『俺はまだ本気出してないだけ』が推奨する、ゆる~いグータラ人生!

(C)青野春秋・小学館/2013「俺はまだ本気出してないだけ」製作委員会

今、日本映画界で注目を集めている監督のひとりに福田雄一監督がいます。映画『HK/変態仮面』シリーズやTV『勇者ヨシヒコ』シリーズなどで脚光を浴び、今年は『銀魂』が大ヒット、10月には『斉木楠雄のΨ難』が公開されるなど、まさに最も勢いに乗っている監督と言えるでしょう。

福田監督作品の大きな特徴の一つに、ゆるゆるな脱力ギャグが映画的に映えることが挙げられますが、今回ご紹介する『俺はまだ本気出してないだけ』は、まさにそんな彼の資質が十二分に発揮された快作です!(……ってか、このタイトル自体、もう何というか素敵すぎて!?)

42歳無職の中年男が
思いつきで漫画家をめざす……!?

『俺はまだ本気出してないだけ』は、「このマンガがすごい!2009」にランクインした青野春秋の人気コミックを原作に繰り広げられる、ある中年男のダメダメ人生をゆる~く微笑ましく描いた作品です。

大黒シズオ(堤真一)、42歳。バツイチで現在は高校生の一人娘(橋本愛)と老父(石橋蓮司)との三人暮らしですが、あるとき彼は「本当の自分を探す」だのと、どこぞのSFアニメの主人公みたいなことを考え始めて、その勢いで会社を辞め、では一体何をやっているのかというと、家の中でゲーム三昧なのでした。

父親からは毎日怒られ、おまけに娘からは借金し、当然ながらバイト先でもぐーたらミス連発。

でも、彼はいつも心の中で、何の根拠もないままに、こう思い続けているのです。

「俺はまだ本気出してないだけ」

そんなシズオがなぜか突然一念発起、人生の目標(?)を見出してしまいます。

それは、「俺、漫画家になるわ」というものでした……が?
(ンな簡単になれるわけねーだろ!?ってか、世の中なめきっている!……とほぼ100パーセントの人から言われそう)

いつもヘラヘラしていて、大人の貫録などどこへやら、老父の小言のひとつひとつはすべて正論で、またそんなアホな父を持つ娘の心境たるやいかなるものかと、端から見ているだけでもあらぬ心配をしてしまうほどなのですが、そんなどうしようもない男をイケメン堤真一が怪、いや快演しています。
これの前にも『オールウェイズ』シリーズでコミカルな演技を披露していた彼ですが、きっとこういったジャンルも、こういった男のことも好きなのでしょう。

また、そういったカリスマ的スターの彼の存在感も手伝ってか、なぜか周囲の人々を巻き込むことにかけては天才的であるという主人公の資質も一段と引き立っているのがアッパレなほどで、生瀬勝久も、山田孝之も、濱田岳も、要するに出演者全員が彼のいいかげんな生きざまに振り回されつつ、いつしか感化されていくのです!

本音丸出しで生き続ける
理想とカタルシス

「自分探し」という言葉が世紀末あたりから流行し始め、このきな臭くも閉塞的な現代社会においてなかなか実力を発揮しきれず悶々としている人はさぞ多かろうと思われますが(私もそうです)、みんな心の中で「俺はまだ本気出してないだけ」とつぶやき続けているのではないでしょうか(私がそうです!)。

しかし現実には、それを表に出すようなこともできず、ただただ悶々としているのが実情であり、しかし、だからこそ本音丸出しで周りに迷惑をかけまくりながらも、決して嫌われることなく生き続けられる本作の主人公に、どこかカタルシスを感じ、理想的に憧れてしまうのかもしれません。

その意味ではこの主人公、『男はつらいよ』シリーズの寅さんとも共通するところがあるのかもしれませんね。
(日本中を旅して歩くことはしないけど、家出はするし!?)

福田雄一監督作品は映画にしてもTVにしても、常に人間の滑稽な面白みに着目しながら、それをいかに嫌味のない笑いに転じさせていくか腐心し続け、その帰結としていつもゆる~い世界観が確立されていきますが、それゆえの心地よさは例えようもないものがあり、人を傷つけるようなギャグもおよそ見当たりません。
(もっとも劇中の人物たちは大いに喜怒哀楽を露にしながら、身も心もボロボロになっていくのが常ですが!?)

「俺はまだ本気出してないだけ」

これを心の中で唱え続けているだけで、この世知辛い世界も何とか耐え忍びながら生き抜くことができるのではないか?

まるで魔法の呪文のように素敵な響きの言葉であり、本作はその実践的作品として大いにお勧めしたいものがあるのでした!
(しかし、あまりこの世界観にはまりすぎると本当にグータラな人間になりかねないので、ご注意を……と、今、自戒しているところであります、ハイ!?)

[この映画を見れる動画配信サイトはこちら!](2017年10月20日現在配信中)
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(文:増當竜也)

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ライタープロフィール

増當竜也

増當竜也

増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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