『六月の蛇』から発散される土砂降りの濡れたエロティシズム!

(C)2002 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

梅雨の時期、映画の中での土砂降りを味わってみるのも一興かもしれません(映画を見ている分には濡れませんしね)。

そんなわけで今回は、塚本晋也監督作品『六月の蛇』をご紹介。

ストーカーに脅迫されていく
人妻の心の変貌と目覚め

2015年に公開された塚本監督の戦場映画『野火』が今も全国各地で上映され続けていますが、南方戦線のカラカラに乾ききった映像は、そのまま塚本作品のドライなセンスを物語っているのに対し、『六月の蛇』はまさに雨まみれでぬめぬめとした蛇のごときウエット・モード。しかも、そこにエロティシズムまで濃厚に盛り込まれたものとして、塚本作品の中でも異彩を放っていると同時に、意外に彼も別の資質を覗き見ることのできる逸品にもなっています。

梅雨入りして街全体が湿り気を帯びている東京の片隅で、心の電話相談室に勤める人妻りん子(黒沢あすか)の許に一通の封筒が届きます。

その中には彼女が自慰行為をしている姿を隠し撮りした写真と携帯電話が入っていました。

差出人は、以前ガンで余命いくばくもないところをりん子の電話相談によって自殺を思いとどまった男・道郎(塚本晋也)で、彼女を偏愛するようになった彼のストーカー行為は、性的虐待の脅迫へとエスカレートしていきます。

そんな道郎に屈していく中、りん子は“もう一つの顔”たる内面に目覚め始め、やがて年上で潔癖症の夫(神足裕司)まで巻き込んで、倒錯の世界へと入り込んでいきます……。

それまで肉体の痛みをもって人がもたらす暴力を描いてきた塚本監督作品ですが、ここでは精神の痛みをもっての暴力に挑戦し、そこから肉体の美しさまで描出しているところが革新的で、一方ではここで一気に発露される不気味なまでのエロス描写の数々を目の当たりにして、それまで塚本映画の中に隠され、気づくことのなかったエロティシズムまでも痛感させられることになりました。

塚本映画ならではのエロスと
ウエットな資質の巧みな融合

ほぼ全編モノトーンに青みを帯びたような映像世界の中、全篇降りしきる雨の水がまるで艶めかしい生物のようにヒロインを包み込んでいきます。

塚本映画特有のノイジーな音響も、豪雨の音を暴力的なまでに轟かせることで、あたかも雨そのものが彼女を脅迫し、目覚めさせていくかのような効果をもたらしています。

そしてクライマックス、土砂降りの中で全裸になったりん子が写真を撮られていくさまは、倒錯的ではありながらもどこか心が解放されていくかのような、映画的に崇高な赴きすら感じられてなりません。

一貫して緊張感が途切れることのないテンションの中から肉体や暴力、そして都市といった塚本映画を語る際に欠かせない要素が、ここではウエットな水によって増幅していく面白さ。

思えば一見ドライに思える塚本作品ですが、よくよく見直すと登場人物は常に汗まみれでどこかベタベタしています(その点、『野火』だけは例外的に灼熱の中、誰も汗をかいてないという意外な演出が施されていました)。

それこれ考えると、塚本映画の本質は土砂降りのようにウエットなものなのかもしれません。

第59回ヴェネツィア国際映画祭審査員特別賞を受賞するなど世界的評価も高い本作、塚本映画を語る際に決して外せない作品でもあります。

そしてもちろん、官能的に優れたエンタテインメント作品として、強くお勧めしたいと思います。

見終えると、心の中はもうビショビショになってますので⁉
(それにしても黒沢あすかの熱演もさながら、塚本監督自身が演じたストーカー男のリアリティがすごすぎて……)

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(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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