「衝撃作!」の看板の奥に秘められた 『木屋町DARUMA』の正体

■「キネマニア共和国」

世に「衝撃作」といった触れ込みで紹介される作品は山ほどありますが、これは久しぶりにそういった世界を描いたものです。ただし、私自身のこの作品に寄せる想いはやや異なるかもしれません……。

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街 vol.36》

榊英雄監督、遠藤憲一主演の問題作『木屋町DARUMA』です。
木屋町DARUMA 遠藤憲一

両の手足をなくしたヤクザの
壮絶な闇金取り立て稼業

本作は、その過激な内容が問題視され、大手出版社から軒並み刊行を拒まれた丸野裕之の発禁小説の存在を知った俳優兼映画監督の榊英雄が「本にできないのなら、映画にすればいいじゃないか!」と、自らメガホンを握って映画化したものです。
やはりその内容ゆえに、2年前に完成しながらもなかなか公開のめどがつかなかったのですが、このたびようやく公開の運びとなりました。

主人公は、かつて京都・木屋町を仕切る組織を束ねていたものの、抗争で両の手足を失い、今は闇金の取り立てに勤しんでいる勝浦茂雄(遠藤憲一)。
映画の冒頭、彼がいかにして債務者の家に乗り込んで取り立てを行うかが描かれますが、その壮絶さは、まさに「衝撃作」のフレコミがふさわしいものではあるでしょう。
そして、これを機に、債務者の娘(武田梨奈)が闇風俗に売られ、彼女は地獄の底へと堕ちていきます。この悲劇、いや、もはや惨劇というべきエピソードは、後々までインパクトを伴いながら繰り広げられていきます。

また、茂雄の手足となる坂本(三浦誠己)や、茂雄の旧友・古澤(木村祐一)らを交えながら、ヤクザ社会の底辺に蠢く者たちのドロドロとした想いを描出していきながら、やがて茂雄の手足を奪った事件そのものにも言及していきます。

確かにフレコミ通り、目を背けたくなるような描写はいくつかありますし、その重々しい世界観に耐えられない人もいるかもしれませんが、本作のスタッフ&キャストともそのあたりの賛否両論は覚悟の上で臨んでいますので、そこが潔いといえば潔いかもしれません。
木屋町DARUMA 遠藤憲一

ヤクザ映画というジャンルへの敬意と
そこから醸し出される不思議な懐かしさ

もっとも私自身は、こういった闇社会の実情を目の当たりにして愕然となりつつも、この作品が内包する悲しみや切なさなど、不思議な懐かしさを感じてしまいました。

思えば1960年代から東映を主に、一気に日本映画屈指のジャンルとして台頭してきたヤクザ映画ですが、当初は良いヤクザが悪いヤクザをやっつけるという、いわばヤクザ社会内での勧善懲悪ともいうべき世界観であったものを、まず佐藤純彌監督が『組織暴力』(67)で警察とヤクザの確執を、善悪を超えた二大組織のすさまじい抗争劇として描いたあたりから状況が変わってきて、やがてヤクザの実態を描いた実録路線へと移り変わっていき、戦後広島ヤクザ戦争をモチーフに据えた深作欣二監督の『仁義なき戦い』(73)がその決定版として今なお讃えられ続けているわけですが、そういった路線の中から80年代に入ると川島透監督の『竜二』(83)などヤクザ個々の内面をナイーヴに綴ったニュー・ウェーヴともいえる作品群も登場してきます。

『木屋町DARUMA』には、そういった80年代ニュー・ウェーヴ・ヤクザ映画の匂いが濃厚です。
それは、善悪はともかくとして、こういった赤裸々な社会の中でしか生きていくことのできない人間たちの悲哀をこそ描こうとする榊監督のピュアな想いが結実しているからでしょう。
(同時に、片桐竜次や野口貴史、福本清三などの名優たちを諸所に置きながら、東映ヤクザ映画そのものへのオマージュも捧げられています)

人は生きていく上で、どこかで挫折したりして、ふっと道を外してしまい、そこから抜け出せなくなることが往々にしてありますが、ヤクザと呼ばれている人々も最初からワルだったわけではない。どこかで何か歯車が狂ってしまい、気づくと取り返しのつかないところまで来てしまっている。

ここではスポーツ選手をめざしつつも挫折してしまい、今では裏稼業に身をやつし、しかも茂雄のシモの世話までしなくてはいけない坂本の忸怩たる想いが淡々とリアルに描出されていきます。
演じる三浦誠己としても、これは彼の代表作と呼ぶに足る熱演でしょう。

また、普通の生活を送っていた女子高生が、ある日突然父の借金の肩代わりとして、何とスカトロもOKの嬢へと身売りされてしまうという、日常から一歩外れたところへいきなり突き落とされてしまう恐怖。
若手アクション女優として今や人気が世界的に拡散し続け、パワフルながら清純なイメージも強い武田梨奈が、ここではアクションを封印され(つまり彼女もまた主人公同様、両の手足を奪われて人生の身動きがとれなくなってしまったようなもの)、汚らしい輩から顔中舐められるなどショッキングなシーンを健気にこなしつつ、無理やり人生を落とされてしまった女のドロドロしたオーラを発散しながら、女優としての新境地を開いています。
木屋町DARUMA 遠藤憲一 武田梨奈

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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