小津が定泊した茅ケ崎館を舞台にした 『3泊4日、5時の鐘』のさわやかな味わい

■「キネマニア共和国」

静かに、そして着実に、世界中から注目を集め続けている若き映画人がいます。
女優として、プロデューサーおよび監督として精力的に活躍中の杉野希妃

そんな彼女がプロデュースした映画『3泊4日、5時の鐘』が9月19日より公開となります。

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街 vol.27》

実は松竹映画ファンも必見の快作ラブ・コメディなのです!

小津とウディ・アレンの化学反応

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本作の舞台となるのは、茅ケ崎の旅館・茅ケ崎館。
この名称を聞いてハッとする方はかなりの小津安二郎ファンでしょう。
そう、この茅ケ崎館は、小津監督が脚本を書くために定泊していた宿なのです。

本作は、創業115年の歴史を誇る老舗旅館を舞台に、現代の若き男女の機微が繊細に、そしてどこかユーモラスに綴られていきます。

茅ケ崎館の娘の結婚パーティのために旅館を訪れた元同僚の二人。
旅館でバイトしている大学生。
彼が属するゼミの面々も、合宿で旅館を利用します。

3泊4日、5時の鐘サブ1(大)

こうした若者たちがさりげなくもいつしか複雑に絡み合っていき、その中から特に女心のリアリティがとげとげしくも温かく描出されていくのですが、そこには杉野希妃(今回は元同僚の一人・真紀役)が愛してやまないウディ・アレンの群像劇スタイルが、どこかエリック・ロメール的な情緒を伴いつつ発露されていきます。

監督は杉野のもとでアシスタントプロデューサーを務め、これが第1回監督作品となる現在27歳の三澤拓哉。

彼自身、ウディ・アレン作品のファンで、そこに小津の愛した宿で撮影するという環境とが化学反応を起こし、単に小津映画の域を超えて、どこか往年の松竹大船調の現代的再現にもなり得ている感があります。
というか、渋谷実監督が今、若くして映画を撮ったら、こんな感じになるのではないかと勝手に思わされるものまでありました。
3泊4日5時の鐘サブ2-3

どことなく懐かしく、しかし女性ならではの(⁉)エキセントリックな感情の爆発、それに対して成す術もない(というか、単に鈍感とでもいうべきか⁉)男たちのドタバタ騒動が妙にさわやかでみずみずしく綴られているのが、本作の微笑ましい長所ともいえるでしょう。

意欲ある若いエネルギーとともに

さて、公開直前の9月17日、外国特派員協会にて、本作の記者会見が催され、杉野希妃と三澤監督が登壇し、数々の質問に答えてくれました。

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まず、優れた才能を次々と発掘しては育て、世に出すことに長けている杉野さんのプロデューサーとしての目線、手腕への賛辞に対して……。

杉野「三澤さんには『ほとりの朔子』などの作品に就いてもらったのですが、アシスタントというよりも、一緒に映画を作る同志といった存在ですので、自分が育てているというよりも、一緒に良い映画を作っていけたらいいねといった感覚です。
また私が初めて映画をプロデュースしたのは25歳くらいのときでしたが、当時はなぜこんな小娘が映画製作を? といった目で見られたりもしていましたので、そういうものを打破したいというか、どんな年齢であっても映画作りに挑戦していいはずだと思いますし、また意欲ある若い人たちと一緒に仕事することで、自分もエネルギーをもらいたいという気持ちもあります」
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既成曲も交えた音楽に関しては、三澤監督がウディ・アレン監督がこよなく愛するジャズ曲などを参考にしたとのこと。

三澤「彼がよく使うラグタイムの発祥と、茅ケ崎館の発祥がほぼ同時期ということも、選択の後押しとなりました」

杉野「タイトルにもある“5時の鐘”として音楽を鳴らしたいと監督から言われて、これは日本独特の郷愁があって面白いと思いました。5時の鐘が鳴ることで1日が終わるという一つのリズムにもなりますし、一方でそういった情緒を映画の中で活かした作品ってまだ意外に少ないかなとも」
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その『3泊4日、5時の鐘』というタイトルが、最近の日本映画の中で出色ではありますが、海外用タイトルは“CHIGASAKI STORY”と、日本人からするとやや味気ないかなという気もしないではありませんが……。

三澤「英題にするには少し長い邦題であるということと、茅ケ崎市でオールロケすることが最初から決まっていた作品でしたので、その場所を世界に見せるという意識でシンプルにしました。また小津監督の有名な作品(『』東京物語』の英題は“TOKYO STORY”)からもインスパイアを受けています」
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ひとくせある人物設定や会話のエスプリなどに関してもウディ・アレン作品の影響が強いようですが、同時に……。

三澤「実は僕自身、たとえばファミレスの隣の席の見知らぬ人たちの会話などを聞くのが大好きなもので(笑)。そこでのメモとかも結構たまっていますし、人から聞いた話などもかなり参考にさせていただいています。またアドリブでやっていただいている箇所もあります」

実際、小津監督にインスパイアされた部分などは?

三澤「実は茅ケ崎館で撮影することは最初から決まっていたわけではなく、最初の脚本ではあるペンションという設定でした。でもロケハンしていく中で幸運にも茅ケ崎館を使わせていただけるということで、脚本を直していきました。
小津作品へのオマージュという点でも撮影時はさほど意識してなかったのですが、不思議なことに編集段階で少し小津っぽい個所などが出てきまして(笑)、全体のバランスを壊さない程度に、オマージュ性も強調していくようにも努めました。
また見ていただく方の目線によって、誰がメインの人物なのかが違う、そんな群像劇スタイルを目指しました」

本作はモロッコのマラケシュ国際映画祭など世界各地で上映されていますが、そのマラケシュでの審査委員長はフランスの大女優イザベル・ユペール。彼女の反応は?

杉野「イザベル・ユペールは世界で一番好きな女優ではないかというくらい大好きな女優で、特にクロード・シャブロル監督とコンビを組んだ作品は私の人生の中でもトップクラスに入るほどですので、そんな尊敬している彼女が審査委員長と聞いたときは飛び上がりました(笑)。結果として賞はいただけなかったのですが、授賞式の後で思い切って彼女に直接映画の感想を聞いてみたところ、『あなた、すごく良かったわよ。監督も今から期待できる監督ね』と励ましの言葉をいただけました」

三澤「実はこの作品の上映中、前の列で笑っているおばさまがいらっしゃるなと思い、映画が終わって場内に灯りがついたとき確認してみたら、イザベル・ユペールさんでした(笑)」
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さて、この作品、どういう風に見てもらいたいかという質問に対しては?

杉野「この作品は14年の夏に撮影された作品ですが、それ以前の2年間、三澤さんには本当に頑張ってもらったので、そのご褒美とでも言いますか、お疲れさまとでも言いますか(笑)、私の会社で彼にしてあげられることをやっておきたかったし、できる限り彼がやりたいことに挑戦してほしかった。私は大枠というか、バランスをとる立ち位置でした。
エグゼクティヴ・プロデューサーとして、この映画をどういう風に見てもらいたいというのは特にはありません。ただ、私自身はこの作品を見て、人間って直線ではなく円なんだなと。そこが面白いところではないかと個人的には思っています」

最後に、今回のキャストの中での男代表ともいえる知春は、亭主にするには律儀でいい男性だが、いささかつまらない男ではないか? という質問に対して……。
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杉野「そういう方はそういう方で素敵だなと思います。私の好みではありませんけど(笑)、そういう方が好きな女性もきっといらっしゃるのではないかと(笑)」

三澤「友人がこの映画を見た僕の知人の多くが、知春は君に似ていると言われています(笑)」

杉野「でも彼はそんなにつまらない男ではないです(笑)」

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(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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