日韓の美しき懸け橋となる愛と映画のファンタジー 『ひと夏のファンタジア』

■「キネマニア共和国」

「映画の新しい才能を発掘する」目的で1977年にスタートしたぴあフィルムフェスティバル(PFF)。第37回を迎える今年も自主映画コンペのPFFアワードやサミュエル・フラー監督の特集上映など、多彩な内容で映画ファンを楽しませてくれましたが、その中である作品がサプライズ上映されました……。

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街 vol.32》

奈良県五條市を舞台にした、チャン・ゴンジェ監督の日韓合作映画『ひと夏のファンタジア』です。
ひと夏のファンタジア③(c)Nara International Film Festival+MOCUSHURA

異邦人の目線で綴られる
映画と愛、ふたつのドラマ

『ひと夏のファンタジア』は、なら国際映画祭映画製作プロジェクトNARAtive2014年度作品として製作されたもので、プロデューサーのひとりに『萌の朱雀』などで知られる映画監督の河瀨直美が参加しています。

ストーリーは、映画製作のシナリオハンティングのために奈良県五條市を訪れた韓国の映画監督が、そこで現地のさまざまな人々と邂逅していく前半と、そこから生まれた実際の映画そのものを見せる後半、といった2部構成がなされています。
ひと夏のファンタジア②(c)Nara International Film Festival+MOCUSHURA
ユニークなのは、前半部がモノクロ映像で、韓国人女性と現地の男性の淡い恋を描いた後半部がカラーで綴られていることで、これによってドキュメンタリー・タッチの前半が妙にファンタジックなものとして映え、一方で虚構のドラマたる後半は異邦人の目で捉えた日本の地方の町として、前半部とは違った意味でファンタジックに映えていくことです。
ひと夏のファンタジア①(c)Nara International Film Festival+MOCUSHURA
また前半部で通訳を演じていたキム・セビョクが後半部のドラマでヒロインに転じるなど、同じ俳優が双方で異なる役を演じていることで、見ている側はどこか惑わされているかのような錯覚を覚えたりもします。
ひと夏のファンタジアメイキング②(c)Nara International Film Festival+MOCUSHURA
監督のチャン・ゴンジェは1977年生まれ。

男子高校生の葛藤を描いた2009年の監督デビュー作『つむじ風』がバンクーバー映画祭グランプリに輝き、自身の結婚生活をベースにした『眠れぬ夜』(12)は全州映画祭グランプリを受賞。

そして本作も韓国では6月に公開されて、インディーズとしては異例の大ヒットとなっており、その勢いに乗っての日本公開も切望されています。

日本での公開をめざして活動中の
映画ファン有志たち

9月19日、今回のPFF会場となった京橋フィルムセンターで『ひと夏のファンタジア』の上映とチャン・ゴンジェ監督のトークショーが開催されました。
ひと夏のファンタジア トークショー①(c)「ひと夏のファンタジア」プロジェクト2014-2015
進行はチャン監督の親友でもある真利子哲也監督。
現在、日本と韓国の若手映画人の間では、映画制作の環境が近く類似点が多いこともあって、文化的交流が盛んになってきているのです。
(双方の国のトップ政治家たちは、彼らの爪の垢でも煎じて飲んでもらいたいものです)
ひと夏のファンタジア トークショー②(c)「ひと夏のファンタジア」プロジェクト2014-2015
大の日本映画ファンで、特に成瀬己喜男監督の『乱れ雲』がお気に入りというチャン監督は、一方で北野武や三池崇史監督作品のようなアクション&ヴァイオレンス映画も見るのは大好きだけど、いざ自分が作るとなると、どうしても『ひと夏のファンタジア』のような方向に行ってしまうようです。

途中から、本作に出演している康すおんさんも登壇。彼は、俳優と一般の方々とが一緒に演技する作品ということで、自分がそういった町の風景などともちゃんとなじむように、時間を見つけては可能な限り町を歩いたりしていたそうで、その分監督たちとコミュニケ-ションをはかることを忘れてしまっていたとのことでした⁉
ひと夏のファンタジア トークショー③(c)「ひと夏のファンタジア」プロジェクト2014-2015
また映画の後半部でヒロインの相手役として国境を超えた切ない愛を体現した岩瀬亮さん(真利子監督の長編デビュー作『イエロー・キッド』の主演でもあります)は、本作のヒットがきっかけで韓国映画『最悪の女』に出演することになり、目下撮影中で今回は出席できなかったとのことでした。
ひと夏のファンタジアメイキング①(c)Nara International Film Festival+MOCUSHURA
トークショーの後はチャン監督のサイン会も開かれ、日本のファンそれぞれの真摯な姿勢に監督も嬉し層に対応していました。
ひと夏のファンタジア サイン会(c)「ひと夏のファンタジア」プロジェクト2014-2015
現在『ひと夏のファンタジア』は、いちはやく作品を見て心底惚れてしまった編集者の大森美紀さんを中心に、映画評論家の石津文子さんら有志による自主配給で、今年末の公開をめざして活動中です。

公式サイトも立ち上げました。

http://hitonatsunofantasia.com/

ぜひとも多くの日本の映画ファンに注目していただき、本作の日本公開実現のために力をお貸ししていただけたらと願っております。

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(文・増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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