アホの坂田が妖精さんと化した(?)『0.5ミリ』安藤姉妹トークショー

■「キネマニア共和国」

10月23日夕刻、新宿ピカデリーにて第28回東京国際映画祭・Japan Now部門『0.5ミリ』の上映と安藤桃子監督と主演・安藤サクラによるトークショーが開催された(司会:安藤紘平)。
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『0.5ミリ』は、さまざまな孤独を抱えたワケあり老人たちを見つけては押しかけていく“流しのヘルパー”山岸サワのぶっとび人生を描いたハードボイルドなヒューマン映画。196分の長尺だが、まったく飽きさせるところのない快作である。
安藤監督が自身の介護経験をもとに記した小説を映画化したもので、妹の安藤サクラがヒロインを演じ、昨年劇場公開されるや大きな話題を集め、日本映画批評家大賞作品賞など数々の賞を受賞。
安藤サクラも本作と『百円の恋』と合わせて、数々の主演女優賞を受賞している。

原作小説を執筆した段階から映画化の構想があったという安藤監督は、「といいますか、いつも頭の中で先に映画が完成していて、それをみなさまに披露するために、今回はまず小説にして、それをまた映画にするという作業だったんです(笑)」

対する安藤サクラは「私たち姉妹は、いつもイメージする世界が先にあって、それを文字にしたり映画にしているような気がしています」

原作小説を執筆していたときから、主人公は安藤サクラをイメージしていたとのこと。

桃子「この映画に限らず、大体全部の作品で安藤サクラが私の中にいまして、人形のように彼女を動かすことによって、私の想像力は無限に広がっていくんです。その意味では、彼女は一番いい素敵なお人形です(笑)」
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サクラ「じゃあ、あのおじいちゃんたちも私なの?(笑)」

桃子「おじいちゃんたちは私であり、ある意味サクラでもあり、つまり全ては融合体(笑)。でも、いざ映画を作り始めると、サクラは人形の枠に収まらない。自分のヴィジョンをぶっ飛ばすくらいの素晴らしいものが返ってくる人と一緒に仕事をすると、予想の範疇を超える無限の可能性が生まれるものですが、そういう意味でもサクラはベストというか宇宙のような存在ですね」

サクラ「生まれたときから私を見てきている姉にしかわからない、こちらの持っているものを無限大に引き出してもらえています。しかも今回は小説から書いてもらえたわけですから、ものすごく贅沢ですよね」

桃子「安藤サクラに一番詳しいのは私です(笑)」

ところで、『0.5ミリ』というタイトルからくるイメージとは?

サクラ「多分、私と姉とで持っているイメージは違うと思います」

桃子「もちろん原作執筆のときから私の中にはあるのですが、しかしながら撮影にあたっての俳優のみなさんから、ご覧になられた観客のみなさんまで、それぞれの解釈で“0.5ミリ”の意味を語ってくださるんですよ。つまり100人いたら100通りの解釈ができる。ただ、今日は上映後なので私の中の“0.5ミリ”を申し上げますが、“心の尺度”という意味で私は描いていました」
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サクラ「0.5ミリでも0.1ミリでも何でもいいと、私は思っているんです。ただ、例えばほんの0.5ミリずれただけで何かが狂ってしまったりとか、そんな全てがバタッとひっくり返ってしまうような選択って日常の中にはありますよね」

桃子「今、言われて思ったのは、“こらえる0.5ミリ”ってものもあるのかなと。夫婦喧嘩の果てに『死ね』の二文字を我慢せずに言うか言わないかで、全てが変わることもありますよね」

客席からは、食事シーンが多かったことへの質問が。

桃子「すごく意味はあります。食べることと生きることは直結していると思っていますし、食欲がなくなるということは生きる気力をなくすことにも繋がっていく。その意味でも、この映画のおじいちゃんたちが生きる気力を蘇えらせていく上での食事シーンをちゃんと見せたかった。またサワちゃんの料理する姿を通して、今の世の中で何かをひとつひとつ丁寧に描きたいと思いました」

子宮があるのかないのかよくわからない、サワの設定を通して描きたかったことは?

桃子「下ネタになりますが、サワちゃんには勃たない老人を見分ける嗅覚があるんです(笑)。そもそも女性は『意外にこの人枯れてるから安心』とか『一緒に飲むのは二軒目までにしておかないと危ない』とか、そういった嗅覚は男性よりもチョー鋭いと思っているのですが、同時に彼女は子宮がないという、そんな精神的部分を、枯れきっている老人だからこそ埋められる。そんな噛み合うときと噛み合わないときの差が激しい、オスとメスの関係性をその設定で表現したかったんです」

サクラ「また小説ではサワちゃんの子宮に関するストーリーも描かれています」
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おじいちゃん役のひとり茂を快演した“アホの坂田”でおなじみの人気コメディアン坂田利夫のキャスティングは?

桃子「キャスティングってパズルのように難しくて、その中で茂じいさんに関してはコメディ要素のある人を探していたところ、エグゼクティヴ・プロデューサー奥田瑛二(安藤姉妹の父)が、坂田師匠がおじいちゃんみたいに写っている新聞記事を見つけてきまして、『あ、茂じいさんがいた!』と(笑)。でも現場は楽しかったねえ」

サクラ「うん。妖精さんがひとり(笑)」

アホの坂田が妖精さんと化した(?)素敵な映画『0.5ミリ』はDVDも現在リリース中。まだご覧になられてない方には、ぜひオススメしておきたい作品である。
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(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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