映画コラム

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2018年08月03日

日本人がロシアで自主制作したマインドSF映画『レミニセンティア』

日本人がロシアで自主制作したマインドSF映画『レミニセンティア』



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『惑星ソラリス』(72)をはじめ、ロシア映画はSFなどファンタスティック映画の宝庫であることは、映画ファンなら先刻ご承知のことではありますが、そんなロシアン・ファンタ映画に魅せられて、ロシアでSF映画を自主制作した日本人監督がいます。

井上雅貴監督。作品名は『レミニセンティア』です!

記憶を消す能力を持つ男が
記憶を蘇らせる女と出会ったら?



まず井上雅貴監督のキャリアをざっと紹介しますと、1977年生まれの彼はMVやCMなどのディレクターを経て、石井岳龍監督の『DEAD END RUN』(03)などの編集に参加。

その後『最終兵器彼女』(06)『ラフ ROUGH』(06)『毎日かあさん』(11)などさまざまな映画のメイキング監督を手掛けるようになります。

その中の1本、巨匠アレクサンドル・ソクーロフ監督が昭和天皇を主人公に据えた異色伝記映画『太陽』(05)のメイキング監督を担い、3か月間ロシアに滞在。

そこでロシアの映画制作を学ぶとともに、同国での映画制作を強く望むようになり、本作を企画し、長編映画デビュー作としました。

では『レミニセンティア』のストーリーを紹介しますと……、主人公の小説家ミハエルは、人の記憶を消す不思議な特殊能力を持っています。

時折、自分の辛い記憶を消したいと申し出る人たちの希望に応えつつ、ミハエルはそれらの人々の記憶をもとにした小説を執筆してきました。

しかし、そんな彼もある日、愛娘との思い出の一部がなぜか欠如していることに気づかされ、激しく動揺してしまいます。

そんな中、ミハエルは記憶を呼び起こすことができる能力を持つマリアと出会いました。

ミハエルとは逆に、マリアは一切合切を忘れることができない己に苦しんでいます。

そこでミハエルはマリアに、彼女のつらい記憶を消してあげる代わりに、娘との記憶を呼び戻してほしいと持ち掛けるのですが……。



日本映画界とロシア映画界の
古くからの関係性



ロシアのファンタ映画は『惑星ソラリス』を筆頭にした哲学的なものから、『妖婆 死棺の呪い』(67)のようなカルト怪奇映画、『不思議惑星キン・ザ・ザ』(86)のようなキテレツSF、また最近ではロシア版アベンジャーズと話題になった『ガーディアンズ』(17)のような娯楽色豊かなものまで多彩ではありますが、本作はどちらかというと『惑星ソラリス』系に属する作品ともいえるでしょう。

決して難解な作品ではありませんが観念的な要素も多く、メリハリのある起承転結ストーリーのものをお望みの方には、多少の心の準備が必要かもしれません。

しかし、一貫して静謐な趣きの中、記憶という人間の心にこそ着目したマインドSFとしてのスタイルからは、そこから人間を見据えようと努める姿勢がうかがえるとともに、そこからもたらされる家族の絆や、それゆえの哀しみ、突き詰めると人生そのものの機微が見事に描出されているといっても過言ではありません。

それにしても日本とロシア映画界といいますと旧ソ連時代からの宿縁があり、初の日ソ合作『小さな逃亡者』(66)をはじめ、黒澤明監督を迎え入れて作り上げた70ミリ超大作『デルス・ウザーラ』(75)。

栗原小巻が国際スターとして飛躍するきっかけともなった東宝とモスフィルムの合作『モスクワわが愛』(74)と『白夜の調べ』(78)。

同じく東映もモスフィルムと組んで、モスクワオリンピックを目前に控えての女子バレーを題材にした合作映画『甦れ魔女』(80)を制作しましたが、時のソ連のアフガニスタン侵攻が問題となり、アメリカに倣って日本も出場辞退したことで意義をなさない不幸な作品となり、それでも時を経て90年には再び合作『オーロラの下で』を制作。

その直後、ペレストロイカの波に乗せてロシア長期ロケを敢行した日本映画『おろしや国酔夢譚』(92)など、映画ファンからするとどこかしら両国のタッグには常にピンとくるものが感じられてなりません。

(そういえば『惑星ソラリス』には、日本の首都高速道路を近未来都市の風景と捉えた描出がなされていました)

本作もその伝に倣い、映画における国際交流はもとより、国境を越えた映画愛および映画制作のありように今後の可能性を大いに期待させてくれるものがあります。

あまりガチガチに肩ひじ張ってストーリーを追い求めるのではなく、映画本来の「画」と「音」に感性を研ぎ澄ませながら、ぜひご覧になってみてください。

[2018年8月3日現在、配信中のサービス]
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(文:増當竜也)


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