んで作りあげた異色作『光の音色―the BACK HORN Film―』をご紹介したいと思います。

ドラマとライヴをリンクさせた
ユニークな構成

『光の音色―the BACK HORN Film―』、これは「言葉や感情を音楽で表す」ことを目指して作られた作品であり、その内容はTHE BACK HORNによるライヴ・パートとドラマ・パートをリンクさせたユニークな構成が採られています。

ロシアのウラジオストック郊外で、ひとりの老人がレースに包まれた妻の亡骸をリアカーに乗せて、歩き出します。

鉛色の空に覆われた大荒野に到着した老人は、妻を埋めるための穴を掘り始めます。

しかし、老人は愛する妻を埋めることができません……。

台詞を一切廃した静謐なドラマと呼応し合うかのように、観客なしで撮影されたTHE BACK HORNのライヴ・シーンが交錯し、歌詞の内容も含めて楽曲とストーリーがまたたくまにシンクロしていきます。

そう、ここではTHE BACK HORNの歌そのものが登場人物の台詞であり感情表現となっているのです。

そして古びた写真に写された故郷の海、ベッドを照らす月明かりといった画のイメージに、夜の闇や水、枯れ草、虫、風などの音が重なり始め、それらは次第にメロディを奏でるかのように……。

同じ年にデビューした者たちの
共通した画と音の意識

1998年に岡峰光舟(Bass)、菅波栄純(Guiter)、山田将司(Vocal)、松田晋二(Drums)の4人で結成され、2001年に《サニー》でメジャー・デビューを果たしたたTHE BACK HORNは、これまで“KYO-MEI”という言葉をテーマに掲げながらエネルギッシュな音楽活動を続けているバンドで、スペインや台湾など海外進出も果たしています。

また彼らは『アカルイミライ』(03)で《未来》、『Zoo』(04)で《奇跡》、『CASSHERN』(05)で《レクイエム》、「機動戦士ガンダムOO」(07)で《罠》、『機動戦士ガンダムOO―A wakening of the trailblazer―』(10)で《閉ざされた世界》など、映画やアニメの主題歌を多数提供しながら、映像とのコラボレーションを展開してきたキャリアもあり、その意味でも今回の単なるドキュメンタリーでもドラマでもない、不可思議な構成の映像作品もまた新たな意欲を抱いての挑戦として迎えることができたのではないでしょうか。

実は熊切監督はTHE BACK HORNと同じ98年に『鬼畜大宴会』で監督デビューを果たしており、その縁もあって前々から彼らのPVを撮る話があって、それが今回の映画でのタッグに結びついたようですが、お互いそれゆえの共通した意識が今回見事に合致しているともいれるでしょう。

特に今回は、無言で冷ややかなドラマと熱いライヴ演奏、光さす野外ロケと闇の濃いライヴ会場、老いとわかさ、などなどの対比から、観賞する者を「絶望」から「希望」へ導くべく腐心していますが、これもまた熊切監督作品ならではの味わいともいえるもので、“THE BACK HORN”ファンはもとより、熊切映画ファンも見逃せない逸品に仕上がっています。

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(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou

    鹿児島県出身。映画文筆。

    朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。

    取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。

    編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊)

    その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。

    ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊)
    現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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