映画の可能性を示唆したシンプルかつ芳醇な傑作『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー 』

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最初に申しておきますと、この作品はいわゆるホラー映画ではありません。

ただし主人公はゴーストです。

それも、実に哀しく、切ない……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街343》

しかも映画ファン必見の傑作なのです!

死んでゴーストになった夫と
それに気づかぬ妻、双方の哀しみ

『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー 』のお話は至ってシンプルです。

田舎町でC(ケイシー・アフレック)とM(ルーニー・マーラ)の若い夫婦が仲睦まじく暮らしていましたが、ある日Cが交通事故で死んでしまいます。

しかしCは現世や愛妻への未練もあってか成仏できず、病院の遺体にかけられたシーツを被ったゴーストと化して、Mのいる自宅へ戻っていきます。

もっとも、すぐそばにCがいることにMは気づく術もなく、夫の死を素直に受け入れられないまま、次第に情緒不安定になっていきますく。

Cもまた。そんなMに対してどうすることもできないままでいます。

そして時が過ぎ、Mはある決断をします。

それは同時にCにとっての、さらなる悲劇の始まりでもありました……。

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3人の映画人の“約束の果て”に
作られた“真に作りたい”作品

主人公の役名からも想像できるように、本作はすべてにおいてシンプルな構造が採られており、台詞も説明的なものを排して極端に少なく、撮影も長回しなどじっくり捉えることを信条としておりを、今風のガチャガチャした小刻みのカッティングもなく、静謐な趣のまま、画面サイズも映画の基本であるスタンダードを保ちつつ、92分という、これまた今時の映画にしては短いランニングタイムで、しかしながら奥深い人間の心の心情を切々と訴えていきます。

何よりもシーツを被ったゴーストの、まるで幼い子供のいたずらのようなちょっと愛らしい佇まいが、なおさら主人公の悲しみを巧みに醸し出しています。

ケイシー・アフレックが素顔を見せてくれるのは最初のほうや時折の回想シーンくらいのもので、劇中のほとんどがシーツをかぶったまま。それでいて彼の名演を体感させる優れもの!

ルーニー・マーラは劇中、ひとりでずっとチョコレートパイを食べ続けるシーンがありますが、これは本作の前半部における白眉ともいえる名シーンで、論より証拠で見てくださいとしか言いようのない素晴らしいものになりました。

本作の監督は『ピートと秘密の友達』(16)のデヴィッド・ロウリー。

メジャー作品から一転してのインディペンデント作品への転身は一見驚きですが、実はケイシー・アフレックとルーニー・マーラ、そしてデヴィッド・ロウリー監督の3人は『セインツ―約束の果て―』(13)でともに仕事をしており、そこで意気投合して、数年に一度自分たちの作りたいものを作っていこうという、まさにそんな“約束の果て”の最初の1本が、この『ア・ゴースト・ストーリー』なのでした。

実際、今のハリウッドなどメジャーな映画業界内でこういったセリフが少なく、主人公の実姿も見えない、スタンダード・サイズの映画など絶対に企画は通らないでしょう。

しかし作家性を重んじる若き映画人たちの意欲と想いの実現あればこその映画の発展であり、本作もまた新たな映画の可能性を大いに示唆している意味において、実に見事な傑作として大いに讃えたいものがあります。

既に2017年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー トップ10・インディペンデント作品賞など世界各国で絶賛され、米映画批評サイトRotten Tomatoesでは91%の支持率となった本作、映画ファンを自認する方ならば見逃しは厳禁であり、この静謐なる臨場感の趣はTVモニターではなく、ぜひ劇場の大画面でご覧いただきたいと、切に願います。 

(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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