ウエスタンとゲイ映画の意外にして絶妙な相性『ブロークバック・マウンテン』

ブロークバック・マウンテン (字幕版)

ゲイ映画の金字塔『ブロークバック・マウンテン』

このところLGBTQ映画に注目が集まっていますね。

現在公開中の『ムーンライト』(バリー・ジェンキンス監督)も、ゲイの黒人少年が主人公。LGBTQ映画としてアカデミー賞作品賞受賞の快挙を成し遂げた本作には、ゲイ映画の金字塔と言われる『ブロークバック・マウンテン』(2005年 アン・リー監督)を凌いだ、との声も。

ムーンライト サブ2

(c)2016 A24 Distribution, LLC

しかしその意見には個人的に待ったをかけたい……さまざまな社会問題を盛り込んだ『ムーンライト』、とても心に響く作品ではありますが、LGBTQ映画という側面で捉えた場合、同性愛にテーマを絞り込んで真正面から見据えた『ブロークバック・マウンテン』と単純に比較してよいものかどうかは疑問です。

今日は、『ムーンライト』と併せて観直したいLGBTQ映画として、『ブロークバック・マウンテン』を取り上げてみたいと思います。

2人の聖地・ブロークバック・マウンテン

物語は’60年代、ワイオミング州の山岳地帯から始まります。

ひと夏の間山で羊を追うという出稼ぎ労働で出会った、2人のカウボーイ・イニス(ヒース・レジャー)とジャック(ジェイク・ギレンホール)が、この物語の主人公。

羊の群れとともにブロークバック山に登った2人は、厳しい大自然の中で寝食を共にするうちに心を通じ合い、肉体関係を持ちますが、その後も2人は自分を同性愛者とは認めません。

夏が終わり、山を下りた2人は、それぞれの郷里で女性と結婚し、一家の主に。

しかし、数年後再会したことをきっかけに、2人の人生の歯車は狂い始めます。

異性愛者として暮らしながら生涯お互いを愛し続けたイニスとジャックの半生を描いた作品。

自らもゲイであることを公表しているアン・リー監督の最高傑作です。

社会が求める「理想の男」であろうとしては挫折し、周囲を傷つけるやるせなさ

2人が出会ったのは、まだアメリカの殆どの州で同性愛が法的に禁じられていた時代。

作中の回想シーンで、幼いイニスが、リンチで殺された同性愛者の死体を父親に見せられる場面がありますが(イニスは殺したのは自分の父親の仕業と確信しています)、そんなホモフォビア教育を受けたイニスは、彼自身ホモセクシュアルでありながら強烈なホモフォビアです。
彼は、父親に刷り込まれたとおりの「男らしい男(つまりホモフォビア)」であろうとし、それゆえに、最愛のジャックは勿論、彼を愛した女性たちをもズタズタに傷つけていきます。

家族も世間体も捨てて一緒に暮らしたいと言うジャックの願いをはねつけ、それでいてジャックが男娼を買ったことを知ると、

「殺してやる!」

と怒り狂う、その癖自分は女性関係を絶やさない……イニスの行動はあまりに身勝手。

しかし、彼の身勝手さは、自分だけ幸せになるためではなく、ゲイである自分を許せないがために周囲の人間を幸せにできないのだということに気づいた時、彼を責める気持ちも失せてしまいます。

年月だけが過ぎ、2人が若さも可能性も全て失っていく中、ブロークバック・マウンテンでの思い出だけはますます輝きを増していくのが切ない。

控えめなギターの音色を効かせたBGMにのせて描かれていく2人の20年。

重いテーマを描きながら、どこか優しく、2人への慈愛に満ちた視線を感じるのは、監督の彼らへの深い共感が込められた作品だからでしょうか。

ジェイク・ギレンホールの吸い込まれそうに青い瞳と、故ヒース・レジャーの、イニスが憑依したかのような朴訥な演技も魅力。時を経ても古びることのない映画です。

(C)2005 Focus Features LLC/WISEPOLICY

ゲイ映画は西部劇の正当な系譜?

ところで、『ブロークバック・マウンテン』が出てきた時、ニューヨーク・タイムズ紙が「ゲイ・ウエスタンが出てきた」と大きく扱ったのに対して、ワシントンポスト紙は、「騒ぐほどのことじゃない。たしかにウエスタンで同性愛をメインテーマに据えた点は快挙だが、同性愛的エロチシズムを匂わせたウエスタンは珍しくない」という主旨の記事(注1)を出しています。

この記事で「前例」として挙がっている作品は、『ワイルドバンチ』『明日に向かって撃て!』(いずれも1969年製作)など。

ワイルドバンチ ディレクターズカット (字幕版)

「ホモソーシャル」と「ホモセクシュアル」を混同しているのでは?と言われるかもしれませんが、実際、挙げられた作品を観直してみると、たしかに意図的に同性愛的エロチシズムを散りばめているように見える箇所もある……つまり、腐女子用語で言うところの「匂い系」なんですよね。

特に『明日に向かって撃て!』は、ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードのバディものだという点や、2人と行動を共にするキャサリン・ロスの奇妙な絡め方、そして何と言っても、2人の最期の雄姿を永遠不滅のストップモーション映像に封じ込めたあまりに有名なラストシーンなど、のちの『ブロークバック・マウンテン』に繋がっていくような濃厚なブロマンス要素がぎっしり詰め込まれている気がします。

明日に向って撃て! [Blu-ray]
(名場面として知られる『明日に向かって撃て!』のストップモーション・シーンを使用したBlu-rayジャケット)

内田樹著「映画の構造分析」の中で、「アメリカ映画史はミソジニー(女性嫌悪)の映画史」という指摘もなされているように、ウエスタンは男の世界。

だったら、ウエスタン好きな女はよほど自虐的な女に限られる?……そんなことはありません。

女性から見ても、(こんなことを書いたらフェミニストの女性に叱られそうですが)「女を締め出すほど濃厚なブロマンス!」という意味で、「萌え」という別の魅力が。

ブロマンス好きな女性にも、こたえられないジャンルなんです。

ということで、次回も引き続きブロマンスな西部劇としての『ワイルドバンチ』『明日に向かって撃て!』の魅力を考えてみたいと思います。

(注1)Out in the West: Reexamining A Genre Saddled With Subtext(ワシントンポスト 2005年12月25日)

(文:阿刀ゼルダ)

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