「映画宣伝ミラクルワールド・特別篇」東和VSヘラルド。洋画宣伝が元気だった時代。

■「役に立たない映画の話」

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必殺「話題宣伝」VS「映画を信じる」宣伝。

爺 そもそも「映画宣伝ミラクルワールド」とはなんぞや?

先輩 はい。これは僕が3年ちょっと前に書いた本で、洋泉社から刊行されました。その「映画宣伝ミラクルワールド」はインディペンデント系配給会社の東宝東和が70年代半ばから90年代初頭にかけて行った、“話題宣伝”、まあハッタリ宣伝なんですが、それを中心にこの時代の洋画宣伝が、いかに破天荒で面白かったかを描いたものでした。

爺 売れたの?

先輩 はい。お陰様で増刷もかかりましたし、あの時代に青春期を過ごした人たちには、とても好評でした。

爺 インディペンデント系配給会社というと、アメリカに本社を持つメジャー系とは違って、日本独自の資本で経営されている配給会社を指すのだが、この時代、どんな宣伝が行われていたんだったけ?

先輩 メインに取り上げたのは東宝東和という、今でもある配給会社ですが、ここは「サスペリア」という恐怖映画を宣伝する際、ホールでの試写会にやらせの女性を紛れ込ませておき、映画が始まって恐いシーンになると、その女性が悲鳴を上げて倒れる。するとロビイに待機していた医者と看護師がかけつけて、「失神してます!!」と騒いで、その様子をスポーツ新聞に取材させるという、そんな方法をとっていました。要するに、ヤラセですね(笑)。

爺 今だったら絶対に出来ない宣伝だなあ、それは。

先輩 当時はコンプライアンスなんて概念も、おそらく言葉さえなかったでしょうからね。

爺 そういうことを書き連ねた本なのか?

先輩 まあそうですね。東和作品では「サスペリア」「エレファント・マン」「少林寺」「ランボー」、大ヒット作「ブッシュマン」と「キャノンボール」、逆に宣伝が暴走しすぎてコケた「メガフォース」まで、手びろうやらせてもろてます。

爺 他の配給会社の作品については扱ってないの?

先輩 日本ヘラルド映画が社運を賭けた「地獄の黙示録」、「乱」、それから松竹富士配給の「アマデウス」「ラストエンペラー」の宣伝についても、当事者に取材して書いています。

爺 なんでその本の「特別篇」を出すんだよ、今頃?

先輩 イメージとしては、スティーブン・スピルバーグ監督の「未知との遭遇・特別篇」なんです。あれは1977年の作品に追加撮影分を加えて、新たに1本の映画にしましたが、今回の「映画宣伝ミラクルワールド・特別篇」の場合も、「映画宣伝ミラクルワールド」に新しい要素をいくつか加えて、新たに1本の作品にしてみました。

爺 ふーん・・・なんか安直だなあ(笑)。

先輩 実を言うと、オリジナル版にちょこちょこっと手を加えれば、楽に出来ると思ってたんですが(笑)、それは甘かった。いやあ、思い知らされました!!

爺 なんでそんなことをしようと思ったんだい?

先輩 サブタイトルに「東和・ヘラルド・松竹富士 独立系配給会社黄金時代」とあるにも関わらず、東和のことばかり書かれている。

爺 それで他社の宣伝についても取材して書き加えようと。

先輩 特に東和とは宿命のライバルと言われた日本ヘラルド映画。ここの宣伝は東和に負けないぐらい個性的で、新しい試みをどんどんやっていました。ヘラルド映画はその後、KADOKAWAに吸収合併されましたので、今現在日本ヘラルド映画という会社は存在しませんが、OB、OGの方々は現在でも活躍しています。

爺 そのヘラルド映画の場合も、ハッタリ宣伝をやってたのかい?

先輩 そういうケースもあります。今回取材した中では、「コンボイ」とか「ゾンビ」がそれに該当すると思いますが、ヘラルドの場合は違うんですよ。東和の話題宣伝とは、その発想の原点というか思想が違う。それは今度の取材で、はっきり分かりました。

爺 どこがどう違うんだい?

先輩 ヘラルド宣伝のキモは「映画が内包している情報以外、売ってはいけない」。つまり「映画を信じる」ことなんです。東和の場合、映画の中にないものは、自分たちで作った。でっち上げた(笑)。それは「ジョギリ・ショック」だとか「スーパー・バンドック」とかの造語や、映画本編よりカッコ良かった「メガフォース」のイラスト・ポスターとか。そこが東和とヘラルドの大きな違いなんです。

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日本オリジナルの情報伝達で、ヒット作が生まれた理由。

爺 当時も今も、配給会社によって宣伝のとらえ方というか基本姿勢は違って当然だ。日本映画で言えば、松竹と東宝、東映は観客に対するアプローチの仕方が違うわけだし。それぞれの会社の個性が出る部分だな。

先輩 それ、すっごく分かります。以前東映のポスターを見ていたら、見事に黒いポスターばかりで、それに対して東宝のポスターはバックが白いものが多いんですよ。で、当時の東映宣伝部長に「なんでこんなに黒いポスターばっかりなの?」と聞いたら「うちの場合は、濃密な人間ドラマをこってりと見せるからのお」と言われて、なるほどと。

爺 じゃが、今はどこのポスターもデザインも色使いも似てきたぞ。少女漫画を映画化した場合なんて、松竹も東宝も似たようなポスターじゃないか。

先輩 それはそうですが、日本映画と外国映画では、宣伝の構造が違いますからね。外国映画の宣伝は「情報伝達」がほとんどで、それをどういう形で行うか。日本オリジナルの伝達手段があり、それが興行的にも成果を上げたのが本書で描いている時代で、ではどのような手段を使ったのかを、当時の関係者に取材していったわけです。

爺 確かにあの時代の洋画宣伝は、エネルギッシュだったし創意工夫に富んでいた。それを今、またやるべしというのは、あまりにも時代錯誤なんじゃないかなあ?

先輩 いやいや、「やれ」とは言ってません。そういうことを書籍の形で保存しておきたかったんです。今の宣伝関係者が読んで、何か参考になるのだったらそうすれば良いし、読み物として楽しみながら読んでもらってもOK。

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新規取材12章、全面改稿1章を含む全40章。全336ページ!!

爺 肝心の内容は、どうなっているんだい?

先輩 はいはい。こんな感じです。☆印は新規取材・執筆、☆☆印はオリジナル版を全面改稿したものです。

☆まえがき「なぜ、特別篇なのか?」

プロローグ
=「キングコングVSカサンドラ・クロス」

第1章
=インディペンデント映画が元気な時代

☆第2章
=「ヘラルド・ゴールデンセブンズ」とは何か?

第3章
=「サスペリア」

第4章
=東和、ヘラルドのホラー映画戦略

☆第5章
=「ジョーイ」

第6章
=「死亡遊戯」

☆第7章
=「フレッシュ・ゴードン/SPACE WARS」

☆第8章
=「コンボイ」

第9章=「ナイル殺人事件」

☆第10章
=「家族の肖像」とヴィスコンティ・ブーム

第11章
=「Mr.Boo!」

第12章
=地獄の邦題会議

☆第13章
=「グローイング・アップ」と「ゾンビ」

第14章
=「地獄の黙示録」

第15章
=「バトルクリーク・ブロー」

☆第16章
=「カリギュラ」

第17章
=「エレファント・マン」

第18章
=新聞広告には、パターンがある。

第19章
=「キャノンボール」と「エンドレス・ラブ」

第20章
=「ミラクル・ワールド/ブッシュマン」

第21章
=「メガフォース」と「少林寺」

第22章
=イベント宣伝蛮行録

☆第23章
=「ナポレオン」とヘラルド・エース

第24章
=「ランボー」

第25章
=「幻魔大戦」と「東京裁判」

第26章
=「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」

第27章
=「アマデウス」

第28章
=「ネバーエンディング・ストーリー」と「西太后」

☆☆第29章
=「乱」

第30章
=冬の時代

第31章
=「ラストエンペラー」

第32章
=「レッドブル」と「トータル・リコール」

☆第34章
=「ニュー・シネマ・パラダイス」

☆第35章
=「恋人たちの予感」と「セックスと嘘とビデオテープ」

第36章
=「フィールド・オブ・ドリームス」

☆第37章
=「恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」

第38章
=「ターミネーター2」

☆第39章
=「ハートブルー」

☆「特別篇のためのあとがき」

爺 しかし、よくもまあここまで取材して書いたもんだなあ(笑)。

先輩 悪かったな(笑)。今回は、オリジナル版を読んでくれた人以外の、初めてこの本の存在を知った人に読んでもらいたいですね。

爺 読んだ上で、大いにあきれてやってくれい(笑)。

先輩 6月中~下旬、洋泉社より発売します。全336ページ、予価3200円(税抜き)です。表紙カバーもリニューアルしました。よろしくどーぞ。

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(企画・文:斉藤守彦)

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    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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