お正月に独りで観たい映画!?『ポセイドン・アドベンチャー』

■「キネマニア共和国」

前回「クリスマス・イヴに独りで観たい映画」を記したところ、あちこちから「何を暗いこと書いてんだ!」「もっとポジティヴに生きろ!」「親が泣いているぞ」などなどのお叱りを受け、いたく反省はしているものの、悔い改める気も毛頭ありませんし(⁉)、だいたいクリスマスに孤独な奴(即ち私)は正月だって孤独なんだよ!ってことで……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~vol.88》

勝手に第2弾、いきます!

転覆した豪華客船からの
脱出を描いたパニック映画

何となく華やかな気分にならないわけでもないお正月に独りで見るにふさわしい映画の筆頭となると、やはり『ポセイドン・アドベンチャー』(72)ではないでしょうか。

カウントダウンを終えて新年を迎えた直後の豪華客船ポセイドン号が高波によって転覆し、中の乗客が決死の脱出を試みる1970年代パニック映画ブームのきっかけともなった超大作です。

キャストもジーン・ハックマン、アーネスト・ボーグナインなどのオールスター・キャストで、天地さかさまになった船内を、船底に向かって上へ上へと昇っていく中での数々の危機と、それによって次々と尊い命が奪われていく無慈悲な展開、それでいて主人公が牧師というのも皮肉な設定で、まさに神も仏もいない現実の地獄をいかに生き延びるかというサバイバル劇は、人生そのものの縮図ともいえるでしょう。

監督は『泥棒貴族』(66)『クリスマス・キャロル』(70)などイギリス映画界のベテラン、ロナルド・ニームで、彼は後に巨大隕石が地球に落下する危機を描いたパニック映画『メテオ』(79)も撮っています。

なお、本作は後にプロデューサーのアーウィン・アレン自らがメガホンをとって『ポセイドン・アドベンチャー2』(79)を完成させています。

こちらは転覆したポセイドン号にプルトニウムがひそかに積み込まれていたという設定の下、船に乗り込んでお宝をいただこうとする連中と、プルトニウムを奪おうとする連中との戦いが描かれており、パニック映画というよりも冒険活劇的な味わいのものになっています。

また、さらには『U・ボート』(81)のウォルフガング・ペーターゼン監督でリメイク『ポセイドン』(06)も製作されていますが、できればオリジナル版のほうを先に見ていただきたいというのが本音です。

パニック映画とお正月は
相性がいい⁉

個人的にパニック映画とお正月は、妙に相性がいいのではないかと思っています。

現に、その名のごとく『日本沈没』(73)や、旅客機コクピットにセスナ機が激突する『エアポート75』(74)、言うまでもない『大地震』(74)、動物パニック映画の元祖『ジョーズ』(75)、細菌兵器に侵された列車の危機を描く『カサンドラ・クロス』(76)など、日本では正月映画として公開されたパニック映画は多数ありましたし、『ポセイドン・アドベンチャー』や超高層ビル火災の恐怖を描いた『タワーリング・インフェルノ』(74)などの70年代製作パニック映画は年末年始のテレビ放映の定番でもありました。

70年代のパニック映画は総じてオールスター・キャスト、特に往年の大スターが大挙しているものが多く、その意味でも映画ファンになりたての頃は、こうした作品群を見てスターの名前を覚えるといった愉しみもありましたし、また劇中誰が死に、誰が生き残るのかといった不埒な興味もありました。

それに比べると、最近のパニック映画はスターというよりもアクター中心の布陣となって久しく、リアリティはあるでしょうが、どうにも華やかさに欠けるきらいはあります。

(また、東日本大震災など災厄に見舞われることの多い日本では、あまりリアルに描出されたものよりも映画的虚構性の高いもののほうが受け入れられやすいような気もしています)

そういったスターの華やかさと、大災害の恐怖を描く見世物性とのドッキングは、新年を迎えてリセットしたばかりのこちらの心に、あたかも厄払いの儀式でも見せられているような感覚に陥ることもしばしで、鑑賞後のカタルシスはたとえようもないほどです。

などなど考えていくと、このパニック映画、大勢で見ても楽しいかもしれませんが、それをあえて独りで見ると、なかなか思うようにいかない人生の機微というものを、より痛感できるのではないかとも思われます。

(そういえば、こういった大災害など極限状況に直面したとき、日本人の90パーセント以上は自分も死ぬと思うらしいのですが、アメリカ人の90パーセント以上は自分は生き残ると思うそうです)

いずれにしましても、年末年始の深夜とか、ぜひともお独りさまでパニック映画体験やってみてくださいませ。

(本当は映画館で観たいですけどね)

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(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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