映画『恋人たち』は、人生の現実と絶望の中から…

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(C)松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ

2018年を迎えて初詣の神社やデパートの初商、はたまた映画館など街の賑わいの中、手を繋いで仲良くデートしているカップルの幸せそうな姿にあてられること多々あった正月休みも終わり、そろそろ気を引き締めて仕事や学業に取り掛かりたいところ。

そんな季節にある意味ぴったりな映画かもしれません。

橋口亮輔監督が2015年に発表し、その年の映画賞を総なめした『恋人たち』。

フランス映画を思わせるロマンティックなタイトルながら、その実かなりシビアな現実や思い通りにならない人生の機微に焦点を当てた問題作であり、しかしながら見終えた瞬間どこかしら心が浄化されたような気持ちにさせられる名作です。

3人の男女それぞれが織りなす
人生の現実と絶望の中から……

『恋人たち』は、大きく3人のエピソードが繰り広げられていきます。

ひとりは、かつて通り魔殺人事件によって妻を亡くし、その喪失感を払拭できないまま橋梁点検の仕事に就いているアツシ(篠原篤)。

ひとりは、浮気した取引先の男から起業のための融資を持ち掛けられたことで、平凡な日常が大きく揺さぶられてしまう主婦の瞳子(成嶋瞳子)。

ひとりは、学生時代からの友人をひそかに愛し続けていることで、彼の妻からあらぬ誤解を受けてしまう、同性愛者の弁護士・四ノ宮(池田良)。

妻を殺された男、浮気する女、同性愛者と、およそ“恋人たち”のタイトルにそぐわない、成就する可能性も薄げな片想いとでもいったシビアなエピソードを交錯させながら、映画は淡々と進んでいきます。

また特に美男でも美女でもない、むしろ軽薄な連中からはダサいと悪口を言われかねない雰囲気の3人です。

彼らがたどる運命は、実際に映画をご覧になっていただくとして、初見の際ずっと気になっていたのが、なぜこのシビアなストーリーの映画に『恋人たち』というロマンティックなタイトルをつけたのだろうか? ということでした。

しかし、単に報われない恋というレベルではなく、絶望的なまで不幸で哀れな彼らの姿は見ていていたたまれないほどですが、ラストからエンドタイトルを見続けていくうちに、なぜかしらこのタイトルが実に似つわしい映画であることが肌で理解できるかと思います。

なかなか思うがままにいかない人生ではあれ、絶望の向こう側にほんの少し希望の光がさしかかる瞬間が、そこにうかがえるからです。

(C)松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ

人生のマイナス面を直視しながら
やがてささやかな希望を……

橋口亮輔監督にとって7年ぶりの長編映画となった本作は、彼のワークショップに通う面々の中からオーディションで篠原篤、成嶋瞳子、池田良の3人を主演に抜擢し、撮影を敢行したものですが、第89回キネマ旬報ベスト・テン第1位をはじめ、その年の映画賞をほぼ独占するほどの高い評価を得ています。

主演の3人もそれぞれ新人賞など数々の受賞の栄誉にあずかりました。

決して大きな作品でもなければ、人気スターが大挙出演しているわけでもない、この小さな映画が映画マスコミはもとより映画ファンからも熱い支持を得たのは一体なぜでしょう?

ここには単に愛の甘く楽しい心地よさではない、人が人と接し、相まみえることの難しさや、それゆえの絶望、失望といった人生のマイナスの面が強調されていきます。それは、正直あまり実人生では触れられたくないものかもしれません。

しかし、人は多かれ少なかれ、こういったマイナスの非情な面を体験し、直視せねばいけない瞬間も多々あります。そのとき、最終的に必要なのは、心の片隅にほんの小さなささやかなものでもいい、希望を抱き続けていることなのかと思わせてくれるのです。

決して言葉で雄弁にそういったメッセージを語るのではなく、あくまでも画でそのことを慈愛深く描出していく。それが橋口監督作品の大きな特徴ともいっていいでしょうが、本作もまさにその例に漏れない、映画ならではの感動を見る者に与えてくれると確信させてくれるものがあります。

新しい年の幕開け、この映画を通して、そろそろ気を引き締めつつ、人と人との冷たくも温かい繋がりの渦へ身を投じてはいかがでしょうか。

この映画の“恋人たち”とは、単なるカップルのことではなく、私でありあなたであり、全ての人間に愛のまなざしを向ける厳しくも強い人の美しい心を示唆したものなのかもしれません。

[この映画を見れる動画配信サイトはこちら!](2018年1月12日現在配信中)
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(文:増當竜也)

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ライタープロフィール

増當竜也

増當竜也

増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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