犯罪者の恋人と刑事の愛を描いた 韓流ノワール映画の秀作『無頼漢 乾いた罪』

名女優チョン・ドヨンの貫録
二枚目キム・ナムギルの新境地

ヒロインを務めるのは『シークレット・サンシャイン』(08)で韓国人初のカンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞したチョン・ドヨン。
ここでの彼女は株で大損して多額の借金を抱えて久しく、今では“既に盛りを過ぎた年増女”などと男たちから嘲笑されつつ三流クラブのマダムに身をやつしつつ、その実どこかファムファタル的に男を引き寄せては自滅させてしまうかのような悲劇的かつ魅惑的な女を見事に体現しています。
特に中盤での赤を強調した衣裳をまとっての華やかさと、クライマックスを過ぎての薄汚れた黒の衣裳のギャップを自然に両立させているあたりはこの名女優ならではのもので、残念ながら彼女に匹敵するほどのこうした佇まいを体現できる女優は、今の日本映画界にはいません。
(あえて比較できるとすれば、本作に先駆けてふたりの刑事が犯人の不倫の恋人をずっと張り込みし続ける野村芳太郎監督の名作サスペンス映画『張り込み』の高峰秀子くらいのものでしょうか)

犯罪者を捉えること以外眼中にない冷酷な刑事を演じるのは、ジャニーズ系ともいえるロマンティックな二枚目として人気のキム・ナムギル。
どちらかというと、これまでの彼は『パイレーツ』(15)の陽気な海賊に代表される正統派二枚目としてのヒロイックな役柄が多かった気がしますが、今回はその殻を打ち破るに足る熱演で、ダークな世界の中で終始ダークに立ち回りつつも、ヒロインに対する感情を抑制した演技で見事に醸し出しています。
キム・ナムギルの新境地といってもいい役柄であり、映画であるともいえるでしょう。
無頼漢
はじめに韓国映画から発散される感性は日本人とは近くて遠いものがあると記しましたが、本作は多くの部分で日本人の感性とも共通するものがあり、その点では見やすいともいえるでしょう。
ただし、人生を生きていく上での罪を、自ら望むかのように背負い続けようとする男と女の運命と、それゆえの断線を露にしていく韓国映画独自の色合いは、やはりここでも健在です。
人生とはかくも割り切れず、思うがままにいかないといった嘆きを表す朝鮮半島の伝統的思想「恨(ハン)」は、最近の韓国の若者たちの間で否定する向きが出てきているとも聞きますが、本作などを見ますと、やはりまだまだ健在であるかのような、そんな印象も抱きました。

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(文・増當竜也)

『無頼漢 乾いた罪』は2015年10月3日(土)より絶賛公開中!
公式サイト http://www.finefilms.co.jp/buraikan/

(C) CJ E&M Corporation, 2015


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画レビュー・コーナー『戯画日誌』を連載中。近著に『映画よ憤怒の河を渉れ 映画監督佐藤純彌』(DU BOOKS刊)がある。

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