ホントはとっても怖かった『キョンシー』!

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キョンシーをご存知でしょうか? 

いわゆる東洋版ゾンビみたいなものながら(マニアからすると、実際はかなり違うのだ! と怒られそうですけど)、どこか愛嬌あるキャラクターとして日本でも親しまれて久しいこのキョンシー。

でも本当はかなり恐ろしい怪物だっだとしたら?

そう、映画『キョンシー』は、従来のキョンシーのイメージをぶち破った画期的な作品なのでした!

1980年代に一世を風靡した
キョンシー・ブーム

映画『キョンシー』の話に入る前に、まずはキョンシーに関する基本的なことからご紹介していきたいと思います。

そもそもキョンシーとは中国に古来より伝わる死体妖怪の一種で、死後硬直したまま、両手を前に突き出してピョンピョン動き回り、ときには神通力をもって空を飛ぶものもいるそうです。

このキョンシー、実はかなり狂暴な存在で、血に飢えた人食い妖怪でもあるのですが、1985年に香港で製作されたホラー・コメディ映画『霊幻道士』が日本でも翌86年に公開されて大ヒット(ピョンピョン跳ね回るキョンシーの動作は、ここから始まったと言われています)して以来、映画はシリーズ化されていきます。

同時に亜流作品も次々と作られるようになっていき、その中でも台湾制作の『幽玄道士』(86)は日本でテレビ放送されるや、ヒロインの少女テンテン(シャドウ・リュウ)の可愛らしさが評判となり、こちらも後にシリーズ化されるとともに、キョンシーはどことなく愛嬌のある存在として広く親しまれるようになりました。

こうしたキョンシー・ブームは90年代に入ると一気に終息していきますが、その後も時折ブームを懐かしむような作品がチラホラ登場しては、映画ファンの温故知新的な興味を保たせてくれています。

『霊幻道士』にオマージュを捧げた
バイオレンス・ホラー映画

さて、そんな中で2013年に香港で制作された『キョンシー』は、キョンシー・ブームの火付け役となった映画『霊幻道士』にオマージュを捧げた作りになっているのが、何といってもユニークです。

それはどういうことかというと……。

本作の主人公は、かつてホラー映画スターとして活躍しながら、今ではすっかり落ちぶれてしまったチン・シュウホウ。

彼を演じているのが、何とかつて『霊幻道士』でキョンシーを退治する道士の頼りない弟子を演じて人気を得たチン・シュウホウなのでした。

つまり本作はスターのセルフ・パロディ的な要素も含んでいるのですが、しかしながらこの作品、コミカルな要素を一切省いたハードなバイオレンス・アクション・ホラー映画に仕立てあげられている!

それもそのはず、この作品のプロデューサーは、日本が誇るJホラー・ブームの立役者のひとりで、現在監督最新作『こどもつかい』が公開中の清水崇。

つまりはJホラー的な恐怖の情緒とキョンシーを融合させた香港映画、それが『キョンシー』なのです。

落ちぶれた俳優チン・シュウホウは自殺を考え、幽霊が出没すると噂される団地に入居しますが、そこでさまざまな住人たちと出会い、いつしかキョンシーとの戦いに巻き込まれていくのでした……!

歌手兼俳優としても活躍中のジュノ・マック監督は、文字通り幽玄な雰囲気を保ちつつパワフルな、ときに残酷さも辞さない描写で従来のキョンシーのイメージを覆していきますが、根本にはそのブームを築き上げた『霊幻道士』への敬意がちゃんと敷かれているので、旧来のファンが見ても嫌な感じはなく、一方で劇場公開時は賛否が割れたラストも含めて、観賞後は大いに語りたくなる作品にもなり得ています。

旧来のファンは、これを見ると久しぶりに昔のキョンシー映画を見直したくなるかもしれないですね。

その意味でも実に有用な作品であると思います。

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(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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