『ウィンストン・チャーチル』をより楽しむための映画やドラマたち

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第2次世界大戦下のイギリス首相としてドイツやイタリア、日本と戦い、勝利を収めたウィンストン・チャーチル。『ウィンストン・チャーチル~ヒトラーから世界を救った男』は、そんな彼の首相就任時からおよそ1か月の激動の時期を描いた作品です。

“カメレオン俳優”の異名を持つゲイリー・オールドマンが、日本人メイクアップ・アーティスト辻一弘の卓抜した技術で見事なまでに太っちょチャーチルに変身して熱演し、アカデミー賞主演男優賞およびメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞したことでも話題の作品ではありますが、この時代のこと、チャーチルの人柄や対人関係などを知っておくと、さらに楽しめること必定。

というわけで……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.298》

今回はチャーチルにまつわる映画やドラマをいろいろ集めてみました。

やはり『ダンケルク』は
事前に見ておくべき!

ダンケルク(字幕版)

まず『ウィンストン・チャーチル』で描かれている時期は、まさにイギリスがナチス・ドイツの脅威にさらされていた1940年5月9日からおよそ1か月。チャーチルは10日に首相に就任し、当時フランスのダンケルク海岸まで追い詰められていたイギリス軍兵士およそ30万人の撤退作戦“ダイナモ作戦”を25日に発令します。

そうなると、やはり昨年話題になったクリストファー・ノーラン監督の戦争大作『ダンケルク』(17)を事前に見ておくのは必須ではありますが、さらにその後のイギリス国内の様子を映画界を通して描いた『人生はシネマティック!』(16)、さらにはダイナモ作戦遂行の後、イギリス空軍が5対1のハンディキャップにもめげず、ドイツ軍から自国の制空権を守り抜いた16週間におよぶ“バトル・オブ・ブリテン”を描いた『空軍大戦略』(69)なども見ておくと、当時の状況のみならず、イギリス人独自の紳士的気質などがより理解できるかと思われます。

『ウィンストン・チャーチル』の監督ジョー・ライトは出世作『つぐない』(07)の中でもダンケルクの戦いを重要なエピソードの中に忍ばせていますが、やはりあの戦いがイギリス人にとっていかに大きなものであったかがうかがわれます。
つぐない (字幕版)

一方、ダンケルクの戦いをフランス人の目線で捉えたアンリ・ヴェルヌイユ監督の『ダンケルク』(64)も合わせて見ておくと、より当時の状況が多面的に見えてくることでしょう。

若き日のチャーチル讃歌『戦争と冒険』と
チャーチルを打ち負かした『ガンジー』

チャーチルそのものの生涯を描いた作品としては、圧倒的にTVムービーやドラマが多く、その代表格『チャーチル/大英帝国の嵐』(02)ではアルバート・フィニー、続編『チャーチル/第二次大戦の嵐』(09)ではブレンダン・グリーソンが、またネットフリックスで配信されているイギリス女王エリザベス2世の生涯を描いたドラマ・シリーズ『ザ・クラウン』(16~)ではジョン・リスゴーがチャーチルに扮しています。

逆に映画では、今までチャーチルを主軸にした作品は少なく、どちらかというと周囲の重要人物的な扱いが圧倒的で、ロシア映画『ヨーロッパの解放』シリーズ(70~77)のYu・ドゥーロフのように、どちらかといえばこれまではチャーチルのそっくりさんが登場するパターンが多かったように思えます。

『ウィンストン・チャーチル』にも登場するジョージ6世を主人公にした『英国王のスピーチ』(10)では、ティモシー・スポールがチャーチルを演じていました。
英国王のスピーチ (字幕版)

クエンティン・タランティーノ監督の戦争アクション映画『イングロリアス・バスターズ』(09)では、ロッド・テイラーがチャーチル役でゲスト出演していましたね。

チャーチルを主人公にしたユニークな映画としては、リチャード・アッテンボロー監督の『戦争と冒険』(72)が挙げられます。

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これはチャーチルの若き日の戦場での武勇伝などを経て、やがて彼が政界進出するまでを描いたものですが、ちょっと驚くのはサイモン・ウォード扮するヤング・チャーチルからは、葉巻をくゆらせた太っちょチャーチルの面影など微塵もなく、いわば堂々たるイケメン野心家ヒーローとして捉えられていることで、実は若い頃のチャーチルは写真などを見ますと実に二枚目で、30歳過ぎてから彼はどんどん肥満化していったのでした。

映画ファンからするとちょっと不思議なのが、リチャード・アッテンボロー監督はデビュー作『素晴らしき戦争』(69)や『遠すぎた橋』(77)『ラブ・アンド・ウォー』(96)など一貫して反戦的立場を保った作品を発表し続けてきた名匠ですが、『戦争と冒険』に関してだけはどこかノスタルジックなロマンティシズムあふれる英雄讃歌になっていることです。

さらに彼は映画人生のすべてをかけて、イギリスの植民地であったインド独立に生涯をささげたマハトマ・ガンジーの伝記映画『ガンジー』(82)を発表しています。
ガンジー (字幕版)

『戦争と冒険』で若き日のチャーチルを賞賛しつつ、その宿敵でもあった非暴力主義者ガンジーをリスペクトするアッテンボロー監督の姿勢からは、すべての争いを否定しつつ、チャーチルが第2次世界大戦においてイギリスを守り抜いたことへの敬意が矛盾することなく同居しているようにも思えてなりません。

チャーチル誘拐計画の全貌を描いた
『鷲は舞いおりた』

ちょっと変わったところでは、ジョン・スタージェス監督の戦争サスペンス・アクション『鷲は舞いおりた』(76)があります。
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これは「チャーチルを誘拐して来い」というヒトラーの気まぐれに真摯に応じざるを得なくなったドイツ軍上層部の命令で、ユダヤ人女性を助けようとした罪で咎められていた歴戦の勇士シュタイナー大佐(マイケル・ケイン/原作では中佐)率いる精鋭部隊がイギリスに潜入して避暑地を訪れる予定のチャーチル(レイ・デイリー)を誘拐しようという、前代未聞の計画を描いたもの。

原作はジャック・ヒギンズのベストセラー小説ですが、その冒頭には「この物語の50パーセントは事実である」といった一文が記されており、もしや本当にこのようなミッションが遂行されていたのでは? などと想像を膨らませてくれるものがあります。
いずれにしても当時チャーチルがイギリスの象徴であり、同盟国側からすると脅威的存在であったことを改めて納得させてくれる快作でもあります。

日本映画『帝都大戦』(89)では、第2次世界大戦末期の日本を舞台に、あからさまに名前は出てきませんがチャーチルはもとよりアメリカのルーズベルト、ロシアのスターリンなど連合国首脳陣を呪術で殺そうという計画を主軸に魔人・加藤保憲(嶋田久作)と超能力者たち(加藤雅也&南果歩)の熾烈なサイキック・ウォーズが繰り広げられていきますが、こちらも『鷲は舞いおりた』同様、意外なラストが待ち構えています(ちなみにチャーチルなどは登場しませんが、ヒトラーや東條英機といった同盟国側の首脳陣は出てきます)。

実はチャーチルなんて存在しなかった!?
虚構の戦争アクション『チャーチルズ・ウォー』

最後に、素っ頓狂ともいえる珍作『チャーチルズ・ウォー』(02)も紹介しておきましょう。
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これは何と、チャーチル首相はイギリス政府が宣伝活動のために作り上げた架空の人物であったという大胆奇抜な設定のもと、イギリスにやってきたアメリカ兵士ウィンストン・チャーチル(クリスチャン・スレイター)が、ヒトラーと政略結婚させられそうになっている英国王女(後のエリザベス2世)を救うべく、ナチスドイツに戦いを挑むというもの。

奇想天外というか、もはやトンデモの部類に入るものではありますが、パラレルワールドとしての戦争アクション映画として接すると実に楽しく、またテンポのよい快調な作品です。

また『ウィンストン・チャーチル』の中でも描かれている通り、1940年当時のイギリスはナチスドイツと和平を結ぶ融和政策に乗り出すべきではないかという政治家や軍上層部、上流階級の声も多く、むしろ一般庶民のほうが徹底抗戦を望んでいたことで、そういった状況を痛烈に風刺したブラックユーモアあふれる描写も多々見受けられます

もっともこれはアメリカ映画であり、さすがにイギリス映画界でこういうものを作る発想はないかなとも思えますね。

さて、こういった感じで、さまざまな側面からチャーチルをとらえた作品に接してゆくことで、『ウィンストン・チャーチル』もより楽しめることでしょう。

余談ですが、現在ロシアのアレクサンドル・ソクーロフ監督が、あの世でチャーチルとヒトラー、スターリンが会って、第2次世界大戦はもとより、生前に起きた事件の数々について語りあかすファンタジー映画を構想中とのこと。これもぜひ見てみたいものです。

(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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