“大人な恋愛映画”の至高はコレだと思う!

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あの時、あの人と付き合うことにしていたら今どうなってただろう? なんてふと考えることありますよね。それがずっと心残りだったり、忘れられなかったり。どんな道を選んでも、捨てた方の道を選択していたらどうなっていたんだろうって考えてしまうものです。

『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』は運命の出会いへの憧れや昔の恋へのノスタルジーなど、観る人によってさまざまな思いを馳せられる映画です。内容を簡潔に言うならば「パリ行きの電車で偶然出会った見知らぬ男女が意気投合して、夜明けまでの時間を一緒に過ごすお話」。ありきたりなラブストーリーのように聞こえてしまいますが、この作品とっても奥が深いので、もうちょっと魅力を語らせてください。

まず、こちら実は3部作なのです。
1995年『恋人までの距離』(原題:Before Sunrise)

2004年『ビフォア・サンセット』(原題:Before Sunset)

2013年『ビフォア・ミッドナイト』(原題:Before Midnight)

あ、あれ? 第1作目だけ名前が…。しかも「距離」と書いて「ディスタンス」と読ませるという謎の小粋。実は第2作目が出て原題が「ビフォア」と続いてしまったため、邦題の『恋人までの距離』だと続編のネーミング上が難しくなってしまったのか、後に『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』と変更になりました。邦題の付け方って難しいもんですね。

2004年の第2作目『ビフォア・サンセット』では実際に9年の時が過ぎた30代の2人を、そして、そのまた9年後の第3作目『ビフォア・ミッドナイト』は40代になった2人を描いています。

というわけで、この3つの映画は「ビフォア3部作」と呼ばれています。

※以下からは核心的なネタバレは避けていますが、本作を紹介するためにストーリーに触れています。

『ビフォア・サンライズ』
夜明けまでの時間 ー 偶然の出会いは運命の出会い?

ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)(字幕版)
始まりはパリ行きの長距離電車の中。ある夫婦が喧嘩を始めます。隣に座っていたフランス人女性セリーヌ(ジュリー・デルピー)は気まずくなり、空いている席へ移動します。移った席の隣にはアメリカ男性のジェシー(イーサン・ホーク)がいて、2人はなんとなく、とりとめのない会話を始めます。これが2人の出会いです。ここから18年も続くシリーズになるとは、見ている方もびっくりです。

話のテンポやユーモアも合い、2人はすぐに意気投合。ジェシーはウィーンへ、セリーヌは終着駅のパリまで行く予定でしたが、ウィーンに着くとジェシーは降り際に

「君とまだ話したいし、後悔したくないから言う。ここで一緒に降りて、僕のフライトまでおしゃべりを続けないか。そうしないと君も10年後、20年後に誰かと結婚して、ふと昔のことを思い出す時に、あの時のアメリカ人ともう少し話していたらって後悔するよ。」

とセリーヌを説得します。なかなか言えないですよ、こんなこと。若きイーサン・ホーク 、よくがんばりました。

いくら意気投合したといえども、サイコ野郎かもしれません。どうする、セリーヌ? と思っていると間髪入れず、セリーヌはジェシーとウィーンの街へ降り立ちます。セリーヌもやるなぁという感じです。若いって本当に思い切りが良い。

夜明けまでウィーンの街を歩きながら、お互いのこと、昔のこと、将来のこと、自分の考えなどを、とにかくずっとずっと話し続ける2人。知的でユーモアセンスのある会話を繰り広げます。

この作品の1番面白いところは、ストーリーの上に会話が乗っているのではなく、会話でストーリーが成り立っていることです。最初から最後まで2人が美しいウィーンの町を歩きながら話しているだけの映画なのです。それがまたものすごく自然で、アドリブでずっと話しているような感じなのですが、実際は正反対。すべて監督によって綿密に練られたセリフで、主演の2人はセリフが完全に自分の言葉となるまで、死ぬほどリハーサルを重ねたそうです。

さて、話せば話すほど2人の距離は縮まるのですが、同時に「サンライズ」の時間も近づきます。見ているこっちまで、夜明けなんて来ないで欲しいって思い始めます。でも時間は来ます。ジェシーはアメリカに戻る飛行機に、セリーヌはパリ行きの電車に乗らなければなりません。

2人はさようならをした同じ駅で半年後に会う約束をします。それ以外、何も決めません。このひと晩の思い出を胸に繰り返し思い描きながら、再会を待つことに。95年ですから、FacebookもTwitterもないので、簡単にはお互いを探せません。なんだかそれもロマンティックですよね。今ならすぐ相手を探して連絡できちゃいますから。

ここで『ビフォア・サンライズ』は終わり。半年後の2人を見たくて、ウズウズしてしまいますよね。リアルタイムじゃなくてよかったですね。9年待たずとも、パート2がもう存在しています。

これを観る時の年齢や経験によっても見方は変わってくると思いますが、20代で観た時は、こんな運命の出会いしたいって思いましたし、30代の今観るとなんだかとっても甘酸っぱい気持ちになりました…。これからこの作品を観るみなさんがどう感じるか楽しみです。

『ビフォア・サンセット』
夕暮れまでの時間 ー 時を経ての再会。あの時のときめきは蘇る?

ビフォア・サンセット(字幕版)

ウィーンの別れから9年。ジェシーはセリーヌとの忘れられないひと晩の出来事を小説に書き、作家になっています。出版プロモーションでパリを訪れ、書店でインタビューを受けるジェシー。「2人は半年後に再会できたのですか。」と質問されると、濁しまくり。ちょっと! 私だって知りたいです。どうなったんだよ、ジェシー! そんな時ジェシーがふと横を見るとそこに立っているのは、セリーヌです。一緒に来たの? 突然現れたの? 気になりますよね。本作、ぜひ見てください。

『ビフォア・サンセット』の2人は容姿も少し変わって、30代になっています。9年前のあの日と同じようにジェシーの飛行機の時間「サンセット」まで、パリの街を歩きながら話し始めます。1作目同様、彼らの会話自体がストーリーです。でも9年経った2人の会話は1作目とは随分違います。劇的に恋に落ちた過去を懐かしみながら、直球の質問はせずにお互いの今を探り合っていて、若かった頃の思い切りの良さは失われ、大人になった様子が伺えます。

最初はぎこちなかった彼らですが、だんだん話す距離も近くなり、話す内容も踏み込んだものになっていきます。まるでドキュメンタリーのような自然な会話とちょっとした仕草が表す深い感情は、さすがと言うしかないです。

大好きな映画なのでネタバレは最小限にしておきたいのですが、別れの時間が迫ってくると2人はやっとあの夜の気持ちのことを話し始めます。

「えっ! 終わり!?」と思うエンディングは「サンライズ」と同じ。どうなったんだろう? とウズウズしてしまうのです。リアルタイムじゃなくて良かったですね。(また…もうその9年後を描いたパート3が出ています。

『ビフォア・ミッドナイト』
真夜中までの時間 ー あれから18年。劇的に恋に落ち、再会し、さらに9年経った2人の気持ちは?

ビフォア・ミッドナイト(字幕版)

ウィーン、パリと来て、今回の舞台はギリシャ。40代になった2人はギリシャにいます。そして「サンライズ」「サンセット」同様、「ミッドナイト」でも2人が話し続ける構成となっています。でもこの第3作目、ちょっとでも背景を説明するとネタバレしてしまうため、何も言えません。

ただ言えることは、やはり若かった頃のときめきや愛は、18年経つといい意味でも悪い意味でも形を変えるということです。自分をよく見せたかった頃とは違って、知り合って時間が経つと嫌な部分もたくさん見せてしまうもの。そんな現実を描いたのが「ミッドナイト」です。

私はこのビフォア3部作がとても好きです。これから観る人に、じっくり2人の状況や変化を味わってほしいので、これくらいにしておきます。ここでひとつ、私がこの映画をより好きになってしまったあるお話を紹介したいと思います。

ビフォア3部作は、リチャード・リンクレイターが監督をしています。彼がずっと秘めていたエピソードが明らかになりました。

リンクレイター監督は若い頃、ニューヨークへ戻る途中に姉の住むフィラデルフィアに一晩だけ立ち寄ったことがあります。ふと入ったおもちゃ屋さんである女性に出会います。2人は意気投合、フィラデルフィアの街を歩きながらおしゃべりを夜明けまで続けたそうです。まさに「サンライズ」。実体験にインスパイヤされたストーリーだったんですね。

「サンライズ」の2人は半年後の再会を約束しますが、リンクレイター監督と女性は連絡先を交換して、遠距離恋愛を始めます。数ヶ月は続いたようですが、だんだんフェードアウト…。遠距離恋愛あるあるですね、しょうがない。

その後、リンクレイター監督は「サンライズ」の撮影に入ります。1995年に公開を迎え、リンクレイター監督は、音信不通になったあの彼女が映画のことを知り、現れるのではないかという思い持っていたそうです。

するとリンクレイター監督の元にある女性から手紙が。あの彼女からではなく、彼女の友達からでした。彼女は1994年に「サンライズ」の撮影が始まる数週間前にオートバイ事故で亡くなったと記されていました。彼女は彼が映画を作ったことも、いつか再会できたらと思っていたことも知らずにこの世を去っていたのです。

この話は、3部作が完了してから監督が打ち明けたものです。たぶん話せるようになるまで時間がかかったのでしょう。私はこの話を知ってからもう一度3部作を見直しました。するとまた違った感情や見方が湧いて来ました。この映画に限らず、自分の歳や経験、状況によっていろいろな見方ができる作品は、本当に素晴らしいと思います。

まずは「サンライズ」を。その後の2人が気になったら「サンセット」を見てみてください。たぶん、ここまで来たら「ミッドナイト」まで見てしまうと思います。そして映画を見終わった頃には、話したかったことがあるのに、話せていない・伝えられてないことがある誰かのことを思い出しているかもしれません。そんなきっかけになったらいいなと思います。

(文:岩田 リョウコ)

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    ライタープロフィール

    岩田 リョウコ

    岩田 リョウコ

    アメリカ在住13年のライター・イラストレーター。元外務省専門調査員。コーヒーのトリビアをイラストで紹介するサイト「I Love Coffee」運営。著書に『シアトル発ちょっとブラックなコーヒーの教科書』などがある。 コーヒーと映画とサウナの時間が至福のリラックスタイム。映画は鑑賞後に何日も考えてしまうタイプが好み。 サウナ好きが高じてサウナ・スパ健康アドバイザー資格も取得。

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