映画コラム

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2018年02月07日

綾瀬はるかの魅力が全力で引き出された「ロマンス劇場」ラストの“秘密”

綾瀬はるかの魅力が全力で引き出された「ロマンス劇場」ラストの“秘密”



​©2018 映画「今夜、ロマンス劇場で」製作委員会


人が人と関係を作ろうとするとき、言葉は欠かせないもの。それが恋愛となればそれこそ歯の浮くような、後から思い出してみると顔から火が出そうな恥ずかしい言葉を並べていたりするもの。

そんな恋愛をドラマや映画として物語にして人に伝え・見せるとなればそれこそ言葉の嵐となります。

人の営みと言葉は切っても切れない関係なのかもしれません。

今の映画、ドラマはまさに言葉の奔流の中に


いま、物語のヒロインではなく、“ヒロイン物語のヒロイン”として見る側も作る側も安心して主役を任せられる女優といえば新垣結衣、石原さとみ、そして綾瀬はるかでしょう。

ガッキーこと新垣結衣は一昨年の「逃げるは恥だが役に立つ」の社会的な大ヒットから昨年は「コード・ブルー―ドクターヘリ緊急救命-3rd. season」を挟んで久しぶりの映画主演作『ミックス。』もスマッシュヒットを記録。「コード・ブルー」の劇場版も今年の夏休みに待機中です。

最終回 夫婦を超えてゆけ



一方の石原さとみも昨年は映画『忍びの国』を経て一昨年にヒットした連続ドラマ「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」のスペシャル版「地味のスゴイ!DX(デラックス)」、そして「逃げ恥」の脚本家野木亜紀子と組んで「アンナチュラル」も好評です。

第1話 名前のない毒



今、こんな具合に二人の最近作挙げてみましたが、それぞれを思い出してみると、多くの言葉が飛び交っていたことでしょう。

最近 “心の声をモノローグで語り切る”という演出手法が流行っています。物語の行間も全部語り切っているので説明しすぎな作られ方にはいろいろと意見もありますが、この流行もあって本当に言葉の奔流に飲み込まれそうです。

「アンナチュラル」は不自然死の謎を解明する法医解剖医が主人公のサスペンスドラマですが、石原さとみは“このドラマは会話劇”だと直前の番宣コメントで言い切っています。

おっとりしたイメージとは裏腹に


この二人同様、作品の一枚看板として安心して主役を託することができる女優といえば綾瀬はるかでしょう。

最近でも映画昨年の『本能寺ホテル』、ドラマ「奥様は、取り扱い注意」、2016年から続く大型企画「精霊の守り人」などなど話題作が続いています。

第1話



これらの作品を見ると綾瀬はるかが演じるヒロインは、セリフは少なめ、表情も少なめ、一方でアクションが多めという独特の“彼女の色”を感じることができます。

バラエティなどで見せる天然さでおっとりした雰囲気の彼女を見ていると意外な感じもしますが、彼女のアクション・身体能力の高さはなかなか本格的です。

映画で言えば『ICHI』の仕込み刀捌き、会津戦争編では火縄銃を片手に駆けずり回り大河ドラマ「八重の桜」、東南アジア武術のカリ・シラットを学んで元特殊工作員の主婦を演じた「奥様は、取り扱い注意」、“短槍使いのバルサ”を演じた「精霊の守り人」などなど彼女のアクション女優ぶりはなかなか見応えがあります。

身体能力が高いと喜劇的演技が変なドタバタ演技に見えずにメリハリの利いた演技に見えるというところもポイントが高いです。また、このことは仕草だけでものをしっかり表現できるということにもつながります。

残念ながらまだ綾瀬はるかは演劇やミュージカルでの出演作がないのですが、舞台にも積極的なホリプロに所属しているので、いつかはステージ上で躍動する彼女の姿も見てみたいものですね。

少ない表情、少ないコトバで多くを語れる綾瀬はるかの魅力。


そして、彼女の一番の魅力が少ないセリフと少ない表情で多くを語れるところではないでしょうか。

「精霊の守り人」は寡黙なキャラクターなのであまり参考にならないかもしれませんが、例えば映画で言えば『海街diary』『僕の彼女はサイボーグ』『リアル~完全なる首長竜の日~』など、ドラマで言えば「南極大陸」「わたしを離さないで」(今年のノーベル文学賞作家カズオイシグロ原作)などなどを見ていくとセリフの少なさとそのセリフの短さ、そして表情の少なさとその一つの表情の長さを感じられるはずです。

徐々に、少女的なキャラクターから見守る側・大人の女性の役どころを求められるようになってきたこともありますが、いわば“引き算の演技”といえばよいのでしょうか、物語のど真ん中にいながら劇中では全体的に受け手に回っています。それでいて彼女は変わらず物語の牽引役であり続けてもいます。

そんな、彼女の魅力を改めて実感できる作品が映画『今夜、ロマンス劇場で』です。



​©2018 映画「今夜、ロマンス劇場で」製作委員会



綾瀬はるかの魅力を堪能するなら、 “今夜、ロマンス劇場で”


舞台は1960年代の日本。当時の日本映画はいわゆる黄金期の後半、少しずつ映画産業が廃れ始めてきた時代です。

中堅映画会社でいつか監督を夢見る万年青年助監督健司(坂口健太郎)。彼は行きつけの映画館ロマンス劇場で見る(60年代当時としても)古臭いモノクロオペレッタ映画(庶民向けの軽いタッチの軽歌劇・喜歌劇)『お転婆姫と三獣士』のヒロイン美雪に夢中です。
そんなある日、ロマンス劇場に雷が落ち停電が発生、明かりがついた時にはそこにスクリーンの中の存在のはずの美雪の姿があって…。

お姫様美雪は『ローマの休日』のオードリー・ヘップバーンを彷彿とさせる外見とは裏腹に“お転婆姫”という言葉通りほうきで健司を殴るは、瓶で警官を殴るはとかなり無茶苦茶な性格です。

そして何よりモノクロ映画の世界から飛び出てきたので彼女には色彩がないままなのです。そう、彼女はスクリーンの向こうからこちら側を見てこちらの色彩に溢れた世界に憧れていたのでした。



​©2018 映画「今夜、ロマンス劇場で」製作委員会


ここで映画のマジックというか演出や加工が使われていてスクリーンのこちら側の60年代の日本は少し過剰なほどに色彩が溢れています。健司の仕事が映画の助監督ということもあって映画スタジオが多く出てきたりして色彩が当時の一般社会より多くはありますがそれにしてもカラフル過ぎます。

60年代の日本がこんなに色とりどりなわけはありません。これは美雪の憧れがプラスαとして風景に加味されたというところでしょう。王宮とハリボテの森しか知らない美雪にとって色とりどり、そして今まで見たこともないモノがあふれるこちらの世界では見るもの・聞くもの・触れるものすべてに新鮮な驚きに溢れています。

この時、美雪扮する綾瀬はるかはその新鮮な驚きをほとんどセリフを発さずに表情だけで語り切ります。

驚きと喜び、焦りと戸惑い、切なさと悲しさ、本人のセリフも周りの人間の状況説明的なセリフの手助けもなく綾瀬はるかは美雪の感じたことの多くのことを見る側に伝えてくれます。



​©2018 映画「今夜、ロマンス劇場で」製作委員会



特にラストに描かれるシーンには要注目。ネタバレを避けますので曖昧な表現にはなりますが、ここまで書いてきたことについてご納得頂けるかと思います。

彼女の表情とそこからにじみ出る思いをたっぷりと味わえる『今夜、ロマンス劇場で』を是非劇場で堪能してみてください。

(文:村松健太郎)

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