「心に吹く風」。キラキラした十代を送った男女が20年後に再会したら、さて幸福になれるだろうか?

■「役に立たない映画の話」

心に吹く風 ポスタービジュアル

(C)松竹ブロードキャスティング

日本版「マディソン郡の橋」?

後輩 なんで僕たちふたりが、この映画について語ることになったんですかねえ?

女の後輩 あんた、女の扱い方がなっちょらんから、こういうラブ・スーリーを見て勉強しろってことじゃないの?

後輩 だったら先輩だって・・。ご隠居もどこ行ったんですか?

女の後輩 爺サマはシネコンめぐり。先輩は録画した「やすらぎの郷」を一気見してるわよ。

後輩 なんかそれ、逆じゃないですか?

女の後輩 あれだけシネコンが好きな後期高齢者も珍しいわね。まあいつ行っても入場料金1100円だけど。

後輩 「心に吹く風」は、確かにピュアなラブ・ストーリーでした。

女の後輩 ほお。あんたにもあの映画の良いとこ、分かるの?

後輩 失礼ですねえ。とても美しいお話で、クリント・イーストウッドの「マディソン郡の橋」を思い出しましたよ。

女の後輩 確かに似ているわねえ。北海道を旅するビデオアーティストの男が、たまたま電話を借りた家にいたのが、高校時代の恋人。それでまあ、焼けぼっくいに火がついちゃうわけだわな。

後輩 ふたりとも40歳ぐらいの設定ですから、もう別れてから20年ちょっと経過しているわけですね。そして女性のほうは旦那さんや子供さんがいる。それはまあ、昔の想い出に浸るうちに、またこの女と・・・となっても無理はない。

女の後輩 まあ確かにこの映画は、「冬のソナタ」のユン・ソクホ監督が日本で撮っただけあって、北海道の大自然を背景にしたラブ・ストーリーで、とにかく映像がキレイ。世の女性たちをうっとりさせた、そのノウハウを映画に活かした感じね。

後輩 撮影は高間賢治さんですね。「ラヂオの時間」とか「春との旅」を撮影したベテランで、この映画を見ると北海道に行きたくなります(笑)。

女の後輩 行ってくれば? いっそ帰ってこないでくれる(笑)?

心に吹く風 場面写真4

(C)松竹ブロードキャスティング

「これは、不倫を描いた映画じゃないのよ」「はああ?」

女の後輩 君は「心に吹く風」が「マディソン郡の橋」に似ていると言ってるけど、圧倒的に違うのは、この映画のふたりが、高校時代に恋人だったことよ。だから再会した重みが違う。偶然出会った「マディソン郡の橋」よりも、お互いのことをよく知っているんだから、そりゃあ色んな思いが再燃しちゃうわよ。

後輩 それで、旦那さんがいる女性とドロドロした関係に・・・。

女の後輩 ・・にはならないの。これは不倫を描いた映画じゃないからね。そういう描写は一切なかったでしょ?

後輩 それって不自然じゃないですか?リアリティないですよ。

女の後輩 いや、そういう関係の男女のほうが、むしろ始末に悪い。昔の映画だけど「恋におちて」ってデ・ニーロとメリル・ストリープが不倫する映画、見たことある?

後輩 ないです。

女の後輩 だろうね。この映画でデ・ニーロとメリル・ストリープの不倫がバレた時、デ・ニーロの奥さんが言うのね。「その女とは寝たの?」って。で、デ・ニーロが「いいや」って否定するんだけど、奥さんは「だったらなおさら悪い!!」って怒るのよ。

後輩 なんでですか?

女の後輩 あーもー、そういうこと、何も分かってないんだなあ。体だけの関係になるんだったら、それだけで終われるじゃない。そうじゃなくて、プラトニックみたいな気分で不倫されたら、そういう関係が延々続いて、終いには血を見ることになるわよ!

後輩 そういうもんですか?

女の後輩 そういうもんなのっ!!

心に吹く風 場面写真3

(C)松竹ブロードキャスティング

「今時珍しい、気恥ずかしくなるようなラブ・ストーリー」。

女の後輩 少なくともこの映画でユン・ソクホ監督は不倫する男女を描きたいんじゃないんだって。ほら、ここ読んでごらん(と、「心に吹く風」のマスコミ用資料を見せる)。

後輩 この監督、うちの親戚の伯母さんに似てる・・・。

女の後輩 うるさいっ!! 黙って読め!!

後輩 えっと・・「色んな愛がありますが、一番価値があり、興味があるのが初恋。純粋であり、美しいものの極致だと思います。なぜなら、ある日突然やってきて、そのまま受け入れるしかないものだからです。誰にとっても人生に1度しかありません」・・なるほど。

女の後輩 だから、この映画では眞島秀和と真田麻垂美のふたりのシチュエーションを中心に描いているけど、この監督が一番見せたかったのは、ふたりが高校生だった頃の、キラキラした日々の初心な恋模様だったのかもしれないわね。

後輩 初恋の美しさ。

女の後輩 そう。なんかそういうことをあんたと話してると、もう笑っちゃうんだけど(笑)。

後輩 なんでですかっ!? 僕だって、そういう想い出はありますよ!!だから主役のふたりが、特に男のほうは、未だ独身で初恋の想い出を捨てていませんからね。大切にしたいという、その気持ちはよーく分かります。

女の後輩 今時珍しい、ちょっと気恥ずかしくなるぐらいの、ピュアなラブ・ストーリーね・・・。

後輩 見た人は、自分の初恋の想い出をほじくり返したくなるんじゃないですか?

女の後輩 おしっ、次の同窓会で頑張るぞ! キラキラした十代の残りカスでもいいから取り戻すぞっ!!

後輩 なんなんですかあ? それは・・!!

■「役に立たない映画の話」をもっと読みたい方は、こちら

(企画・文:斉藤守彦)

関連記事

“冬ソナ”監督初の劇場作品『心に吹く風』予告解禁
眞島秀和、大人のバックハグ―『心に吹く風』場面写真


    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

    ピックアップ

    関連記事

    新着記事

    WP Facebook Auto Publish Powered By : XYZScripts.com