オモシロ選挙・政治映画を様々上げてみる

ザ・シークレットマン(字幕版)

『ザ・シークレットマン』や『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』といった作品のDVDが発売されたり、はたまた世間でも政治や選挙の話題が出ていたりの昨今。

選挙は常に私たちの暮らしに密着するものです。まもなく自民党総裁選挙も行われますが(これには自民党員以外は投票できませんが)、その結果次第でまた我が国の行方も大きく変わることなどから、決して成り行きを見逃してはいけないものもあるでしょう。

さて、映画もこれまで数多く選挙をモチーフにした作品を世に送り出してきました。

その大半は、選挙を通して人間の赤裸々な運命を笑顔たものばかりです。

今回ご紹介する『スーパーチューズデー~正義を売った日~』も、そんな1本です。

 (C)2011 Ides Film Holdings, LLC

ここで舞台となるのは、アメリカ大統領予備選挙。その裏側がスキャンダラスに描かれていくのです。

ちなみに“スーパーチューズデー”とは、大統領選挙のための予備選もしくは党員集会がもっとも多くの州で行われる火曜日のことで、1980年にアラバマ、フロリダ、ジョージア州でそれぞれ同じ日に大統領予備選が行われたことから、この言葉が定着していきました。

選挙の裏に潜む衝撃の実態に
対峙した主人公の行動

オハイオ州知事マイク・モリス(ジョージ・クルーニー)はアメリカ大統領の座を目指して民主党予備選挙に出馬しました。

ベテランのキャンペーン・マネージャー、ポール・ザラ(フィリップ・シーモア・ホフマン)や若き広報官スティーブン・マイヤーズ(ライアン・ゴズリング)などがマイクを支えます。

そしていよいよ運命のスーパー・チューズデーまであと一週間と迫った頃、スティーブンは対立候補プルマンの選挙参謀トム・ダフィ(ポール・ジアマッティ)から極秘の面会を求められます。

ダフィの目的は、プルマン陣営への引き抜きでした。

スティーブンは即座にこれを拒否しますが、このことを正直にポールに話したことから、両者の間に亀裂が生じてしまいます。

その後、スティーブンは一夜を共にした選挙スタッフのインターン、モリー(エヴァン・レイチェル・ウッド)から重大な秘密を知らされるとともに、やがて選挙戦を命がけのゲームとみなしたかのように、闇の渦中へ身を投じていくことに……。

ここから先、主人公となるスティーブンがどのように立ち回り、その結果、選挙はどうなるのか? などは見てのお楽しみ。

また、その意味では“正義を売った日”という邦題サブタイトルに大きなヒントが隠されているわけですが……、おっとこれ以上はネタバレ厳禁!

[2018年9月14日現在、配信中のサービス]
b_dtvb_hikarib_unextb_amazonb_gyaob_rakutenb_itunesb_googleplay

いかようにも解釈可能な
ラスト・ショットの余韻

本作は2004年の民主党大統領予備選挙に立候補したハワード・ディーンの選挙スタッフだったボー・ウィリモンが記した戯曲“FARRAGUT NORTH”を原作に、ジョージ・クルーニーが製作・監督・共同脚本・出演の4役を担った政治サスペンス映画です。

製作総指揮にはレオナルド・ディカプリオも参加。実は彼がスティーブンを演じる予定もありましたが、結果はライアン・ゴズリングが抜擢。その後の『ラ・ラ・ランド』『ブレードランナー2049』など彼の飛躍を思うに、その起用は大正解といってもいいでしょう(余談ですが、劇中彼のヴォーカルが聴けるお愉しみシーンもあり)。

フィリップ・シーモア・ホフマンとポール・ジアマッティという一筋縄ではいかない個性派名優の貫禄、エヴァン・レイチェル・ウッドの清楚な美貌など、キャストの魅力がことごとく選挙の裏側のドロドロとした闇へ直結していくあたり、俳優兼監督ジョージ・クルーニーならではの手腕ともいえるでしょう。

いずれにしましても、スキャンダルや陰謀、裏取引などが政治や選挙をモチーフとする映画やドラマに欠かせない要素であるという現実は忸怩たるものもあります。

正直、公正、誠実、謙虚……、こういった言葉はもはや政治の世界では歯が浮くようなものでしかないのでしょうか?

いかようにも解釈可能な本作のラスト・ショットを目の当たりにしながら、私自身はそのように痛感せざるを得ませんでした。

 (C)2011 Ides Film Holdings, LLC

過酷な現実か? 希望か?
政治映画5選!

では、ここで政治や選挙を描いた劇映画をいくつかピックアップしてみましょう。

『オール・ザ・キングスメン』(1949年)

オール・ザ・キングスメン [DVD]

実直な役人が理想に燃えて州知事選に立候補し、二度目にして当選するも、やがて堕落していくさまを、彼を応援する新聞記者の目線で冷徹に描いた人間ドラマ。
1930年代の政治家ヒューイ・ロングをモデルに、ロバート・ペン・ウオーレンが記したピューリッツァ賞受賞の同名小説を原作に映画化したもので、監督は『ハスラー』などの名匠ロバート・ロッセン。

アカデミー賞の作品・主演男優(ブロドリック・クロフォード/彼は日本映画『人間の証明』にも出演しています)・助演女優(マーセデス・マッケンブリッジ)の3部門を受賞した名作ですが、政治の裏側を暴いた作品として、当時アメリカの占領下にあった日本では公開されませんでした。またロッセンはこの後ハリウッド赤狩りの犠牲となり、屈辱的転向を強いられることにもなります。

2006年にはスティヴン・ザイリアン監督がショーン・ペン主演でリメイク(もっともザイリアンは49年版の映画を見ておらず、あくまでも同原作の2度目の映画化であると発言しています)。

『候補者ビルマッケイ』(1972年)

候補者ビル・マッケイ [DVD]

カリフォルニア州前知事の息子で弁護士のビル・マッケイ(ロバート・レッドフォード)は、選挙参謀マーヴィン・ルーカス(ピーター・ボイル)の説得で上院議員選挙に民主党候補者として出馬することを決意。しかし、清濁併せ呑む政治的駆け引きなどを真の当たりにして、当初の理想はくじけ、選挙という名のゲームの歯車に巻き込まれていきます……。

政治活動にも熱心だったハリウッド・スター、ロバート・レッドフォードが自ら製作総指揮と主演を務めた作品で、監督は『がんばれ!ベアーズ』などのマイケル・リッチー。彼は本作のモデルとなったジョン・V・タニーがカリフォルニア州上院議員となった1970年の選挙に仕事で関わっていたことでの起用となりました。

また1968年の米大統領選挙に出馬したユージーン・マッカーシーのスピーチライターを務めたジェレミー・ラーナーが脚本を担当し、第45回アカデミー賞脚本賞を受賞しています。

当時、甘いマスクで好感度大だったレッドフォードが選挙のプロたちに翻弄され、次第に操り人形と化していくギャップがアメリカン・ニュー・シネマ的な流れを汲んだものとして映えていますが、同時に見た目だけで候補者を選ぶことの危なさまでも、レッドフォードは自らのイケメンぶりをもって風刺しているようでもあります。

『ブルワース』(1998年)

ブルワース (字幕版)

1996年の大統領選挙に出馬するも支持率低迷でノイローゼに陥り、殺し屋に自分を暗殺するよう依頼した上院議員ブルワース(ウォーレン・ベイティ)。しかし、これによって怖いもの知らずとなった彼はラップに乗せて政界のタブーを公の場でぶちまけ始めるようになり、皮肉にもそれを機に支持率が急上昇していくのですが……。

民主党リベラル派としての政治的言動が目立ち、実際に大統領選への出馬を模索していたというウォーレン・ベイティが監督・主演した、強烈なパンチを利かせたブラック・コメディ。

それまでイケメン・プレイボーイとしてハリウッドで鳴らした大スターのベイテイが、神経衰弱中年議員から一転していかれたラッパーと化していくさまが圧巻です。

腐敗した政治に対する風刺が軽妙洒脱に奏でられていくあたりも、『レッズ』など監督としても才人のベイティならでは。

『小説吉田学校』(1983年)

小説吉田学校

日本映画からも1本。

戦後のアメリカ占領下の日本で、ワンマン宰相として知られた吉田茂(森繁久彌)が池田隼人(高橋悦史)や佐藤栄作(竹脇無我)など“吉田学校”門下生を従えて日本の講和独立を成し遂げるも、その後鳩山一郎(芦田伸介)や三木武吉(若山富三郎)ら党人派と赤裸々な権力闘争を繰り広げていく様を描いた実録政治映画です。

「政治家は選挙に落ちたらただの人」と言わんばかりに争い続ける男たちの熾烈な姿は、まさに政治家版“仁義なき戦い”そのもので、あえて一般国民を登場させない作りも、国民不在の政治は何も今に始まったことではないという、作り手の皮肉のメッセージまで込められているかのようです。

監督は『日本沈没』『八甲田山』など日本の闇を描き続けた森谷司郎。戦後まもない少年時代に台湾から引き上げてきた彼は、酔うたびに「自分には祖国がない」と漏らしていたとのことで、本作にもそんな彼の忸怩たる想いが巧みに反映されているようです。

『スミス都へ行く』(1939年)

スミス都へ行く (字幕版)

最後は、政治に対する理想と希望を描いたフランク・キャプラ監督の名作をご紹介。

とある不正まみれの州から選出された上院議員が急死し、地元の権力者たちはその穴埋めとして田舎のボーイスカウト団長の青年スミス(ジェームズ・スチュアート)を、彼らの傀儡としてワシントンに送り出します。しかし正義感に篤いスミスは、そんな腐敗した政界にたったひとりで立ち向かっていくのでした……。

アメリカの良心と理想を高らかに謳い上げた、映画ファンなら言わずと知れた名作中の名作です。

クライマックスの一大演説シーンは今なお語り草になるほど秀逸なもので、現実に叶うどうかはともかく、世界中の政治家はすべからくこれをお手本にしていただきたいと強く願いたくなるほどのカタルシスを見る者にもたらしてくれる作品です。

やはり理想と希望だけは、いつまでも持ち続けていたいものですね。

(文:増當竜也)

他の記事も読む
映画の配信情報をチェック!
                  

ライタープロフィール

増當竜也

増當竜也

増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

ピックアップ

新着記事

WP Facebook Auto Publish Powered By : XYZScripts.com