映画『ソロモンの偽証』藤野涼子さんのように、役名が芸名になった役者たち

藤野涼子役を演じる女優・藤野涼子さん

思春期ともなると、女子の話題は好きなアイドルや連ドラの話など、エンタテイメントな内容がグッと増えてきます。それと同時に湧き上がる、芸能界への憧れと妄想…女の子だったら誰もが一度は通る道ではないでしょうか?

昨日、2015年3月7日に『前篇・事件』が公開された映画『ソロモンの偽証』で主演を務める藤野涼子さんも、芸能界に漠然と憧れを抱く普通の少女でした。芸能プロダクションに所属し、スポットライトを浴びる日を夢見ていた藤野さんですが、「これまでの代表作は『通行人』」と自らインタビューで語るように、仕事と呼べるような活動はほとんどなかったそうです。

そんな藤野涼子さんを見出したのは、映画『ソロモンの偽証』でメガホンを取った成島出監督でした。約1万人が集まったオーディションで藤野涼子さんを抜擢した理由を、成島出監督は次のように語っています。

「彼女は”映画女優”の顔をしていた」

ベテラン監督にここまで言わしめた彼女の存在は、まさに“奇跡”と言ってもいいでしょう。成島出監督をはじめとした映画『ソロモンの偽証』の製作チームは、そんな彼女に大きな期待を込めて、藤野涼子という役名を芸名にするよう提案したそうです。

「役作りに一層集中できるように」「彼女の代表作になるように」…そんな製作陣の願いを象徴するような申し出を、彼女はしっかりと受け止めました。「役をもらった時の初心を忘れない」という意味でも役名を芸名にして、女優への決意を確固たるものにしたそうです。

このように、デビュー作の役名をそのまま芸名にする俳優さんは結構いらっしゃいます。そして藤野涼子さんのように、未来を嘱望された新人や、強い運をお持ちの方が多いのも特長です。この記事では、「役名=芸名」の芸能人と、それにまつわるエピソードを紹介していきたいと思います。

「役名=芸名」のツートップといえば…!?

デビュー作の役名が芸名になった俳優として真っ先に思い浮かぶのが、今は亡き往年の名優・三國連太郎さん。そして、永遠のアイドル・松田聖子さんのお2人です。

まず、三國連太郎さんについてお話しましょう。三國連太郎さんのデビューは1951年、木下恵介監督の映画『善魔』で主役としてデビューを果たします。その時の役名『三國連太郎』を、そのまま芸名として使いました。

戦後の混沌期…商売に失敗した三國連太郎さんは、失意のまま銀座の街を彷徨っていました。東銀座に差し掛かった道すがら、松竹のプロデューサーに出会い「大船スタジオにカメラテストに来てくれないか」と頼まれます。困窮を極めていた彼は「電車代と飯代を出してくれるなら」と、その誘いに乗ったのですが、それが奇しくも”大物俳優・三國連太郎”が誕生するきっかけとなったのです。

しかし彼の運の強さは、この程度で収まりません。デビュー作となる『善魔』ですが、元々は有名な俳優さんが主演の映画として製作準備がされていました。しかしその俳優さんの出演が取り止めとなり、三國さんに主役の座が巡ってきたのです。

もし彼が事業に失敗していなかったら、松竹本社のある東銀座を歩かなかったら、主役俳優の降板がなかったら…全てが偶然のようなエピソードですが、どれか1つでも欠けたら、三國連太郎という俳優は存在しなかったことでしょう。
そう考えると、やはり彼は”俳優になるべくしてなった”人間なのかもしれませんね。

三國連太郎 松田聖子

一方の松田聖子さんですが、彼女もまた芸能の星の下に生まれた女性と断言できるエピソードをいくつも持っています。

藤野涼子さんや多くのティーン同様、松田聖子さんも芸能界に憧れる少女の1人でした。高校1年生の時に『ミス・セブンティーンコンテスト(CBSソニー主催)』の九州大会にエントリーしました。そして見事優勝を果たしますが、ご両親…特にお父様に反対されて全国大会への参加を辞退してしまいます。しかしその後、聖子さんの歌を聴いたCBSソニーのディレクターさんが「この子は絶対売れる」と確信し、彼女のスカウトに乗り出しました。

ご両親の説得を経て、やっと上京した松田聖子さんでしたが、デビューまでには多くの壁がありました。彼女の所属事務所『サンミュージック』は当時、大々的に売り出したい新人歌手がいて、社をあげてプロモーションに奔走していました。誰も聖子さんが売れるとは思っておらず、芸名も『新田明子』という名前が命名されました。しかもこれ、期待の新人歌手の為に用意されたものの、選ばれずにボツになった名前だったそうです。このエピソードからも、松田聖子さんに対する期待の低さが伺えますね。

しかし、運命の女神は強烈な微笑をもって、彼女を芸能界へといざないます。まず、件のイチオシ新人歌手がタイアップソングを歌う予定だったシャンプーのCMが、スポンサー側の事情により白紙になりました。宙に浮いたプロモーションの予算は、聖子さんのデビューに使われるという急展開を迎えます。

そして同じ頃、時のスーパーアイドルだった事務所の先輩・太川陽介さん主演のドラマ『おだいじに』で、太川さんの恋人役で出演することが決まったのです。その時の役名が『松田聖子』でした。

『新田明子』という芸名に対し、本人同様ピンと来なかったのは、サンミュージックの当時の社長・相澤秀禎さんでした。「予算を使って彼女を売り出す以上、縁起のいい名前を」と、改めて命名されたのが『松田聖子』だったのです。事務所お抱えの姓名判断師に名付けてもらったそうですが、相澤社長も彼女も非常に気に入り、出演を控えた『おだいじに』の役名にしてもらうことにしました。

しかも、この出来事で特筆すべきは、三國連太郎さん同様”代役”での出演だったということです。もし、最初にキャスティングされた女優さんが降板しなかったら、松田聖子という時代の寵児は生まれなかったでしょう。そう考えると“役名=芸名”の俳優は、ものすごく強い運を持っているのかもしれませんね。

オーディション後、主役名=芸名になった俳優達

さて、約1万人の中からオーディションで主役に抜擢された藤野涼子さんですが、その状況と良く似ているのが早乙女愛さんです。1974年、週刊少年マガジンに連載されていた『愛と誠(梶原一騎さん原作)』の映画化にあたり、ヒロイン・早乙女愛役のオーディションで選ばれたのが彼女でした。そして主役の誠を演じたのは、今も現役で活躍中の超ド級アイドル・西城秀樹さんです。そのせいでしょうか、オーディション応募者は何と4万人!大抜擢された早乙女さんの人気は絶頂を極め、彼女の元には1日に400通ものファンレターが殺到したそうです。

『愛と誠』は、”孤独で凶暴な不良”と”ブルジョワ令嬢”の恋物語という昭和の王道シチュエーションで展開された名作でしたが、約40年後の2012年には三池崇史監督がリメイクして話題になりました。誠役は妻夫木聡さん、愛役は武井咲さん、しかもミュージカル映画としてカンヌ国際映画祭で上映されたことでも有名です。この快挙に、天国の早乙女愛さんも喜んでいることでしょう。

早乙女さんの他にも、河合美智子さん、浅香唯さんなどがオーディションで抜擢された主役名をそのまま芸名として使ってらっしゃいます。

特に河合美智子さんは『オーロラ輝子』という別キャラもお持ちですが、『河合美智子』『オーロラ輝子』ともに役名=芸名となった珍しいパターンです。

河合さんは1983年、映画『ションベンライダー』の主役オーディションで優勝し、役名の『河合美智子』をそのまま芸名にしました。当時から歌も上手だったようで、映画の主題歌『わたし・多感な頃』で歌手としてもデビューを飾りました。

その歌唱力は、1996年のNHK連続テレビ小説『ふたりっ子』に登場する演歌歌手『オーロラ輝子』役の出演に一役買うことになります。これが大当たりで、ドラマ内で歌った『夫婦みち』は85万枚超えの大ヒットとなり、翌年は『オーロラ輝子』として念願の紅白歌合戦にも出場を果たしました。

マンガの主人公名=芸名の俳優たち

3代目スケバン刑事Ⅲ(風間三姉妹)として一世を風靡した浅香唯さんも、役名=芸名の1人です。と言っても、浅香さんのデビューは女優のオーディションではありませんでした。1984年、少女マンガ誌『少女コミック』に連載されていた『シューティング・スター』というマンガの主人公・浅香唯のイメージガールを探すオーディションで、グランプリを受賞したことが芸能界に入るきっかけとなりました。

キュートなルックスの浅香唯さんですが、実は芸能界に全く興味がなく、副賞の赤いステレオが欲しくてオーディションに応募したそうです。そのせいか、オーディションでは歌も演技も断って周りを騒然とさせたそうですが、マンガの原作者で審査員もであった大山和栄氏が「この子しかいない」と、浅香唯さんを強く推したそうです。

そういえば、スケバン刑事Ⅲの主題歌で、彼女の歌う『STAR』という曲のサビには、「シューティング・スター」という言葉が何度も出てきます。デビューのきっかけ&芸名の由来となったマンガへのオマージュなのかもしれませんね。

他にも、天地真理さんや柴崎コウさんが、マンガの主人公を芸名にしたことで知られています。

『天地真理』という芸名の元ネタは、『愛と誠』と同じく梶原一騎さんの原作『太陽の恋人』のヒロインです。梶原一騎さんの元には、彼女の所属事務所である渡辺プロダクションから「今度デビューするタレントに、天地真理の名前をつけたい」といった主旨の申し出があったそうです。ちなみに天地さんのデビューは、国民的人気ドラマ『時間ですよ』の”隣のマリちゃん”役。やはり役名=芸名ですね。

柴咲コウさんは、かわかみじゅんこさんが描かれた『ゴールデン・デリシャス・アップル・シャーベット』というマンガのヒロイン・”柴崎紅”から芸名を拝借したそうです。どうやら、本名はとても地味な名前らしいです(笑)。

彼女も、前出の河合美智子さん同様、映画『黄泉がえり』で、歌手・RUIとして『月のしずく』というCDをリリースしていますよね。筆者もこの映画が大好きですが、その理由として、RUIさん歌う『月のしずく』の美しい旋律が、物語の切なさとリンクして、作品をさらに盛り上げているという点が挙げられます。『月のしずく』は累計出荷枚数90万枚の大ヒットとなり、映画『黄泉がえり』の集客にも貢献しました。

ちなみに、CDの歌詞カード等には『柴咲コウ』の表記は一切無く、彼女が歌手『RUI』になりきって歌にも演技にも打ち込んだことが伺えます。

せっかく音楽の話になったので、番外編として氷室京介さんのお話を少し。俳優ではありませんが、氷室京介さんもマンガの主人公から芸名をつけた芸能人の1人です。その芸名は、1981年にバンド『暴威(後のBOØ WY)』の結成時、真樹日佐夫さん原作の『ワル』という漫画の主人公『氷室狂介』にルックスが似ていたことに由来するそうです。しかしその3年後、とある占い師に「名前に”狂“という漢字を使うのは良くない」と言われ、”京介”に改名したそうです。

役名がそのまま芸名になった俳優さん、タレントさんは他にもたくさんいらっしゃいますが、今回は藤野涼子さんと同じように「主人公としてデビューした役名を、そのまま芸名にした芸能人」という括りで紹介してみました。

いかかでしたでしょうか?それでは次回、またお会いしましょう。

(文・イラスト/大場ミミコ)

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